第38話・思いがけない侵入者


 がた。がた。がた…

 布団のなかで何度か寝がえりをうっていたアデルは、妙な物音を聞いたような気がして、首を音がしたベランダの窓の方へと巡らした。窓ガラスが震えている。


(風のせい?)


 このマクルナ国では、山脈に阻まれたリスバーナ北国とは違って、吹き下ろしのような強い風が吹き荒れる様な事は滅多にない。風によって窓ガラスが鳴るというのは有り得ない現象だ。

 静かな夜に射しこむ月明かりによって、物言わぬ家具たちの存在が明らかにされていた。今宵は満月。寝室の蝋燭は消えていたが、明かりは必要ないくらいに辺りの様子はみてとれた。

 ガラスが鳴る音は鳴りやまない。その音に違和感を覚えながら観察してると、そのうちに窓が開閉する音がして、アデルは部屋に何者かが侵入してきたのだと理解した。


(誰? 誰なの?)


 アデルの部屋のドアの外では警備の兵がついていてくれるが、存在のしれない相手と同じ空間にいるというのが恐ろしい。相手の目的は知らないが、アデルの寝ている寝台に近付いて来る。このままでは侵入者に何をされるか分からない。身の危険を感じてアデルは部屋の外へ助けを求めようとした。


(警備の兵に助けを求めて……)


 布団から顔を出したアデルに向かって、侵入者が声をかけてきた。その声には攻撃性のようなものは感じられない。あくまでも確認といった風にかけられた。


「誰かそこにいるのか?」


(しまった。ばれてしまったわ。あれ。でもこの声は……)


 月明かりを受けて佇む男の姿にアデルは啞然とした。背が高くて顔が小さくて男前で素敵な男性って。


「へ。陛下ぁ?」


(また。またなの~)


 どうしてこの御方はこうなんですか? 突飛な登場でいつもわたくしの心臓はどきどきばくばく進行中ですよ。アデルは警戒を解いてベットから降りると、ソラルダットの側に近寄った。堅物陛下ならば、自分に何か気害を与える気なんてないのは分かってる。


「こんな時間にどうなさったのですか? 何か御用ですか?」


 アデルが問うと、ソラルダットはふっふっふ。と、笑った。


「王女だ。王女がいたぁ」

「はい。いますよ。ここはわたくしの部屋ですから」


 どうもソラルダットの様子がおかしい。いつもと感じが違ってみえる。足もとがふらついているようだし。と、思った所で、がばっと抱きつかれた。


「陛下。いったい何なんですか?」

「ん~? いい匂いだぁ」


 くんくんと首筋に顔を寄せられて、アデルは気がついた。


(うわあ。お酒臭い)


 相当の量を飲んだのだろう。ソラルダットは酔っているようだ。口調もなんだかおかしい。

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