ハイランド王国編
第7話 ここがハイランド王都?
コンコンとノックの音がした。
「失礼するよ」
あっ…さっきの人…確かディナードと言っていた。それに若い女性と年季が入ったおじさんも一緒に…なんだろう。
おじさんが話しかけてくる。
「あ〜私は…ハイランド王都の港町の船長をしているイノセントといいます」
「まず…君の名前を聞かせてもらえるかな?」
「私は…ソシエです…グスッ…」
「ソシエさんね。では、次に…」
「ちょっと! この子泣いているじゃない。この子が落ち着いてからよ。怖かったね。大丈夫だよ…」
若い女性の方が、背中をさすってくれている。5分程して落ち着いてきたのでもう大丈夫ですと伝えました。彼女の名前はスージーンさんと言うらしい。
「すまないね。色々と話はすでに聞いています。彼ら二人から。一応確認のために何があったか聞かせてほしい」
「彼ら…エドワードさんとジャレントくんでしょうか?」
「そうだ。彼らは無事だよ」
「良かった…」
「でも、みんなを守れなかった…」
「彼らの遺体は…全員回収できたよ。2人が教えてくれたので。あと…」
淡々と質疑応答が続いた。そして、やりとりをしていく中で、3人の人物像がはっきりした。そう、ディナードとなのる青年は…やはり勇者様だった!
「あなたが勇者ディナード様だったのですね!」
「君は賢者なのか…? 空を飛んでいたようだが…」
「はい! じつはあなたに会うために来ました!」
「えっ…!?」
「私と一緒に魔王討伐の旅にいきませんか!」
私は思わず立ち上がり、彼の両肩を掴み体ごと乗り出した。
「ち、近いよ…ソシエさん」
「あっ…すみません。ソシエでいいです」
「うん、考えとくよ」
「お願い…ゲホッゲホッ!」
まだ体が本調子ではないのか…思わず咳き込んでしまった。
「あれ、よく見ると…この子可愛いな…」
何か、勇者様が言った気がするけど聞き取れなかった。
「お願いします! どうしても魔王を倒さないといけないの!」
「わ、わかった。わかったから…しかし…危険な目には合わせたくない…」
「危険なことはわかっています…」
彼の目をじっと見据えた。なんだろう…彼の顔が赤くなってきている。風邪でも引いたのだろうか…無人島は寒かったし。
「ディナードくん。ソシエちゃんがこんなに頼んでいるのだから…」
スージーンさんも加勢してくれている。
「あんたが渋るのもわかるけど彼女の力は本物でしょう?」
「そそ…そ、そうだな。サンドゴーレムにも一歩も引かない度胸。空中から魔法を詠唱できる技術。王宮の騎士や魔術師にはできないだろうな…」
彼は目をつぶりながらしみじみと答えた。
「あ…サンドゴーレムといえば…許せない…みんなを殺した仇を討たないと!」
「落ち着ついて、ソシエさ…ん。えーと、ソシエ。俺とこのおっさんの部下と共に倒したから安心してくれ」
「ほんとですか!」
「まあ…ダメージのほとんどは、君らが決死の覚悟で与えていたし、そのことはエドワーズさんとジャレントくんから聞いている。俺たちは前衛4人後衛2人で人数も多かったし、とどめを刺すだけだった」
「では聞き取り調査も終わったし、私は退散するとしよう」
船長さんは立ち上がり、私の肩に手を置いた。
「無人島で亡くなった彼らについては任せてくれ。渡航者リストから遺族にも連絡する。ハイランド王都へようこそ。ディナード、君もそろそろ旅立ちの時だ。この子なら大丈夫だと確信できる。目が違う」
「もう落ち着いたかしら? 着替えて下に降りてきてね。ご飯を用意するわ。あぁ…そうそう、ここは宿屋も併設しているギルドですから。困ったことがあったら何でも聞いてね」
皆が出て行ったあと着替えて下へ降りた。うーん、まだ少しふらふらするね。
「ソシエちゃん!こっちよ!」
先ほどの女性…スージーンさんが手をぶんぶん振っていた。彼女の横には、もの静かそうで綺麗な顔をしたお兄さんが佇んでいる。
「初めまして、ソシエさん。私は、ギルド長のレオナードです。以後お見知りおきを」
「ディナードくんから聞いています。彼のメンバーとして参加したいそうですね。一応登録手続きとして、ステータスを調べさせてもらってもよいでしょうか?」
「はい。かまいませんよ」
「では、この石板に手をかざしてもらえますか?」
ステータスオープンの魔法が込められた特殊な石板だ。その魔法は、自分だけがステータスを確認できるけど、特殊な石板を使うと他人のステータスを映し出せる。
[ジョブ]
賢者Lv11 魔術師Lv17 聖職者Lv15 戦士Lv3 格闘家Lv2 薬草師Lv1 薬剤師Lv1 地質学者Lv1 大工Lv2
[ステータス]
戦闘力367 物理攻撃力32 物理防御42 魔法防御71 HP314 MP248 技術33 素早さ32 知力64 運40 魔力65
「すごいですね。こんなに強い人は、王都を探してもいません。ふぅ…とりあえず良かった。合格です! あちらの食堂の好き所におかけください。お腹もすいたでしょう。丸1日あなたは寝ていましたからね。係の者が持っていきますね。」
「えっ、丸1日」
確かにお腹は空いた。私はガッツリと食べた。
ん? 私の中にいる…彼の意識を感じる…良かった…消えていなかった。
――どうなってやがる。こうして意識がハッキリし、思考できるようになるのは久しぶりだ。俺は…ベルス…そうだな。間違いない。これは混乱の影響か、それとも体調の崩れなのか? ”
よかった…やっぱり…この人は…ベルス…伝説の勇者…。
――無人島で何が起こったか、見えていたからわかっている。まるで部屋から外を眺めるようだった。しかも自分の意志では体を動かせなくなっていた。危うく死ぬところだった…なんとかソシエにアドバイスが通じたのは驚いたが…”
逆に私が考えていることは…ベルスには通じていない…なぜだろう。
――やはり俺以外の誰かがいる!”
――賢者ソシエという女の人格と勇者ベルスとして俺の人格が同居している。いつからかは、わからない。あの魔法を受けた直後なのか、それとも目が覚めてからなのか…”
だ、だよね…私も不思議に思っていて…。
そういえば、二重人格についての文献を読んだことがある。私の意志が前面に出ている徴候は最近しばしあった。その時に図書館で調べた。ふたりどころか複数の人格が同居する場合もあるらしい。表に出ている人格の行動は、待機している側は、普通はわからないそうだ。ということは、これは特殊なケースなのだろう。
――そういえば、この子…ソシエも二重人格について調べていたな。俺も見ていた…。
人格が生まれる原因のひとつは、心への深いダメージがあるらしい。ダメージ受けた場合は、もうひとりの人格が生まれて表に出る、そして元の人格を守る。確かに女に変化させられたのはショックだった。ソシエはある意味生まれたのは必然で、心が壊れそうな俺を守っている。今ならそう納得できるが、はたしてそうなのだろうか…”
――とりあえず、今回の無人島の件で確信した。ベルスとソシエはふたりでひとつ。決して俺がソシエになったわけではない。それがハッキリしたのでよかった…”
うん…私もそう思う、けれど…危なかったんだからね! もう少し早く助けてよ…。
――それにしてもソシエはよくやったぞ。しかし、まだまだ甘い。あの魔物は俺なら人差し指で倒せる。あと、ステータスについてはやたら感心されたな。一般人よりは確かに強いだろう。ん? 王都を探してもいないと言っていたな? まさかディナードは今のソシエより弱いのか? そうだとしたら先が思いやられてくるぞ………”
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