第7話・報告と違う姫

「陛下。それはリスバーナの王女さまにお持ちしたお食事では?」

「ハロルド」


 ソラルダットは、背後から声をかけられ振り返った。白金の髪に、女性受けしそうな顔立ちをした灰色の瞳の持ち主が、ソラルダットの手にしたお皿と、バスケットの中味に気がついてにやにや笑っている。


「陛下自ら運ばれるとは、さてはあの王女さまに本気で惚れましたか? 可憐な王女さまでしたね」

「親切にして悪いか?」


 先ほど対面した蜜色の髪した愛らしい少女と、少女を守るように警戒していた赤毛の侍女を思い浮かべた。ふたりは今、休憩をとらせている。

 リスバーナ北国から押しつけられる様にしてやってきた花嫁というのが、ソラルダットの見解だったのだが、やってきた花嫁は、密偵が聞きつけてきた王女の特徴とは遙かに異なり、美しい少女だった。

 偽者かと疑ったが、立ち振る舞いが優雅で華がある。とても替え玉とは思えなかった。政略結婚といえば、他国では王女を出し渋り、偽者を送ってくる国もあるそうだが、その場合良く聞くのは、本人よりも血筋や容色が劣る人材を用意する例であり、本人よりも優れた替え玉を用意するなんて聞いたこともない。


(恐らく密偵が見誤ったとしか思えぬ)


 リスバーナ北国は極寒の国。今までどの国にも征服されずに残って来た国だ。それがあっさりと降伏し、マクルナ国に投降してきた。あの国の意図が分からない。どこか得体の知れない不気味さを感じさせる国だ。


(あの王女はそんな国とは関連がなさそうな、愛らしさに満ち溢れているのだが)


 思いまどうソラルダットに、ハロルドがからかうように言う。


「おや。お悩みごとですか? 戦地では黒豹王と恐れられる王も、女性攻略には苦労されているらしい」

「放っておけ」


 面白くなさそうな顔をしたソラルダットの手から、ハロルドがお盆を引き取った。ひと前では、ソラルダットを立てているハロルドだが、二人きりでいるときは遠慮がない。

 ソラルダットが目的を果たすまでに、お茶が冷めてしまう事を懸念したらしいハロルドは、後は自分がと引き受けた。


「堅物陛下の代わりに、俺が行ってきますよ」


 陛下自ら相手に探りを入れるよりも、自分が探りを入れた方が自然でしょ。と、いうことらしい。確かに相手も敵国の国王を相手にするよりも、近衛兵のハロルドの方が話しやすい相手だろう。ハロルドは愛想が良くて、相手の警戒心も薄れやすい。

 侍女の態度から見るからに、自分が行っても相手に緊張を与えるのは明かだった。


「ああ。頼む。失礼のないようにな」

「分かってますよ。当初の予定とはずいぶん異なってしまいましたが、この後どうしますか?」

「王女からなるべく目を離すな。しばらく側に置いて様子を見る」


 ソラルダットの判断に、ハロルドは御意。と、片目をつぶって後を引き受けた。その後をほっとしたように見送ったソラルダットは、アデルとの対面で使った指揮官の部屋に引き返した。



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