33 新たな地位

 メイドさんたちにゴリッゴリに磨かれて、くたびれたアンジーちゃんです。

何が楽しいのかアンジーには分からないんだけど、お世話をしてくれるメイドさんたちって、いつも楽しそうなんだよね。


 あ、そうそう。

ティー君ことティグルなんだけどね、奴隷から解放しようと思うけど、どう?という提案に対して「遠慮しまーす」とのことで、未だに私の奴隷ちゃんです。


 というのもね、ティグルの伯父さんが王様になったらしくてさ。

国王の甥っ子を奴隷のままにしておくわけにはいかんでしょう、となったんだけど、ティグルは「俺が奴隷から解放されると、お嬢様のドラゴンに乗れなくなるので……」ということで、そのためだけに奴隷のままでいることを選んだそうな。


 竜騎士の花嫁とその夫しか乗れないドラゴンに同乗できるというのは、かなりの強みらしく、本人が構わないのであれば、私の奴隷のままでいてくれると安心ではあるらしい。


 でも、今の時点でピアス付きという待遇ではあるので、奴隷から解放されたところで大して変わらないっていう、ね。

むしろ、ピアス付き奴隷だからこそ、トラブルに巻き込まれないところもあるので、それを解放するのも良し悪しなのよ。


 ただ、奴隷のままだと公の場には出られないため、そこは我が国の国王陛下が新たな地位を用意してくれて、ちょっと束縛が強めの側近みたいな立ち位置らしい。

その名も「真の騎士」。真のって付けるの好きね。とか思ってたら、真の愛と同列に扱うレベルの凄いものなんだとか。


 そんでもって、ティグルだけがそれになると、取ってつけた感が満載だからと、鬼神ハンフリー様もなってくれたのでありますよ!!

もちろんハンフリーは、バートレット侯爵家からママについて来てるので、対象はママになる。ママすげぇ。鬼神ハンフリーを従えちゃったよ!


 ティグルのピアスは、私の色である金の土台にエメラルドなんだけど、ハンフリーに贈られたピアスはママの瞳の色である「薔薇の口付け」という名の目玉が飛び出そうなほど高い宝石が使われているんだって。めっちゃエロかっこいい宝石。さすが、ママ。


 でもね、ハンフリーが真の騎士という立場になったからといって、奴隷契約をするわけじゃなく、何か特別な宣誓をするみたい。

それは、国王陛下立ち会いのもと行われ、それが成されたあとに陛下から真の騎士を表す勲章が授与されるんだって。

 

 だから、その勲章もティグルに与えられるので、彼が奴隷なのかどうか、見ただけでは分からなくなった、ということでっせ。 


 ちなみに、真の騎士は、一人のあるじに一人だけ。

真の騎士が何人もいたら、「真」ではなくなるからだろうね。


 今回行われる婚約発表には、そのティグルの伯父さんも招待されているらしいんだけど、どうやら友好関係を築けていますよ、というアピールが目的なんだとか。


 私たちが住んでるクリスタルラビリンス王国って、そんなに獣人差別はないらしいんだけど、その代わり奴隷への線引きはかなりキツい。

獣人だろうがそうでなかろうが、奴隷の男女は雌雄呼び。アルジャーノンお兄様がティグルを連れてきたときにオス、メス発言をしていたけれど、それは相手が獣人だからではなく、奴隷という立場だったからだと、後で知ったんだよね。


 ということで、公の場に一緒に出ることになったティグルもゴリッゴリに磨かれたようで、いつもより髪がサラサラキラキラしてるし、尻尾の毛並みもふわふわキラキラ。

ただし、目は死んどるがな。やり切ったメイドさんたちは、満足気だったよ。


 目の細さや種類の違うブラシとくしを何本も使われたそうで、途中からこれは拷問なのだろうかって思ったらしい。

わかる。私も髪を梳かすときに同じようなことされるからね。美しくあるためには、大変な思いをしなければならぬのだよ。


 髪の長さは富の象徴でもあるからね。

だから、ティグルの髪もこの8年で伸ばしに伸ばしてもらって、腰までの長さになったため、普段の洗髪は専用の魔道具を使ってもらってんのよ。


 なんかね、寝台みたいなマットが付属してて、そこに仰向けになって頭をその魔道具にセットすると、自動で洗ってくれんのよ。

しかも、仕上げのリンス付き。前世でもこんなのあったら欲しかった、とか思ったけど、高級車が買える値段でした。まあ、公爵家令嬢でもあり竜騎士の花嫁でもあるアンジーちゃんは、余裕で買えたけどね!


 そんなこんなで、サラサラキラキラになった髪をポニーテールにされたティグルは、ママがデザイナーさんと相談してオーダーした騎士服を着ている。

騎士服って、階級章や勲章をつけられるデザインになっていて、色は基本的に白なんだけど、国王陛下の意向で「真の騎士」には、その地位を表す勲章以外はつけず、生地は黒で刺繍の色は主人の色を使うこととしてくれたの。


 真の騎士は、騎士としてなれる階級のトップになるし、どれだけ武勲をあげたかではなく、どれだけの忠誠を誓えるかだから、他の勲章など邪魔だ!ということらしい。

まあ、ぶっちゃけ、騎士のトップという位置づけになるんだから、どれだけ忠誠心が強くても物理的に弱い者では、それにはなれないって話なんだけどね。


 前にハンフリーの勲章付き騎士服を見せてもらったことがあるんだけど、勲章やら何やらで、チロリアンテープみたいなことになってた。内容は可愛くないけどね!

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