35 ママから貰った便利道具
ティグルム王国の国王と、やんのか、こら。おん?というやり取りを終えて、婚約発表が開催される会場へと向かうことになったんだけど、ここでアルジャーノンお兄様とは別行動になるそうな。
アルジャーノンお兄様と王子様方は、婚約者になったご令嬢と一緒に入場しなければならないんだってさ。
「おい、ところで、お前の滑舌の悪さはどうなってるんだ。年齢的におかしいだろう」
「双子の兄に魔力を奪われてた後遺症」
「なんだと……?始末したのか?」
「物騒!生きてるよ。ねぇ、クリフ、生きてるんでしょう?」
「とりあえず、処分保留ではありますね」
「何か、微妙な言い回し。ということだそうでしゅ。というか、『お前』ではなく、アンジェリカと呼んでくれませんか?」
「分かったが、その腹の立つ顔は何だ?それと、俺のこともティグルム国王と呼べ」
「自分の名前にすら、ついこの前まで噛んでたのー。ティゴロム国王……、何か違くにゃい?」
「…………。渋々ではあるが、お前、じゃなかったアンジェリカには、アーヴァインと名前を呼ぶ許可をやろう」
「アーヴァイン。おおっ、言えた!」
「呼び捨てかよ」
アーヴァイン陛下ね。あまり親しくない場合はティグルム国王と呼ぶのが普通なんだけど、言えなきゃ意味ないからね。
ちなみに、ティー君のお母さんは王妹殿下となるそうで、お名前をアイヴィー様というそうです。むふふ、噛まずに呼べましたよ?
私は会場入りしたらクリフの横に突っ立って、黙ってりゃ仕事が終わるそうなんで、大人しくしておきます。
口を開くと噛みまくるからね。みんなの憧れ竜騎士の花嫁が噛み魔とか、夢ぶち壊しでしょ。
ということで、ママから便利道具である扇子を貰ったのー。
使わないときは閉じて左手で持って扇子を右向きに平行に持っていなきゃいけないんだけど、これを広げて顔の下半分を隠せば「お前とお喋りなんてしねぇよ?」って、意味になるんだってさ。便利だね。ぶっちゃけ口でお前と喋んないしって言ってる時点で喋ってるもんね。
顔の下半分を隠す以外の使い方は、既婚者とはいえ未成年なので、まだ覚えなくて良いとママが言ってたんだけど、使う日が来るとは思えないので、覚える気はないんだな。
扇子を持てるのは既婚者だけで、最初の一本は母から娘へ贈られるんだけど、それを貰えていないと自分で用意することが出来ないため、結婚しているのに扇子を持っていないのは、「うちの娘は不出来なので皆様でご指導のほど、よろしくお願いしますね」ってことらしい。
母親から扇子を貰えないと、衣装に合わせて扇子を用意したくても出来ないということなのよ。
母親がいない家はどうするのかというと、親戚の女性が贈ってくれることになるんだけど、その場合、贈った女性が後見人のような立場になるため、本当に贈っても大丈夫か、きちんと見定めてから贈るそうな。
扇子を持てるのが既婚者の女性、もしくは連れ合いを亡くされた女性なのは、その扇子を使ったサインの中に無言のお誘いというものがあるからなんだけど、扇子の節を何本開いてどの方向に向けるかで、「あなたと休憩したいわ」というサインがあるからなんだって。もちろんそれにはピンク色の意味が含まれていることもある。
何で、アンジーちゃんが知ってるかというと、「鬼神ハンフリー武勇伝」に出てきたから。そういった扇子を使ったお誘いをハンフリーがされている描写があったのだよ!しかも、敵のスパイから!その誘いに乗るフリをして捕らえたんだけど、あれにはハラハラもしたし、捕らえるところに行くまで「ハンフリー、マジかよ!?」てなった。
そんなお色気シーンがちょびっとある本を何故アンジーちゃんが読めるかというと、既婚者だからっていうのもあるんだけど、そういった性教育が始まってるからなのさ。
何もピンク色の話なんてないで?知らないと「怖っ!!」てなるような話が満載です。
だって、知らずに扇子を閉じ忘れて中途半端に開いたままに変な方に向けていたら、いつの間にか「あなたの子がほしい」という、エロ方面なのか猟奇的な方向なのか、判断に悩むサインになっていたりするらしいからね。
つまり、子種じゃなくて、既に生まれているあなたの子がほしいとか言ってることになりかねないんだなー。そんな女性と関わりたくないでやんす。
そんな、ママとの心温まる出来事などを思い出しているうちに、国王陛下のありがたーいお言葉と、婚約発表が無事に終わりやんした。
偉い人の話を真面目に聞くと眠くなっちゃうからね。テキトーに流しておくのが一番でっせ。
あ、ちなみに今は昼間なので、夜会のようにダンスを踊ったりはせずに、会場内に飾られた花々や庭を堪能しながら腹の探り合いをするんだってさ。
アンジーちゃんには関係のない話だね。
初っ端から軽食コーナーに行ってもちもちするのはダメだと言われているので、しばらくはクリフの横で大人しくしているつもりだけど、さっきハンフリーにサクサククッキーもらったから我慢できるで?
私の周囲には知り合いしかおらず、小声でならお喋りできそうなので、クリフとティー君とたまにアーヴァイン陛下とアイヴィー様が混ざって、ティー君がうちに来たときからの話をした。
そのときに、ティー君が買われた理由が獣人は魔法を放てないからだということだったんだけど、種族的な何かなんだろうか?と疑問に思って聞いてみたところ、そういうんじゃなかった。
なんと、だいぶ昔に種族の違いからの小競り合いの末、降精霊祭に使うアレをぶっ壊してしまったんだって。
「アホ?」
「これ以上いないほどのアホだ」
「アレって、どこで手に入るにょ?」
「やめんか。果物を買うような感じで言うな。精霊王様から賜わるに決まっているだろう」
「へぇー」
あのボケたおじいちゃん仕事してんのかな?
まあ、壊しちゃったものを与えた方が直してやる義理はないか。
家に帰ったらイヴァちゃんに聞いてみよーっと!
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