第5話 0から始める無人島生活

 あぁ…困った。あと数時間でハイランド王都に着くのに…。もう少しで夜明けなのに…。まぁ…真夜中ではない分ましか。


 私たちは10人。しかし、この様な事態は想定外だろう。

 みんなの顔に不安が現れている。

 船員はふたり。船員の仕事は、運航だけではなく海岸の地形調査、無人島の管理なども含まれるらしい。無事に無人島に着けたのは彼らのおかげだ。こんな小舟じゃいつ沈むかわからないもの。


 みんなを落ち着かせようと船員さんは立ち上がった。

「皆さんおちついてください。緊急事態を王都とティリマス、それぞれに伝書鳩を飛ばしました。助けは今日か明日にはくると思います。ほんとうに申し訳ありません。まさか…座礁するとは…」


 すると乗客は文句を言い出した。

「これから、どうするのですか!」

「はやく王都にいって孫に会いたかったのに!」

「航路を間違えたのでは?」

 乗客達が船員2人を責めたてて困らせている。もぅ…責めても仕方ないよ。


 “……………………………”


 うーん、彼の反応がない。なら、私が…やるしかない。みんなを落ち着かせよう。


 私は静かに立ち上がった。そして全身を薄く光らせて注目させた。


「皆さん待ってください! ここで騒いで体力を消耗してはいけませんよ。助けが来るまで待ちましょう。誰のせいでもありません」


 みんなは私を見ている。はぁ…緊張するな。では、続けて現状の把握とこれからやるべきことを共有しよう。


「今はみんなでこの危機を乗り越えることです。助けが来ないことも見越して行動しなければいけません。まずは食料です。それと雨風をしのげるように避難場所の確保です。みんなで協力をお願いします。役割分担したいと思います。まずは自己紹介と特技があれば教えてください」


 何人かそれもそうかという感じでうなずいてくれた。このまま続けよう。


「では、私から…ソシエと申します。じつは勇者様にお会いして魔王討伐の旅にでるつもりでした。ジョブは賢者です。魔法はそれなりに使えます。冷え込み対策に火の魔法で暖もとれます。水魔法で氷を出せますので、溶かせば飲み水にできるでしょう。空も飛べますが、王都までの長い距離はさすがに飛べません。ケガ人が出た場合は、回復魔法が使えます。以上となります」


 すごいと声があがる。そして、私の右隣にいる人から一周して自己紹介することになった。


「従業員ジャスカーです。漁師ジョブを持っていますので魚を手づかみでとるスキルがあります。以上です」

 屈強な体。頼りがいある。もう食料調達の係は決まった。


「ブラッドリーだ。同じく従業員。地質学者ジョブ持ち。食べても安全な果実はわかる」

 こちらは反対に、細めな体の船員さん。彼も食料調達係だね。


「メロディスよ。ただの主婦。まあ料理くらいしか取り柄がないわね。とんだ旅行になったわ」

 いえ、出番はあります。味付けは大事、こんな時だからこそ。大柄な人だけど優しそうなおばさんだ。


「メロディスの夫のエグバートと申す。本職はきこりなので木や枝の取り扱いなら任せてほしいで申す。仕事道具である斧も相棒として持っていて幸いで申す」

 なるほど、焚き火の木を集めてもらおうかな。あと簡単な家具も彼と組めばすぐにつくれそう。彼はドワーフが先祖だね、どことなく特徴がある。


「ケイシェル。放浪の画家。この無人島も描かせてもらう。役に立つジョブはない」

 黒髪の女の子だけど、どことなく自己中心的な感じがする。うまく和に入ってくれれば…。せめて私だけでもフォローしておこう。なぜか大きいキャンパスを持っている。よく小舟にまで持ち込めたね…。


「俺はエドワーズ! シャロット王国でも珍しいダークエルフだ。残念ながら魔法はつかえないボンクラだ。エルフだからといって、みんな魔法や弓が得意なわけじゃないからね。そこの所よろしくっす! これといって特技はない。趣味は女の子を口説くことだな」

 彼の空気を読まない軽い感じに、女性陣は少し引いている。扱いに困るなぁ。でもどことなく憎めないのはなぜだろう。


「私はストフリーです。掃除人一筋です。生活魔法が使えますので、お風呂の心配はいらないですよ」

 おおっー! と歓声があがる。これは嬉しい。見た目から判断して申し訳ないけど、細い体、銀髪の痩せこけた顔、倒れないか心配。


「わしはアーロニーじゃ。元地質学者。今は引退して陶芸家じゃ。土の知識はあるのでここに粘土と焚き火で、飲み水や食事の容器はつくれますじゃ。だがあまり期待はせんといてくれ」

 地味に素晴らしい。木をくりぬいてどうこうしようかと思っていたので、思ったより文化的な生活ができるかもしれない。


「おいらはジャレント、見ての通り子供。12歳。皆みたいに特技あるわけじゃない。なんでも手伝うよ」

 誰かの子供でもなさそう。王都に遊びに行こうとしていたのかな。あとでよく聞いてみよう。


「皆さん、ありがとうございます。ジャスカーさん、ブラッドリーさん、船員さんたちを差し置いて申し訳ありませんが、冒険者でもある私がこのような事態に一番なれています。この島での生活は、私が舵取りさせてもらってもよいでしょうか?」


 異議なしという声が多かったので、役割を分担し道具や食料を集めてもらうことになった。


 きこりのエグバートさんが、焚き火用の木を集めてくれたのでさっそく暖をとろう。「火球…」ふぅ…暖かい。朝はまだ肌寒いしね…。


 ダークエルフのエドワーズさんは、画家の女の子ケイシェルさんと私の間を行ったり来たりと軽い感じで話しかけてくるので若干煩わしい。でも、彼のような無邪気な明るさも必要かもしれない。


 アーロニーさんはかぶりを振りながら戻ってきた。残念ながら粘土質の土はなかったようだ。その代わり地面を調べているうちに、芋を見つけたらしい。いいね、焼き芋にしよう。


 エグバートさんには木をどんどん切ってもらう。手が空いている人は、エグバートさんから道具を借りて容器っぽいのを作ってもらっている。細かいゴミは、ストフリーさんの生活魔法で綺麗にしてもらうけど、この魔法地味に便利すぎる。私も覚えたいな。


 私とエグバートさんで、小枝をくみ上げて生け簀を作る。ここに魚をいれる予定だ。


 ブラッドリーさんとジャレントくんは、野草と木の実をたっぷりと抱えてきた。高いところにある木の実は、私に飛んで収穫してほしいとのことでとって来た。


 簡単なまな板もつくってみた。主婦のメロディスさんは意外と積極的に頑張ってくれた。魚だけはジャスカーさんが得意らしいのでお願いしてみた。


 そして、いつのまにか…お昼…お腹も空いている。


 みんなで焚き火を囲む。お昼ご飯を食べはじめた。すごく…おいしい。色とりどりの野草のサラダに、新鮮だから大丈夫と漁師のみに伝わる生魚を食べてみた。刺身と言うらしい。初めてで衝撃だった。こんなに美味しいの? とみんなが驚いた。芋も焼いただけだけど、ホクホクしてたまらない。


 みんな幸せそうな顔をしている。とりあえず良かった。


 昼食後は、島の調査を兼ねて食料調達。1時間程度で1周できる小さな島だった。


 焚き火は、燃やしっぱなしにしている。王都から見える事を期待しているけどどうだろう。狩人で千里眼スキル持ちの人がいれば、たぶん見えるはず。こちらは、待つしかない……。


 いい間隔で生えている木を見つけたので、念のために寝床も作成した。


 調査後は、またみんなで焚き火を囲む。調査の共有、日常の事、夢を語ったと助けが来るまでの時間をつぶしていた。


 夜になった。伝書鳩は機能しなかった可能性が高い。みんな悟ったのだろうか、暗い顔をしながら夕食を食べている。口数も少ない、私にはこの空気感を換える何かが思いつかないし、どうしようかな…。


「おし、注目! みんな暗いぞ〜一生このままのわけないじゃないか〜絶対にあとで笑い話にできるって! これも旅行だと思って楽しめばいいんだよ!」


 エドワーズさんが、暗くなった雰囲気をかえようと明るく振舞い始める。

 変な踊りを踊ったり、ひとりお笑い劇やすべらない話を披露したり、リュートを弾いて故郷の歌を歌ってくれたりした。みんなを明るくする意外な一面ですごく驚いた。人を惹きつける何かを持っている。


 みんな笑い話は腹を抱えて笑った。そして歌に凄く感動した。あのケイシェルさんでさえ腹を抱えて大笑い。彼女もこんな素敵な笑顔ができるじゃないか…。


 私の隣には、なついてしまったジャレントくんがいる。彼は、将来冒険家になりたくてすでにひとりで旅をしているらしい。魔法を見たときは、お姉ちゃん凄い! と目を輝かせていた。かわいいな。


 正直に言うと、トラブルが発生して冗談ではないと思った。でも、漂流仲間とある種の絆ができたのは、これからの人生に財産となるだろう。

 王都につくまでの寄り道と考えれば…それも楽しいかも?

 そう思った瞬間に地面が激しく揺れる。地震!?


 なんと、サンドゴーレムが現れた。

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