31 おかえりー

 これといって何かが起こることもなく、毎日を過ごしていたんだけど、悲しいお知らせです。

鬼神ハンフリー武勇伝シリーズを読み終えてしまった……。


 結構たくさんあったように思ったんだけど、冬だし、暇だし、やることないしで、冬の間にかなりのスピードで読破しちゃったんだよねぇ。

ちなみに今は初夏で、アンジーちゃんは誕生日が過ぎて11歳でやんす。もうすぐアルジャーノンお兄様が夏休みで帰省してくるよー。


 やることないっていっても午前中はちゃんと勉強してたよ?


 普通のご令嬢やご夫人方は、普段何をしているのか聞いてみたんだけど、刺繍と楽器と歌とダンスが主で、あとは各々の好みや家柄に応じて令嬢は習い事が増えていくそうな。

でも、それって社交に出るから必要なのであって、引きこもりアンジーちゃんには無用の長物なので、やりたくないならしなくても良いとママに言われたから、やってない。


 ただ、成人したときに貴族のほとんどが参加するというお披露目夜会なるものがあって、クリフは私とその夜会でダンスをしたいと遠慮ぎみにおねだりしてきた。

私がめんどくさがって、出なくて良いなら出たくないと思っていることを察して、遠慮してんだろうけど、ぶっちゃけ本気で面倒臭い。


 でも、パパが「出ろ!」とうるさいんだなー。

まあねぇ、竜騎士の花嫁が、しかもイヴァちゃんと契約した私がその夜会に出ないってなると、国を蔑ろにしているような印象を受けるそうなので、しゃーなしで出ちゃる。


 てことで、午前中の前半は領内に関しての座学、後半はダンスの練習をしているんだけど、その練習相手はナサニエルじいちゃんか、男性パートを踊れる、いつも護衛をしてくれているお姉さんこと、ジュディスなんだけど、滑舌が悪いせいで「ジュディス」とは呼べずにいる。

何故か「にゅじぇす」と口から出てきた5歳の頃、11歳となった今は頑張って「じゅでぃぇーす」と言えるようになったけど、何か恨みがあるんか?というような発音にしかならないので、愛をこめて「ディージュ」と呼んでる。


 私とダンスの練習をしたいがために、隙間時間を作ってはクリフが王都からドラゴンちゃんで帰ってくるんだけど、パパから仕事が滞るので止めろと言われたんだよね。

え?ダンスを?て、手紙を出したら、「言語学の教師を増やす必要がありそうだな」って言われたからボケるのを止めて、クリフに「ちゃんと仕事しないと別れるぞ」って言っておいたら、パパに怒られた。なんでや。


 そんなこんなで、アルジャーノンお兄様が帰省してくる頃には、仕事が終わったのか一段落ついたのか、パパとクリフも一緒に帰ってきた。


 「おかえりー」

「ただいま、アンジー!会いたかった!!」

「クリフは毎日会ってるにょ」

「アンジーは寝ていることが多くて、私には会えていない日があるでしょう!?」

うっけちゅ鬱血が、そのうちアザになりそうだから、帰ってきてるのは分かってるにょ」

「ちょっと、クリフ……?そこに膝をつこうか?お祖父様からいい物を頂いたんだ。試してあげるよ」

「あははー、嫌だな〜、アルジャーノン様。それ、鉄くらいなら簡単に切れてしまうと話していた剣じゃないですか。仕舞ってください。危ないですよ?」


 クリフとアルジャーノンお兄様の追いかけっこが始まったんだけど、仲の良い義兄弟だねぇ。


 「アンジー、僕、まだ祖父にはなりたくないんだけど?」

「パパのえっちー。手の甲だにょ?」

「紛らわしいんだよ!?なんで、そんな誤解を招くような言い方をするの!?」

「え、楽しいから」

「だぁあああっ!!」


 パパご乱心〜。


 結局、鬱血マークが薄らとついているのが私の手の甲だったというオチで、追いかけっこは終わったんだけど、アルジャーノンお兄様は若干疑いの目をクリフに向けている。

心配せんでも大丈夫やで?私が未成年の間にクリフが手を出して来ようものなら、ナサニエルじいちゃんが必ず阻止すると約束してくれているからね。きっと、たぶん、ナサニエルじいちゃんはNINJAなんだよ。きっと、そう。


 てことで!!アルジャーノンお兄様が帰ってきたので、ハンフリーさん、おねげぇしますだっ!!


 「あれ?もしかして、僕が帰って来るまで待っててくれたの?」

「そうだにょー。というか、思いついたのが冬だった……」

「アンジーは戦に出ないんだから、冬の訓練なんて必要ないからね。今くらいの時期にピクニック感覚でやるのが良いんじゃないかな」

「戦?あるにょ?」

「なくても訓練はしておかないとね」


 あー、避難訓練みたいなのと一緒かな?

有事の際は、その訓練如何によって結果が左右される、みたいな?そんな感じかな?


 「イヴァちゃーん。戦争になったら、どうすればいいー?」

「薙ぎ払えばいいんじゃないかしら?」

「戦場が更地?」

「いやーねぇ、国ごとに決まってるじゃない」

「わーお、豪快〜。冗談よね?」

「冗談よ〜」


 本当かねぇ?アンジー、しーらないっと。

パパが頭を抱えてるけど、そのうちハゲるんちゃうやろか?


 ちなみに更地にするのに展開する魔法というのは、飲み込んでいった生き物から魔力を奪っていくため、発動するとき以外に魔力は必要ないんだけど、子供のアンジーちゃんでは発動させたはいいけど、停止させるための魔力コントロールが難しいから、停止させられない可能性が高いんだってさ。

20歳を過ぎれば、その魔法を発動させた後に停止させられると言われたんだけど、止められなかったら世界全体が飲み込まれるので、そんな怖いことはやりません。


 イヴァちゃんが、「そうなったときは夫が出てくるから大丈夫よ〜」なんて笑っているけど、イヴァちゃんの旦那さんって、あのボケたおじいちゃんでしょう?

あてにならんような気がするのは、私だけかねぇ?








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る