39 家が一番

 婚約発表が終わってしばらく経つと、今までとは変わった日常がやって来るようになった。


 まずは、頻繁に伯父さんが別邸にやって来るようになったんだけど、仕事せんでえぇのんか?と聞いてみたところ、それほど忙しい立場でもないらしく、仕事はクリフの実家であるウルフスタン伯爵家が主導で行なっているそうな。

伯父さんに、何の仕事してんの?って聞いてみても「女性が仕事に首を突っ込むのは、あまり感心しないよ」と言われるので、「クリフ、婿だけど?」と言うと苦笑して頬をポリポリすんのね。言えないようなことをやってるらしい。ものごっつ怪しいで?


 まあ、あんまりごちゃごちゃ言うとパパから「大人しくしてろ!」って怒られるからね。最近、よくキレる。若者特有のアレか。いや、そんな若くもないか?パパって何歳なんだろう?


 それと、もう一つは、本邸にアルジャーノンお兄様の婚約者ジョゼフィーヌ様が訪ねて来るようになったので、その日だけは本邸に出来るだけ顔を出している。

もちろん、初々しいカップルの邪魔をしに行っているわけではなく、未来の家族としての親交を深めるためだよ?


 「てことは、ジョゼお義姉様はアルお兄様と一緒に王都に住まわれるのでしゅか」

「ええ、そうなるわ。アルジャーノン様が第二王子殿下から側近として召し抱えられる栄誉を賜わりましたから」

「そっかー。まあ、こっちは心配いらにゃいと思うから大丈夫だにょ。パパも元気だし」


 同じ王族の血が流れている従兄弟なのに「召し抱えられる栄誉」とか言われちゃうんだね。

アンジーには、分からない世界だよ。


 そんなこんなで、今日も暇なのか別邸に伯父さんが来てる。


 「あ、そうだ、アンジー。私、離縁したんだよ」

「捨てられたにょ?」

「…………どうしてそうなるのか、いや、聞くのは止めておこう。あちらの都合だよ」

「やっぱ、こんなオジサンやだって話?」

「そうじゃないよ。元々は、高位の癒しの精霊と契約を果たした彼女を保護するためだったんだよ。彼女は、せっかく癒しを施せるのだから民に尽くしたいと、神殿へと入るつもりでいたそうでね。でも、それではあまりにも不憫だと彼女の家族が嘆くものだから、私の後妻として引き受けて、貴族らしい生活をさせるつもりでいたんだよ」

「てことは、神殿に入っちゃったにょ?」

「ああ、婚約発表の会にもいたんだけど、あのような華やかな場よりも神殿の静謐な雰囲気の方がしょうに合ってると言ってね」

「しょっかー。まあ、同じ歳だけど、しばらくとはいえ伯母と姪の関係だったし、少し寄進しておくにょ。甘いものは寄付のみだっけ?」

「そうだよ。必要最低限のものは買うけれど、甘味はなくても生きていけるからね。甘味だけは寄進されたものでしか口にできないと聞いているよ」

「じゃあ、甘いもの中心で、多めにしておくにょ」


 私がそう言うと、伯父さんはすげぇ笑顔で喜んでくれたんだけど、私ってそんなに不信心者に見えたんかねぇ?

また独身に戻った伯父さんは、もう再婚するつもりはなく、私の子が産まれてくるのを楽しみに待つことにしたと言って、スキップしそうな雰囲気で帰っていったんだけど、楽しみに待つとか言われてもまだ何も宿っとらんし、そういうこともしてないで?


 上の婚約が決まった、つまり、王子様方とその従兄弟であるアルジャーノンお兄様が予約済となったことから、しばらくは婚約ラッシュが続くとのことで、王都では頻繁にお茶会が開かれることになるんだってさ。

私は、行かないけどね。そんなめんどくさいことゴメンでやんす。それに私は既婚者だしね。


 自宅が一番落ち着くと、ハンフリーお手製の野菜クッキーを食べながらお茶をしているアンジーちゃんですが、相変わらずオヤツは栄養重視で作られておりまっせ。

 たまに、なんか不格好なクッキーが出てくるんだけど、それはクリフが作ってるらしい。

餅は餅屋やで?愛を込めたいのは分かるけど、その道のプロには敵わんと思うで?まあ、食べてるけど。しゃーないなぁとか言いながら満更でもない顔して食べてますが、何か?


 前世であれば、そろそろ中学生になろうかという年齢なんだけど、この世界は義務教育なんぞありゃしません。

てことで、私がやることといえば本を読むか、お庭の散歩、ダンスの練習、たまに領地内しか行かないけど買い物。そして、ごくたまに刺繍。刺繍も旦那のハンカチやネクタイみたいなものにちょこっとやるだけやで?


 平和な時代に生まれたようでイヴァちゃんの出番も今のところなく、二人してのんびりとした日々を過ごしてんだけど、たまにイヴァちゃんはフラっとどこかに消えているので、ボケたおじいちゃんの世話でもしに帰っているのかもね。


 そんな変わらないようでいて、変化していく人生をこれからも歩んでいくんだろうな、と漠然とした思いはあるけれど、とりあえず産まれた子が伯父さんのところへ養子へ行く際には、鬼神ハンフリーシリーズを持たせてやらなければ、ということは考えている。と言うか、既に用意してある。ベビーベッドや肌着よりも先んじて用意したのだから、どれだけ鬼神ハンフリーが熱いのか分かるでしょ?

というか、まだ処女なのに産まれてくる子供の持ち物を用意してたりする。


 さーてと、今日の夕食は何かなー?

何が出てきても必ず美味しいので、楽しみでしかないんだけどね。


 (終)


 

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る