32 野営メシ!
ハンフリーの野営メシは、別邸から本邸へ向かうまでの間にある森に面した道で開催された。
雰囲気もバッチリで、森の中から食べられる野草などを使用人たちが採取してきてくれたので、かなり本格的な野営メシであーる。
ほとんどハンフリーがやってくれて、使用人たちは細々としたことしかしてないんだけど、ハンフリーの手際が良過ぎて早過ぎて手出しが出来ないみたい。下手に手出ししようものなら邪魔にしかならないっていう、ね。そんな感じ。
即席で作った
だって、ハンフリー武勇伝に出てきたからね。
ただ、仕えている家のお嬢様の口に入るものということで、今回この鍋に使用している盾は新品なんだそうな。
うん。血と汗と泥が染み込んだ盾で煮込んだスープは、有事の際ではない限りご遠慮申すでござるよ。
スープに浸して食べるパンのような物もあって、それは、お腹にたまりやすくて栄養もあって軽いという、便利な食品なんだけど、おっそろしく硬い。
兵士たちはそれをスープに浸して食べるそうなんだけど、お嬢様のアンジーちゃんの顎にそんな攻撃力は無いわけでして、ハンフリーはそれをスープで煮込んでくれております。
ただ、とても加減が難しいらしく、気を抜くとパンの形がなくなってドロドロになってしまい、冷めると岩のようになってしまうんだとか。
ねぇ、それって食べても大丈夫なもんなの?ねぇ?
まあ、何かあったとしてもイヴァちゃんがいるから大丈夫なんだけどね。
何せ、全属性なもんで。火とか風とかだけかと思っていたら治癒も使えるんだとか。そうだね。全って付くもんね。全部だよね。
だから、プチとはいえ癒しの精霊と契約できた
しかも、今後、他の令嬢がとんな精霊と契約できたとしても、イヴァちゃんを超えることはまず無いので、降精霊祭の結果ではなく政略的な判断で婚約者が選ばれることになったんだってさ。
つまり、アルジャーノンお兄様や王子様方の婚約者が決定したんだと。
その発表会なるものが城で行われるもんで、アンジーちゃんも出ろと言われてるんだけど、心配しなくてもちゃんと出るで?
だってさぁ、ねぇ?ハンフリーが騎士服でママの後ろに控えるって聞いたんだもん。見たいから出るに決まってるじゃんねぇ?
それに、アルジャーノンお兄様の婚約者がどんな人なのか気にもなるし。兄嫁だよ、兄嫁。
そうそう、ハンフリーって、ママの実家から来てたのよ。
鬼神ハンフリー武勇伝を読んで知ったんだけど、ママの実家バートレット侯爵家は武闘派のお家みたいだね。
出来上がったスープからは、お腹が鳴りそうな匂いが溢れており、めちゃくちゃ食欲をそそられるんだけど、やばい、感動の涙が滲むよ。
絵本の中にしかいないと思っていた鬼神ハンフリーが目の前にいて、スープをよそってくれたんだよ!?うわー、うわー、アンジーちゃん、人生に悔いはなし!!もう、思い残すことはないね!!
「アンジー……、何をそんなに感動してるの?」
「パパには分からないにょ!?この感動がっ!!絵本の中にしかいないと思っていた鬼神ハンフリーが実在して、絵本の中に出てきていたスープを作ってくれて、よそってくれたんだにょ!?」
「えぇー……。僕には、ハンフリーはハンフリーでしかないからなぁ。逆に僕たちは、ハンフリーが絵本に出てきている方が驚きなんだよ」
「むぅ。アルお兄様は、分かってくれましゅか?」
「もちろんだよ!あ、そうだ、アンジーが行った店に僕も行って、調理服シリーズを買ってきたよ。包丁を振りかざすやつなんかは、特に秀逸だね」
「そうでしょう、そうでしょう!!あれ、アンジーもお気に入りなにょ!」
アルジャーノンお兄様がそのお店で色々と聞いてきたんだけど、鬼神ハンフリー調理服シリーズを作っているのは、ハンフリーと戦場を駆け抜けた元兵士で、年齢を理由に引退した後は、ハンフリーの許可を得て人形を作っているんだそうな。
でも、調理服シリーズはなかなか売れなくて、買っていくのは、鬼神ハンフリーマニアな人か、鬼神ハンフリーといえば調理服だろうという、彼を慕う元部下たちなんだとか。
「鬼神ハンフリー武勇伝を読めば、調理服を着ているハンフリーこそがハンフリーだと思うんだけどにゃー。他の人は違うのかにゃ」
「絵本までで読むのを止めると調理服へは繋がらないのかもね。というか、鬼神ハンフリー武勇伝の本を制覇して置いてあるのは、アンジーのところの別邸くらいだよ?」
「そうなにょ?」
「そうだよ。ほら、母上が贈ってくれた本があっただろう?あれって、作戦内容とかも軽く書かれていて、世に出されるとちょっと困るらしくてさ。禁書扱いになってるんだよ」
「ああー、あの難しい本。うん、読むの大変だったと思ったら、普通に作戦が載ってたのね……。でも、あれを読んだからこそ、理解が深まった気がするー」
私とアルジャーノンお兄様の会話に照れて顔をモニモニさせるハンフリーの後ろでドヤ顔してる人がいるんだけど、その人はハンフリーの側近で、彼がその禁書扱いになってしまった本を書いたらしい。
どうりで詳しいわけだよ。後ろか横でいつも見てんだから。
まあ、禁書扱いになってしまったその本を世に出すつもりで書いたというよりは、鬼神ハンフリーという人物がどれだけ素晴らしく凄い人なのかを知って欲しいという思いからだったそうで、禁書になっても別に困っていないそうな。
アルジャーノンお兄様みたいに、バートレット侯爵家の血を引く子供に知っておいて欲しいという感じだったみたい。
アンジーちゃんは、血族ではないけれど、ママが娘認定したので良いそうな。
あと、読んでも作戦を理解できるとも思われていなかったみたい。うん、さっぱり分からんかったよ。眉間にシワが寄る度にターナが伸ばしにきてたし。
あぁ〜……、食べるのがもったいないと思ってしまうけど、美味しいうちに食べよう。
おっそろしく硬いパンがイイ感じにふやけてプルリンっとしていて、コクと深みのあるスープを吸い込んでいて、超絶美味しいっ!!
分かりやすく言うと、里芋、ちょっとクセの強い人参、セリ、ゴボウ、何かの肉、小松菜、あと何かな?んー、サクっとしたカボチャ?みたいなのが入ってる。おいしい。
でも、パパは顔をちょっと顰めてるんだけど、何で?
「何で、アンジーは平気なの?」
「平気じゃない部分がどこにあるのか分からにゃい」
「えぇー、だって、何か青臭いよ?」
「どの辺がー?」
「え、もしかして、アンジーも味覚壊れてんの!?」
「
どうやら都会っ子のパパには山菜の美味しさは分からないようだったので、「これだから都会っ子は」みたいなことを言ったら、バートレット侯爵にも言われたことがあったらしい。
何で僕の娘なのに、ローズの娘みたいになってるんだろうと、首を傾げるパパだけど、産みの親より育ての親ってところでしょう。パパが産んだわけではないけど。
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