番外編 アンドリューは、今

 俺は、こんな人生認めない。

そう思うことも最近ではなくなった。


 勇者召喚に巻き込まれたが、優秀な俺をいらないとか言う愚かな女神のせいで、チートも寄越さないケチな存在が転生を担当することになった。

裕福な家に転生させるという話だったが、そんなのは当然で最低限の措置だというのに、それ以上の待遇はないと言う。どうせ、そんな権限を持たせてもらえていない底辺の使いっ走りで神でも何でもなかったんだろう。


 転生先は、王族の次で、貴族のトップである公爵家だったのまでは許容できたが、何で跡継ぎじゃないんだよ!?しかも、何だよ代理母って、側室や妾よりも立場が下だって話だぞ!?どうなってんだよ!!


 それに、魔力を使えば使うほど増えるのは常識だというのに、この世界では10歳に満たない子供がそれをやると、魔力がほとんどない状態になるって。

それならそうと転生のときに言っておけよ!!だから、いつまで経っても底辺の使いっ走りで神になれないんだろう!!


 魔力の存在を知ってしまったのならと、本邸に移されたので、魔力に関する本を片っ端から持って来させて読んだ結果、俺はスタートダッシュをしようとして真逆のことをしたということだった。

もうどうにもならないことが分かっただけで、何の解決にもならなかった。


 しかも、頭の悪い愚妹の魔力を奪って殺しかけたとか大袈裟なことをほざいていたが、あんなヤツ何の役にも立たないだろ。


 まあ、魔力がなくても地球という発達した世界から来た俺にかかれば、未発達な異世界に革命を起こすことなど造作もないからな。


 しかし、何をするにしてもまずは身体強化ナシで動けるようにならなければ、どうにもならないため、まずはそこからだった。

あの転生を担当した底辺ヤローがちゃんと説明していれば、こんなことをせずに済んだのに。


 料理の味付けに文句を言ったら、俺の味覚が育たなかったからだと言われた。

乳幼児期に魔力を引き抜かれた者によく出る症状で、怪我などと違い未発達なのだから治しようがなく、俺は何を食べても砂を噛んでいるようにしか感じないままだった。


 厨房を見たが、前世と変わらないか、どうかするともっと便利なものまで置いてあったので、邸にある魔道具を片っ端から見てきたが、俺が改良できそうなものはなかった。

電話に近い魔道具があったが、俺にはスマホの原理など分からないので、そこから更に魔道具を進化させることなど不可能だった。


 スタートダッシュも魔力チートも知識チートも出来なかったが、生まれは公爵家なのだから好き勝手に生きてやるさと思っていたのに、小遣いもくれないケチな親だった。


 父親からは、信用に値しないので仕事を任すことは出来ないと言われ、このまま本邸の離れに幽閉すると告げられた。

最初は、ふざけるな!!と思っていたが、何もせずに生活できるのならそれでも良いかと思うようになった頃、使用人が話している内容が聞こえて愕然とした。


 俺が、療養のかいなく亡くなるって、どういうことだよ……っ!?

リハビリも終えて俺は普通に生活できてるじゃないか!!


 そう思って本邸へ行こうとしたら、そこに行く前に止められた。


 「療養中なのですから、勝手に出歩かれては困りますよ」

「俺は、どこも悪くないだろ!!」

「得てして病人は皆そう言うものです。さあ、お部屋へお戻りください」

「嫌だっ!!何故、病気もでもないのに療養しなければならないんだ!!俺は、公爵家の息子だぞ!?」

「はぁ〜……、では、正直に申し上げさせて頂きますね?公爵家子息として生まれたにもかかわらず、ご自身の失態で魔力をなくされ、性格も信用に値しない。そんな人を民が納めてくれた貴重な税を使って養うことなど、民に申し訳がたたないのですよ。ですから、幼少期に流していたというか、まあ、事実お身体が弱かったですからね。ということで、治療のかいなく亡くなるのですよ。ご安心ください。公爵家子息として無様を晒さないよう苦しまずに眠るように逝ける物をご用意いたしますから」

「何も安心できないよ!!俺に死ねっていうのか!?」


 役立たずは死ねと言う。

逃げようにも監視がついていて無理で、絶望していたとき、俺が母方の伯父預かりになったと聞かされた。


 死ぬしかなかった俺を引き取るなんてロクな話じゃないだろうと、俺はその話を聞いて喜ぶことは出来なかった。


 そんな俺とは裏腹に、愚妹は竜騎士の花嫁とやらになったらしい。

なんの事だろうかと、それに関する本を持って来させて読んでみて眉間を揉んだ。


 その話を聞いたのは最近だが、アイツが竜騎士の花嫁とやらになったのは5歳だという。

真の愛を捧げる者が竜騎士となり、花嫁とドラゴンを与えられるんだよな?


 5歳に愛を誓うって変態じゃないのか!?

俺が元は日本人だからか?この世界では5歳の幼女に懸想をするのは普通なのか!?いや、相手が同じような年齢なら問題ないだろう?だが、アイツの相手は13歳だって話だぞ!?中学生が幼稚園児に愛をって、うわっ!?無理だっ!!考えただけで、吐き気がする!!キモっ!!


 邸全体がそれを受け入れていることに、俺は絶望しかなかった。

愚妹よ。何の権利もない、むしろ死しか待っていない俺には何もしてやれんが、強く生きろよ。草葉の陰からでも見たくないからな。愚妹とはいえ、妹がロリコンの餌食になるのを見るなんて嫌だからな。


 そんな新たな絶望を味わっていると、双子の妹君様の輝かしい未来を羨んで自らの立場に絶望しているとか思われたが、放っておいた。

理由はどうあれ、絶望していることに変わりはないからだ。


 もう、どうにでもなれと、この世界の常識は俺には合わないと、投げやりになっていると、今度は母方の伯父ではなく、父方の親戚へ預けられることになったと聞かされた。

何が違うのか分からんが、勝手にしてくれと思ったが、俺はこのとき真剣に考えなかった己を呪った。

 

 母方の伯父は俺と同じ歳の後妻を迎え入れた変態だったが、父方の親戚も似たようなものだった。

父方の親戚。父親の母親、つまり祖母は国王の側室なのだが、その祖母の兄嫁が俺を引き取った相手だった。


 祖母よりも年上のばあさんに、俺は、引き取られた。

これなら、ロリコンの伯父に引き取られた方が万倍もマシだった!!


 引き合わされた祖母の兄嫁という人物は、昼間だっていうのに溢れんばかりの少しハリの衰えた胸をはだけさせた服を着ていた。

年齢の割には肌にハリはあるんだろう。実年齢よりもかなり若く見えた。


 「アッシュフィールド公爵閣下の血を引いているだけあって、見た目は良いわね。私のことはママと呼びなさい、良いわね?」

「…………。」

「あら。お返事が出来ないのは、いけないわ」


 ママと呼べと意味不明なことを言われて固まっている俺を目の前の……、なんだろうな。ばあさんと呼ぶには若い見た目だし、でも、年齢はばあさんだしと混乱していると、頭を掴まれて思いっきり胸の谷間に埋められた。


 初ぱふぱ……って、違う!!そうじゃない!!やめろ!!窒息する!!


 もがいていると、「ママよ?いい?分かったわね?」と念を押されたので、分かったという意味を込めて頷こうにも身動きが取れないので、手で何かをペチペチと叩いたら、「あら、いやだわ、おませさん」と言われた。

いいから、離せっ!!死ぬっ!!


 肩で息をして空気の素晴らしさを堪能していると、ここへ俺を連れて来たやつが「もう仲良くなられたようで安心いたしました」とか、ふざけたことをぬかしやがった。

どう見ても殺されかけてただろうが!!どこ見てんだよ!?


 結局、俺は、この夫人に飼われることになったが、これといって不自由はしていない。

最初の頃は、己の選択を恨んだりもしたが、慣れてしまえばどうということもなかった。慣れとは恐ろしいものだ。


 大人しくなった俺に夫人は、「あなたには、愛が足りなかったのよ」と、優しく微笑んだが、未だに愛とは何なのか、俺には分からない。


 俺にとって愛とは変態でしかないので、考えたくないだけかもしれないが。

まあ、もう会うことはないだろうが、愚妹の旦那がヤンデレにならないように、俺だけは祈っていてやるよ。





 

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