第4話 船は修理中とのことで出発は明日!暇つぶしにクエストだ!

 俺はチェスター村を背に歩き出した。1時間ほどで港町ティリマスが見えてきた。ここは、ギルドがあるため戦闘向きの冒険者たちが集うのだ。

 魔物退治のクエストのおかげで、周辺の魔物は随時討伐されている。そのため、比較的この町と周辺は安全だ。


 まず俺の計画は、ハイランド王国の王都へ行く。というわけで、王都までの切符を買う。実は、陸路でもいけないことはない。しかし、大陸は湾曲しているためかなり遠回りだし、魔物が行く手を遮るだろう。

 それに、今の俺では危険だ。女だし、魔法が効きにくい敵もいることだろう。もう一人前衛タイプの仲間がほしい。


 何も手を打たなかったわけではない。この3ヶ月の間に、同行してくれるメンバーを探したが、残念ながらいなかった。マリーも素質はありそうだったので打診したが断られた。いくら冒険者が集まるとはいえ、この辺は強い魔物はいない、そのせいか冒険者のレベルは総じて低い。結局見つからず、ひとりのままである。残念だな…。


 そんなことを思い出しながら切符売り場まで到着。陸路だと何日もかかるが、船なら1日で着けるのでありがたい。


「こんにちは、ハイランド王都への切符をいただけますか?」

「はい、1万ゴールドになります。切符にも書いてあるけど明日の夕方に出発だからね!」

「えっ、今日はないのですか?」

「船底に穴が開いてしまってね、修理しているから明日になっちゃうね。他の船も出てしまっているしね」

「そうですか…わかりました」

「王都に行くのを楽しみにしていたのにね。ごめんね」

「いえいえ。大丈夫です」


 この町にも何回か来ているせいか、顔が広くなってしまった。明日かぁ。困った。想定外だぞ。

 よし、まずは昼食をすませよう。それから、ギルドにいって簡単そうなクエストでも受けて時間をつぶそう。


 昼食後ギルドへ向かった。

「こんにちは、ローシリアさん。なにかクエストありませんか?」

「はい、こんにちはソシエさん。いっぱいあるよ! これなんかどう? ここから北の洞窟にゴブリンが大量発生しているから倒してくれると助かるな。ほら、ソシエさんはここ周辺では一番強いからね~あなた向きだよ」

 彼女は、笑顔の素敵な受付嬢ローシリアさんだ。


「う…ゴブリンは倒せなくはないですが、生息数が多いと数日かかることもあります。明日の夕刻には王都へ出発しますので、そのあたり考慮していただけますと…」

「あ〜前から言っていた件だね。そっか〜いよいよ明日か~楽しみだね!」

「じゃあこの辺りかな~数時間で終わりそうなクエストは」

 何個か簡単そうなクエストを提示してくれた。

「薬草各種採取、これなら町の西側出入り口付近に自生していましたね。あと、これも受けますね」


 自分が手に取ったのは町の西側入り口付近に住む、ひとり暮らしのお爺さんの大工工事依頼だった。


「え〜ソシエさん大工スキルもお持ちなのですか?」

「昔やっていたものですから…」

 思い出すな…大工スキルか…俺が住んでいた村は魔物の侵攻でボロボロだった。ひとり生き残った俺は行く当てもなくそこで生活を続けた。近くの森から木材を調達、加工して自宅の修繕、廃材整理、棺桶作成、墓地整備していたら勝手にレベルがあがっていたな。ついでに墓守のレベルもあがったな……。

 しかし、目覚めたときはこの体からスキルは失われていた。理由はわからんが…ま、知識は残っているから大丈夫だろう。


 まずは薬草から片付けようかな。


 1時間後、要求量の2倍を採取した。半分は自分の薬の調合用だ。

 次は、お爺さんの家に向かう。勇者のお爺さんに色々お世話になったのを思い出したからか、なんとなくほっとけないのだ。


 “うんうん ほっといたら怒るよ!”

 ! この声……また…。


「お爺さん、こんにちは! ギルドから依頼を受けてお手伝いに来ました」

「こんにちは、こんなかわいいお嬢さんが来てくれるなんて…ううむ…大丈夫かのう…?」

「はい、任せてください! トイレとお風呂場と廊下につかみ棒を設置ですね?」

「そうです。おねがいします」

 なんと材料と道具はギルド経由ですでに届けられていた。ありがたいな。


 ………1時間後、無事に設置完了した!大工Lv1になった!


「おお、お嬢さん…すごい。ありがたいのう。これで移動しやすくなります」

「喜んでいただいてなによりです! では依頼状に完了のサインをいただけますか?」

「わかりました、ちょっとお待ちください。ペンをとってきます」


 ……


 あれ? なんか音がした。


「お爺さん、どうかしました?」

 様子を見に行いくと、お爺さんが転んでいたのだ。


「いけない! 大丈夫ですか?」

「はは、年はとりたくないものですなぁ…」

 ゆっくりと起こし、回復魔法で怪我を直した。


 回復の副産物だろうか、ついでに腰痛も治ったらしくそれも感謝された。

 今度こそ無事にサインをしてもらったのだが気になるなぁ。

 お爺さんは、転んだ拍子にインクをぶちまけた。そのため、服のあちこちがよごれているのだ。たぶん体まで汚れている。


 掃除人ジョブを高レベルまであげると魔法で掃除ができる。残念だが覚えていない。うーむ、やっぱり気になるな! ということで風呂場にお爺さんを連れて行って、背中を洗ってあげた。まあ、俺は男だし別に爺さんの裸見ても恥ずかしくもない。

 とりあえず、お爺さんにはものすごく感謝された。


 ギルドに戻ろう。うーん、俺こんなに世話焼きだっけ? あの状況じゃ誰もそうするよな?


 “そうだよ! お爺さんも喜んでいたしいいじゃない!”

 あぁ…そうだな。くっ…最近よくこの声を聞く…なんなのだ。


 声を無視してギルドに戻り、クエストの確認をお願いした。

「はい、確認しました。お疲れ様です、ソシエさん! クエストクリアおめでとうございます! 薬草が4000ゴールド、大工工事が8000ゴールドですね。はいどうぞ! ご確認ください」

 1万ゴールド硬貨と1千ゴールド硬貨を2枚確認した。

「では、また明日もきますね。思ったより早くクリアできてしまいましたし」

「はい、お待ちしています〜」


 宿屋にとまり、次の日にまたギルドに行った。薬草クエストを5回分受けて10回分採取。2万ゴールドの収入。まだ時間があるな、図書館へ行く。


 図書館には、薬草の調合方法が書かれた書物がある。しかし、早く理解するためには、体験をすることだ。というわけで、受付に話をして調合室を借りる。


 “初めての調合だ! 楽しそう〜!”

 そうだな…楽しいだろうな、知らんけど。もぅ、いいや…。なんか、怒る気に慣れねぇなこの声は…女の声か…一体誰なのだ…。


 すぐに調合したい人もいるため、このような部屋が併設されているのが一般的だ。ほかにも台所、会議室、仮眠室、簡易医療室、鑑定室などもある。


 “ふんふん、すごい! これが図書館か〜”

 そうだ…よく見ておけよ。


 調合室を1時間500ゴールドで借りて、書物をみながら回復Lv5相当の薬x5とMP回復の薬x3と状態異常回復Lv5相当の薬x2をつくった。


 “へぇ〜これが調合の仕方か…勉強になるな〜”

 そうだな…勉強だ。


 容器も使い放題なので気兼ねなく調合できる。使った分は、あとで清算するけどな。そのため職員が側にいて常にチェックをしている。また、容器のカウントだけではなく、違法な調合がないか目を光らせているためやりづらい。


 さて、薬草採取クエストのおかげで薬草師Lv1、調合のおかけで薬剤師Lv1になった。どんどんレベルアップしていくぜ!


 清算を済ませて図書館をあとにする。少し早いが乗船しておく。乗り遅れたら大変だからな。


 “はやく! はやく! 急ごう!”

 ヘイヘイ。


「こんにちは〜!」

「いらっしゃいませ〜、王都行きの切符を確認しました。どうぞお好きな場所におかけください」


 乗船し、船がゆっくりと動き出す。明日には、ハイランド王国の王都に到着か。疲れているのだろう…だめだ…瞼が…重い。ここで、寝てしまったら…俺の中にいる誰かが表に出てくるのだろう。


 “ゆっくり休んでいいよ…何かあったら私が…あなたを…いや…自分を護ります”

 あぁ…頼んだぞ。どうやら…ゆっくり休む時は近いのかもしれないな…。


 ――誰かが自分を揺さぶる気がする。


「すみません! 起きてください! 大変です! 座礁してしまったため船が沈みます!」


 !?


「従業員とお客様! 予備の小舟に! 急いでください!」


 はっ!? あの人は…寝ているのか。私は…しばらくぶりに体を動かせる…? えっ? いいの? あの人が寝ている時や無意識の時に動かしていたけど…。


 とりあえず…指示通りに小舟に移動した。やがて、無人島に到着。

 これから一体どうなってしまうのだろう…。

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