第6話 お師匠さん、甘えを追及する
師匠である静稀の言葉に従って、俺の実家であるコンビニ前の道路から車に乗り込んだ。
見たことも無い車列――というのは高級車という意味だったが、意味合いがまるで異なる。
お嬢様にありがちな黒塗りの高級車かと思いきや、いわゆるモータースポーツ選手権に出るような車という、何とも言えない高揚感が自分に襲い掛かったからだ。
「な、何キロ出るの……これ」
「ふふっ。公道ではそこまで出せないさ。もし君が望むのなら、最高級の世界に案内するよ」
一体どこのイケメンですかと言いたいが、本物過ぎて言えない。
「い、いやぁ~、そ、そのうちね」
「輝くん、もしかして驚いたのかい?」
(これには素直に驚いた。お嬢様に違いなかったが、まさかそっちの世界だったなんて。そうなるとかなりの資産がありそう)
「私の家はスポンサーでね。黒塗りよりも、こっちの車ばかりがガレージを占めているというわけなんだ」
「じゃ、じゃあ、静稀さんは将来そっちの方へ?」
「私の将来は、心に決めた人と共に生きることであり、家とはまるで違うものなのだよ」
決して広くない後部座席――いや、座席なんて無いに等しいけど、俺と静稀はそんな狭い座席に無理やり座っている状態だ。
――つまり、かなりの至近距離に静稀がいて俺をじっと見ている状態を意味する。
しかし乗り心地が良くないことが幸いして、そんな気分になれないのが惜しい所だ。しばらくして、スピードが速すぎた車たちがウワサのガレージへ次々と入って行く。
どうやら静稀の家らしき場所に着いたらしい。ガレージは地下なのか分からないが、何台あるか数え切れないほどの車がびっしりと並んでいる。
「さぁ、降りたまえ!」
「あいたたた……」
「ふふ、すぐに慣れるさ」
慣れるくらい乗せてくれるという意味だろうか。それにしても、想像以上のお嬢様なのでは。
しかしドライバーたちが会話に交じって来ることは無く、静稀は俺の手を握ってひたすら歩き出した。歩く方向はどう考えても家の中では無さそうだ。
「あ、あれ、ど、どこに向かうおつもりが?」
「もちろん私の部屋だよ、輝くん」
「部屋ってまさかあそこの……」
連れて来られた部屋は、完全に趣味部屋みたいな空間だ。ガレージの広さとは比べ物にならない窮屈な通路を通ったかと思えば、こんな隠し部屋みたいなところがあるとは思わなかった。
そしてそこに入ると、使い果たされたマネーカードがまるでコレクションのように並べられているといった異様な光景を目の当たりする。
資金力があるのは車の数々ですぐ分かったが、趣味に使える額は安いものということなのか。何か見てはいけないモノを見てしまった感じだ。
「輝くん。私は欲しいモノは、全て極めたいだけなんだよ。この部屋を見て、私を嫌いになったかな?」
「……お、驚いたけど。で、でも、好きなものなら集めたい気持ちは分かるし……」
もしかしてこれが、遊馬の言っていた静稀の別の顔だろうか。しかし資金力のあるお嬢様なら、そこまで驚愕するものでは無いといえる。
「とりあえず、適当に座りたまえ」
「あ、はい」
「緊張しなくてもいいいよ? ここには私と君しかいないんだ」
「そ、そうだね」
そんなことを言われても、美少女が見つめまくって来ている状況に慣れるはずもない。でもとりあえず、彼女の言うとおりにカーペットの上に座ることにした。
「輝くん。私はここに集めた趣味よりも、もっと追及したいものに出会えたんだ」
「そ、それは?」
「君だよ、輝くん」
「――俺!? ですか?」
そう言えばそんなことを言っていた気がしたけど、俺を追及とかどういう意味なのか。
「私は輝くんに甘えたいのだよ。甘えてもいいかな?」
「あまっ――甘えたい!?」
「うん。輝くんに甘えたい。駄目かな? それとも、君の方から甘えるかい? それでも構わない」
まさかと思うが、静稀に好意を持たれているのか。ガチャゲームの中では、明らかに実力に差があるのに。
一体どこで差が縮まっていたんだろう。
「な、何故俺……ですか? そんな、だって俺は中級プレイヤーで、静稀さんはもっと上の――」
「極めていないものに出会えたからだよ、輝くん」
「それって、つまり――?」
「輝くんのことだよ」
「え、ええええ!? えーと、それって……」
好き――という意味と捉えていいものだろうか。
しかし極めるとか追及とかと言っている時点で、まだ趣味という段階で近付いて来た感じが見える。
「うん」
どうやら思っている方向で間違いなさそうだ。こういう時どういう風にするべきなのか分からないが、甘えるような動きをすればいいのだろうか。
静稀に甘えてもらうよりも先に、ガチャゲームのことについて行動を起こすことにする。
とりあえず彼女がすぐ隣に座っていることだし、ガチャをしてアドバイスをもらうことにした。これもゲームのことで、師匠に甘えるということになるはずだ。
「ええと、師匠にガチャの確率のことを聞きたいんだけど……」
「……何の真似かな、それは?」
「甘えです。俺からの」
「ああ、そう来たんだね。それも輝くんらしい行動だね……」
素直に教えてくれそうにないくらい、部屋の中の空気が変わった気がする。しかし静稀の方から、「甘えてもらっても構わない」なんて言われた以上、手段として有効のはずだ。
「今からガチャをするので、それについて何かアドバイスを――」
「輝くん。君がガチャをするというのなら、私からも甘えたいんだけど、いいかな?」
やはりそうなるか。一方的に甘えを強要、それもガチャについてすることになるし、公平じゃない。
「もちろん」
「――ふふ、そう言ってくれると信じていたよ。それじゃあ輝くん。私と同棲しよ?」
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