第8話 勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている

 次の日になった。まだ体が疲れているのだろう…私はなんとか目を覚まして朝ごはんを食べている。ギルド長のレオナードさんがやって来て、食後でいいのでギルドの受付前で待っていてと言われた。


 なんだろう…? まぁ、待てと言われたので待ちましょう。


 ギルドの入り口のドアが開いた。あれは…見たことがある彼らが駆け寄ってきた。


「お姉ちゃん!」

 エドワーズさんとジャレントくんが抱き着いてきた。私も嬉しさの余り彼らを力いっぱいに抱きしめた。

「ソシエさん、よくぞご無事で!」

「ふたりに会えて嬉しいよ…もう駄目だとおもったから」

 全員は助けられなかった。でもふたりが生きていたので本当に良かった。


「ふたりとも今までどこに?」

「俺達ふたりは、無人島の件で調査協力と埋葬の手伝いさ。船長さんが用意してくれた宿屋に泊まっている」

「埋葬…」

「私も彼らのお墓に行きたい…」

 彼等に案内してもらった。ここね…。

 私は片膝をつき目をつぶった。


「あんな魔物を生み出した魔王を許さない。必ず倒して平和を取り戻します。だから見守っていてください」

 そう墓前で誓っていると誰かの気配を感じた。


「やぁ…ソシエ。おはよう…ギルドに迎えに行ったがいなかったのでな。ここにいると聞いて…」

「勇者様…おはようございます…」

「俺もお祈りさせてくれ。俺も到着が速ければなと思うところがある」

「…」

 そうか…待ち合わせは勇者様とだったか…。


「今から王様に謁見する予定なのだが…ついて来てくれるか?」

「わかりました」

「昨日の…冒険の話は信じていいんだな?」

「えぇ…私は…魔王を倒したい…でもひとりでは無理…」

「わかった…」


 その後、エドワーズさんとジャレントくんと話して、ふたりとはここでお別れだ。彼らはハイランドに少し滞在するらしい。

 そして、私と勇者様は城へ向かった。いよいよ王様と謁見か…ドキドキする。どんなところだろう。


「オーガス王、ディナードです」

「うむ、久しぶりじゃディナード。今日は何用じゃ」

「はっ、魔王討伐の旅に出かけようと思います」

「もう何度目かの…」

 えっ…そんな扱いってある? 何度目? どういうことなの…。


「私が王宮の勇者として正式に就任し1年が経過しました。何の成果も出せず申し訳ありません。私の見る目がなく、過去の参加メンバーは不適切な者達ばかりを選んでしまいました。支度金目当てで逃げた者。戦いのレベルについていけない経歴詐称者。私の装備を盗んでいく者…」

 遠い目をしながら語る勇者様は寂しそう……。というかなかなか酷い話だ。


「私もまだまだ勇者としては未熟です。ひとりでは旅はできません。強くなるためにはパートナーが必要です。ここにいる彼女なら期待できます。無人島で生き残った賢者ソシエです」


 言い終わった後、王様は私の目をじっと見つめてくる。勇者様を見るのと違い、澄んだ優しい目をしている。すい込まれそう。

 王様はなるほどという感じで軽く頷く。慌てて私は王様へ挨拶する。


「お初にお目にかかります。ソシエと申します」

「そなたが賢者ソシエか。ギルドからの報告もうけている十分な強さだと」

「わしはな、魔物に殺された娘の仇をどうしてもとりたい。そのためならどんな手助けもするつもりじゃ」

「しかし…出発したと思ったらすぐに帰還の報告は…もう沢山じゃ」

「もう、何度も裏切られておる。故に他人の報告は信用ならぬ」

「今後、魔王討伐のメンバー選びはわしが行う!」

「ソシエとやら。わしの選りすぐりの王宮の戦士と魔術師に勝てたら同行を認めよう」

 腕試しの展開になってしまいましたか!


 訓練場へ一同移動し、これから戦いが始まる。移動中に勇者様にスマンと両手を合わせて謝られた。大丈夫ですよ、戦えることを証明するだけ。

 戦いの場で待っていると王宮の戦士と魔術師がやって来た。よし…事前に魔法で戦闘力を調べてみよう。戦士220、魔術師233。なるほど…一般人よりははるかに強い。


「まずは、戦士から戦ってもらおう」

 王様が言った。

「まとめて来ていただいてかまいませんよ」

 ここは、度肝を抜いてあげようかな。明らかに彼らは不機嫌そうな顔になる。

「ふむ…ソシエがそれでよければ構わぬ。はじめよ!」

 王様の合図で戦いが始まった。


「俺は王宮の騎士 切り込み隊長ブライラス!」

「私は王宮の魔術師 副師長モイラ!」

「私は賢者ソシエです。よろしくお願いします」


 嘗められたのに腹を立てているのか足元がお留守ですよ!

 “はぁぁあああ” 私は素早く氷結を詠唱し、辺り一帯を凍らせた。

 彼らはバランスが取れずに転倒した。

 追加で魔法を詠唱、彼らの周囲を土の属性を帯びた鋭い魔力の槍で囲んだ。よし…これで身動きは取れなくなった。

 そして、ゆっくりと自分の体を魔法で空を飛んで見せた。そして、彼らの真上でピタリとわざとらしく止まった。両手を彼らに向かってゆっくりと閉じていく。すると、土の槍も私の指の動きに合わせてゆっくりと彼らに迫る。ふたりともひぃぃいと言って腰を抜かしている。もう、戦意喪失していると思う。


 もぅ、ここまでですよと意味を込めて王様をちらりと見る。

 王様も頷いた。


「そこまで!」


 パチンと指を鳴らし魔法を解除した。彼らは安堵した表情だ。さて、私はゆっくりと着地して、勇者様の元に戻った。彼も満面の笑みで掌を向けてきたので、お互いの手を叩きあう。心なしか王様から“ほう…”と感心したような声が聞こえた気がした。


「ソシエ、疑って悪かった。そなたなら期待できるな」

「勇者ディナードよ! 賢者ソシエを連れて魔王討伐に出発するのだ!」

「ははっ!」

「早速じゃ、グラスローの塔へ行ってもらいたい。ディナードは知っておろうが魔物が占拠しておる。重要な監視拠点である。奪還を頼む」

「承知いたしました」

「ソシエよ。先ほどの魔法はすばらしかった。疑ったお詫びに武器を授けたい。魔術師長の杖じゃ」

「王! それは、我らの伝統ある武器でございますぞ!」

 側近の方が王へ進言した。


「馬鹿者! 武器は使われてこそ意味がある。魔術師長が倒れた後、未来を託せる人物に授けると決めていたのじゃ!」

「はやく持ってくるのじゃ!」

「ははっ!! 申し訳ありません!」


 しばらくして、箱に入った魔術師長の杖が運ばれてきました。


「ソシエよ! 王家に伝わる魔術師長の杖を授ける。勇者ディナードと共に魔王を討伐せよ!」

「はっ! ありがたく頂戴いたします! 必ず、魔王テンダエルを倒すことを誓います!」


 あっ…またベルスの彼の声が聞こえて来た。


 ――よし、ソシエよくやったぞ。これで勇者と魔王討伐に行ける。まずは目的を達成だな…。


 はい、ありがとうございます。


 ――ソシエの武器が弱すぎたからな、これは助かる。この杖はまあまあの出来だ。しかし、この国は魔王の城から一番遠い国。だから敵も弱い、人も武器も強くない。まあ、仕方ないだろう…。


 えーそうなのですね…。


 ――旅をしていればもっといい装備も仲間にも出会える。必ず俺は、ベルスの体を取り戻す。そのためにはなんでも利用してやる………。


 なんでもか…でも、私が表にでている間は…あまり変な事しないように…気を付けないと…。彼は味方なのだろうけど…なんでもと聞くと…ちょっと心配になってくる。

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