第9話 勇者を育てはじめました(グラスローの塔攻略)

「勇者様、グラスローの塔についてご存じですか?」

 さっそくグラスローの塔へ向かいながら質問してみた。


「3ヶ月前から魔物が占拠した。監視塔だ。兵士や職員が常駐していたが皆殺しに…」

「恥ずかしい話だが、俺も討伐に行った。だが魔物が強すぎる。戦闘が長引く間に魔物が仲間呼び寄せてくるので1日1体倒せるかどうかだ…」

「かといって先ほどの話の通りメンバーを連れていくと逃げられる。または大怪我をおって撤退して、足を引っ張られるのだ」


 勇者様がそこまで苦戦するなんて…。あ、勇者様のステータスを確認してみましょうか。色々とドタバタして忘れていた。


[ジョブ]

 勇者Lv3 戦士Lv11 格闘家Lv10 魔術師Lv10


[ステータス]

 戦闘力332 物理攻撃力59 物理防御72 魔法防御37 HP261 MP113 技術38 素早さ45 知力35 運32 魔力34


[装備]

 鉄の剣 戦士の鎧 鉄の籠手 皮のブーツ 


 こ、これは……。


 単純な戦闘力の数値比較であれば私のほうが強い。

 ということは、無人島でさっそうと現れた勇者様は本当に止めを刺すだけだったのね。

 でも…勇者様は前衛として成長してもらいたい。私は後ろからサポートに徹しよう。


「城の軍隊では攻められなかったのですか?」

「塔の内部は狭く大勢が入れない。魔物もノールと言って人型の魔物が襲ってくる。結局1対1になってしまうし。1回だけ100名程引き連れて攻めたが失敗した。30人程亡くなり俺も大怪我を負った。やつらは塔の窓から外に飛び降りて入口からの挟み撃ちにもあったし…」


「そんな…」

「王様に大変なお叱りをうけた。その時に魔術師長も亡くなった……俺を逃がすために…」

 あ…この杖の元の持ち主…。

「いままで魔物は5匹程度しか倒せなかったし。俺には才能がないのかな…」

 少し悲しそうな顔をする。元気づけないと。


「そんなことはありません! 勇者のジョブを解放できるだけで才能の塊なのです! 勇者のステータスの上昇値は凄いのです! これから、私がサポートします! 戦い方は覚えていけばいいのです! 自信を持ってください!」


「わ、わかった! ち、近いって!」

「あ、すみません……」

 それからは、魔物の種類や配置などを聞きながら目的地に到着した。ここまで魔物は出なかったので城周辺の治安は良いかもしれない。結構頑張っていますね。


「行こう」

「はい作戦通りに」


 塔の外には見張りのノールが一匹いる。ハイエナの頭をした人型の魔物で戦闘力は250-300程度。人間や知力が高い生物を好んで食べる恐ろしい魔物だ。

 できるだけ奇襲で撃退しよう。なんとしても勇者様のレベルアップを優先しなければ。


 水魔法を発動! 吠えられない様にピンポイントで顔を氷で包み込む。さらに土魔法の土の槍で足を串刺しにて俊敏な動きを封じた。顔も息が出来なくてもがき苦しんでいるところを勇者様の一撃で喉を掻き切ってもらう。魔物はゆっくりと倒れた。


 よし作戦成功。このパターンで魔物を討伐していこう。塔の入口の扉をそっと開ける。同様の手口で魔物を倒してどんどん先に進む。

 ついに4階だ。廊下も広いし、複数の敵の相手をすることになるだろう。そして勇者様は2体の同時攻撃も受け止められるほどに成長した。5階も同様の立ち回りをして討伐に成功。さすが勇者様のステータスの伸びと感心した。いよいよ最上階の6階だ。さて、ここからが正念場。一回り大きな気配を感じる。恐らくボスだ…。ごくり…。


「それにしても、君は絶妙のタイミングで支援してくれるよ。こんなに簡単に倒せるなんて自分でも驚いている。ありがとう!」

「いいえ。勇者様の力ですよ。元から勇者様は倒せる力がありました。もう25匹は倒しています。強くなられました」

「あとはここのフロアだけです」

「おう、気を引き締めていこう」


 通路内は…もう敵…雑魚と言っていい、彼らはいない。さて奥の執務室のドアをそっと開けてみよう。


 テーブル上の書類をオーガが熱心に見ている。こちらには気づいていない。というか魔物も書類を見るのか…。


「何の用だ。今は忙しいといっただろう。ん? 貴様らは人間!」

「部下はもうあの世だ。この塔はとり返しに来たぜ。ここは俺たち人間のものだ」

「くそっ! ウォオオオオオオオオオオ!」

 オーガが咆えて机を蹴り上げた。約3メートルの巨大な魔物、戦闘力は約450もある。私たちも単騎で挑むなら絶対負けてしまう。それほど危険な相手だけどふたりならいけるはず。


「勇者様! 部屋の外に出て!」

 風魔法の竜巻! この狭い執務室にいたのが運の尽き! さらにもう一発! ドアを閉めた。存分に味わってもうおうかな。


 案の定、部屋の中を風が大暴れ。部屋の外からでも爆音が聞こえる。おそらく体中を鋭い風の刃で切裂かれたはず。

 ドアが粉々に破壊された。オーガは怒りの表情で飛び出す。勇者様はオーガの力任せの攻撃をかわして剣で切りつけた。カウンターが決まり大ダメージを与えた。


「ウガァアアアアアアアア!」

 オーガは腹部から大出血して片膝をついた。しかし、ここでうかつに近づいては危険。反撃があるかもしれない。


「今です! 魔法を撃ってください!」

「業火!」「火球!」


 私と勇者様の火属性の魔法を至近距離から放つ。私は新しく覚えた賢者の攻撃魔法“業火”を試してみた。たぶん、かなりの威力のはず。


「そ、そんな…魔王様…申し訳ありません…」

 オーガは炎に包まれて倒れた。

 オーガの討伐に成功した…よかった。これでグラスローの塔を奪還できて一仕事できて安心だ。


「ソシエ! やったぞ! ついに、みんなの仇も撃てた! ありがとう! これでダメ勇者と陰口を叩かれていたが汚名返上だ!」

 ちょ、抱きしめられた…。びっくりした。ダメ勇者だなんて…そんな事を言われていたんだ…。


「あの、勇者様…」

 よほど嬉しかったのですね。

 勇者様は顔を真っ赤にしながら慌てて離れた。


「あ、す、すまん! つい…嬉しくて、あ…か、帰ろうか。つい…はしゃぎすぎてしまった。ごめん…」

「いえいえ、悪気はないはわかっていますから。報告に帰りましょう」

「お、おぅ…」

 なぜか勇者様は目を逸らしている。顔も赤い…なんで?


 またふたりでとりとめのない話をしながら王都に戻ってギルドに向かった。

「あれ、勇者様。王様に報告では?」

「いや、3ヶ月前から依頼は受けていて、討伐に成功したらここへ報告する手はずになっている」

「なるほどです」


 レオナードさんは嬉しそうな顔だ。

「やあ! ふたりともおめでとう。ようやく討伐できたね」

「情報がはやい!」

「忘れたかい。私は元狩人。千里眼で見ていたよ」

「すごいですね」

「では、報酬の10万ゴールド硬貨2枚と薬草10個、MP回復薬5個です。おめでとうございます!」


「おや、敵の素材は持ち帰らなかったのかい? いいお金になるのに」

「忘れた…。じゃあ回収はお願いしてもいいですか? あと…討伐の犠牲者の遺族の為に使ってください」

「了解。こちらから城に報告しておきますね。あとの手続きはやっておくよ」

「ではお願いします」


「ディナードくん、信じていたよ」

 レオナードさんは勇者様の肩に手を置いて、何やら嬉しいポーズをしています。


「本当にこいつのお陰です。随分と助けられました」

 勇者様はこちらを向いて満面の笑顔だ。ふふ…私もなんだか嬉しくなってニッコリと返す。


「あれあれ…ちょっといい雰囲気ですね…おふたりさん」

 えっ…レオナードさん、何を言っているの?


「あ〜それよりお腹すきましたね! お昼食べてないのでお腹ペコペコです! 早くご飯食べましょう! 明日に備えて休みましょう!」

 何故か私は慌てて勇者様の背中をぐいぐいと押して外に出た。


「ん? ああ…じゃあレオナードさん。また顔だすわ」


 あっ…また、私の中の彼…ベルスの声が聞こえて来た。


 ――しかし、ディナードがソシエより弱かったのは参ったぜ。腰を抜かしそうになった。

 だが、さすがは勇者ジョブだな。ソシエのサポートで倒せるようになってからは、いい動きになった。ソシエもなかなか動きにセンスがあるからな。というか俺の動き方にも似ている。


 はい、勇者ディナード様はすばらしいセンスの持主だと思う。


 ――最後もいいカウンターだった。あれは教えてできるものではない。


 はい、すごかったですよ…。


 ――たぶんソシエより強くなったはず。魔王討伐にはディナードの成長にかかっている。


 えぇ…見守っていてね。ベルス。

  

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