37 あああぁぁ〜

 そんなに待たされることもなく、割と早く帰ってきたイヴァちゃんによると、「壊したのだからいらないのだろう」ということで、降精霊祭を行なっても獣人には反応しないようにしていた、とのことだった。

悪いのは小競り合いの末に降精霊祭で使うものを壊した連中なのだから仕方ないにしても、関係の無い他の国の獣人にまでそれを背負わせるというのは、何か違う気がするんだけど。


 「あー。おじいちゃんボケてるからね。人の年齢なんて見た目で分からんとか言ってたし。やらかした獣人が見分けつかなかったとかいうオチ?」

「オチ?ああ、アンジーの言ってるオチ、いいわね、そのオチって。まあ、簡単に言えばそういうことだったみたいよ?でも、さすがにそれは可哀想だから、緩和してあげるように言ってきたわ」

「おお、イヴァちゃん、ありがちょー!緩和って、どれくらい?」

「水系統の精霊だけ解禁してきたの。道具を使えば風と火は起こせるけど、水は難しいもの。今年の年末から降精霊祭を行えるようになるわよ」

「しょっかー。ありがちょね、イヴァちゃん。てことで、アーヴァイン陛下、降精霊祭用の道具ってあるよね?」


 あまりにも無反応だったため、鼻にナッツ詰めたろかな?と思い始めたところで、やっと返事した。ちっ。


 「あ、ああ……、なんと言って良いのか……、精霊王妃様、感謝いたします……っ」

「えー、アンジーにはないにょ?」

「遺憾ではあるが、感謝しておこう。あと、聞きたくはないが、あえて聞く。ボケたおじいちゃんとは何だ?」

「うん?ボケたおじいちゃんは、ボケたおじいちゃんだにょ。それ以外に何かあるかにゃ?」

「あの、アーヴァイン伯父さん。アンジェリカ様が『ボケたおじいちゃん』と呼ぶのは、とあるお方だけです。あの……それが、精霊王様なんです」

「お妃様を前にしてこの不敬……っ、なんたることか……!」


 アーヴァイン陛下、膝をついてガックシ……って、やってんだけど、大丈夫? 

と思ってたら、控え室の扉が開いてパパとママが入ってきた。


 「アンジー……?何をしたのか、パパに正直に言ってごらん?」

「にゃんで、アンジーのせいにゃにょ!?」

「噛みまくってるところを見るに、やっぱりアンジーが何かしたんだろう?」

「噛んでるのは、いつものことでしゅ!!うわーん、ママー!パパがいじめるぅ〜!せっかく降精霊祭ができるようにしたにょにーーー!」

「あらあら、あなた、いけませんわ。何でもアンジーちゃんのせいにしては。よしよし、いい子ね、アンジー」

「またアンジーを甘やか……ちょ、今、なんて言った!?降精霊祭が出来るようにって、何っ!!?」

「あー、父上。アンジーが精霊王妃様にお願いして、獣人が降精霊祭を行えるようにしたんです。獣人は、魔法を放てないのではなく、降精霊祭が行えなくなっていたのだと、ティグルム国王陛下から伺いました」


 パパが、「あああぁぁ……」と、頭を抱えてうずくまったんだけど、何をそんなに悩んでんのかねぇ?

そう思っていたらママの後ろに控えていたハンフリーから、「抑圧されていた獣人が精霊と契約を結んだことで、人間の住まう国へ侵攻してくる可能性があります」と言われた。


 「戦争のために降精霊祭を行えるようにしたわけじゃないにょ。でも、攻めてくるというなら、受けて立ちゅ!」

「ええ、そうね、アンジー。争うためにわざわざ夫に頼んできたわけじゃないもの。攻めてきたら更地にしてあげるわ。うふふっ」

「ティグルム国王陛下、何とか周辺の獣人国へ通達をお願い出来ませんか?うちのアホ娘、やりかねないので……」

「承知した。どの道、今は国が割れたところで外のことを気にしている暇もないだろうからな。これを機に人間の国と友好を結ぶ方へ動くだろう。どこかで誰かが、晴らしたい過去の恨みを飲み込まねばならぬ。それが、今なのだろうよ」

「感謝いたします、ティグルム国王陛下」

「よい。……子を持つ親は大変だな。俺は争いに身を置く立場だったものでな。まだ、連れ合いも子もおらぬのだが、さすがの俺でもアンジェリカのような子はちょっとな……」


 おい、こら、アーヴァイン陛下。可愛いアンジーちゃんに向かって何てことを言うのさ!

うん?アーヴァイン陛下って未婚だったのか。あ、それで、ティー君に戻ってきてほしかったのかな?国王の甥っ子ともなれば継承権もあるしね。


 ティー君が王様になりたい!っていうんなら涙を洪水にして送り出すくらいの覚悟は、ほんのちょっぴり決めていたんだけど、真の騎士としてそばにいてくれるって言うからさ。

まあ、ドラゴンちゃんに乗って里帰りするくらいのことは、許可しますとも。アンジーちゃん、そこまで心が狭くないので。


 イヴァちゃんから癒しを施されたアルジャーノンお兄様の婚約者ジョゼフィーヌ様は、トラウマも癒されたのか、ティー君とアーヴァイン陛下の牙を見ても何ともなかった。

よかった、よかったとニコニコするアンジーちゃんは、彼女のことを「ジョゼお義姉様」と呼ぶことにしたでありんす。「ジョゼフィーヌ」とは呼べずに「ジョゼフィーにゅ」になるからだよぅ!


 精霊王のお妃様であるイヴァちゃんですら治せない私の滑舌。

おのれっ!!


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