第44話・年齢詐称ごめんなさい


(でも……)


「ソラルダットには心に決めた女性がいたんじゃないの? わたくしとは添い遂げる気はないと言ってたわ」

「あれはきみがトゥーラ王女だと思ってたからだ。最初に気がついてれば、きみを傷つけることもなかったのに。僕が結婚したいと思ってたのはきみだけだよ。アデル」 

「本当に? リスバーナが敗戦して王女との婚姻をマクルナ国王が望んでいると聞いたわ。相手はトゥーラではなかったの?」

「違う。僕が望んだのは初めからきみだったよ。ただ、僕は誤解していてアデルは幽閉された身とは知らなかったんだ。リリーはきみを姫さまと呼んでいたし、古城には静養で訪れてたとばかり思っていて、国王になってからきみを迎える為にリスバーナを訪れたら、侵攻してきたと誤解されて、ご覧のとおりさ」


 ソラルダットが、後はきみも知る通りだと言う。アデリアーナはマクルナ王国に嫁ぐ事になった経緯を振り返りながら、もしや。と、ある可能性に思い当たった。


「もしかしてだけど、マクルナ王国はリスバーナには侵攻はしてないの?」

「ああ。リスバーナ北国には使いを出しただけだ。国境付近に駐屯地を築いて滞在していたら、なぜか侵攻して来たことにされ、勝手に降伏してきた。話が分かる者を求めて王城入りしたら、なぜか皆もぬけの殻で、そこに残っていた宰相に王女をもらい受けたいと申し出たら、きみがトゥーラ王女としてやってきた」


 ソラルダットはアデリアーナの本名を知らなかった。子供の頃はアデルという愛称で呼んでいたからだ。リリーがアデリアーナを、姫さまと呼んでいたことで、リスバーナの王女と信じて疑わず、宰相には「リスバーナの王女との婚姻を望んでいる」と、伝えたことで、現王の娘、トゥーラを求めていると誤解されたのだろう。


(とんだ勘違いだったわね。トンスラ宰相)


 それにしてもソラルダットから聞かされた、リスバーナの兵たちの実に頼りないこと。

 マクルナ国側から遣いが来た時点で、なぜ確認しないのか? いきなり降伏って情けなさすぎる。国を守る為の国境警備隊の兵がそれでいいのか? 


(お父さまの頃と違って、あまりにもずさんだわ)


 マクルナ王国が侵入して来たと思い込み、いち早く逃げた現王一家。主君に臣下は似ると誰かが皮肉って言ってた気がする。誰もが我先にと逃げ出すなか、独り残された宰相には気の毒だけど、でも……。


(宰相もそそっかしいのよね)


「婚姻話が調って行くなか、王女の噂を聞きつけてきた者の報告で、僕が求めているアデルとは別人だと分かった。宰相に断ろうとしたら連絡がとれないし、やってきた花嫁本人に直接断ろうと思ってたんだけど、きみの花嫁姿を見たら愛らしくて、手放すのが惜しくなった。あまりにも綺麗になっていて心が揺さぶられたよ。アデル」

「ソっ。ソール?」


(距離が近いんですけど……)


 隣に座っていたソルトダットが、アデリアーナとの距離を詰めて来る。アデルはこれから何かが起こりそうで、そわそわした気持ちを抑えられそうになく、ソラルダットに近い側の手を取られて舞い上がりそうになった。


「きみに会った時から初めて会った気がしなかったんだ。所々面影があの頃のアデルと重なる部分もあって、気になっていた。だけどトゥーラ王女は十四歳と聞いていたし、年齢的に合わないかなぁ。と、思ってね」


 責める様な目に、アデリアーナは苦笑を浮かべた。声が震える。


「ごめんなさ~い。年齢詐称してましたぁ」

「きみにはどきどきさせられたよ。十四歳の可愛らしい少女かと思えば、急に大人びた顔を見せて目が離せなくなる」


 ソラルダットがアデリアーナの手に口付けを落とす。その余韻が残っているうちに、アデリアーナの頬に顔を近づけてきた。


「あの時の返事聞かせてもらってもいいかな?」

「ソール」


 耳元で甘く誘うソラルダットの視線に耐えられなくなったアデリアーナは、逃れる様に脇へと目をやって、自分達を見つめる視線の存在に気がついた。


(誰か見てる? 覗き?)


「ちょっと待って」

「アデル?」


 近付くソラルダットの顔を押しやって、そちらを見やればベランダから幾つもの目とかち合う。女官たちが我先にと、ベランダの外から自分達の様子を見ていた。その後ろには皆を止めようとしたであろうトリアムやリリーの姿も見えた。


「きゃあああああああ」


(いつから見られてたの? 恥かしい~)


 みんなにソラルダットとの様子を外から見られていたと知り、真っ赤になってその場に屈み込んだアデリアーナをその場に残し、ソラルダットは窓へと近付いた。


「どうも視線を感じると思えば……」


 シャッ。レールを滑るカーテンの音がして、外からの視線が遮られた。部屋のなかのカーテンが全て閉められる。


「仕切り直しだ」


 ソラルダットは、壮大なため息をついた。



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