30 ご満悦なアンジーちゃん。

 王都観光を終えて、さっさと別邸に戻ってきたアンジーちゃんやで。

部屋の飾り棚にズラリと並べられた鬼神ハンフリーシリーズにご満悦でっせ!


 クリフは、まだ仕事が終わらないとのことで、私だけ戻ってきたんだけど、ドラゴンちゃんがいれば簡単に往復できるから、旦那クリフは夜には帰ってきてるよ。

アルジャーノンお兄様も「帰っちゃうの!?」みたいな感じだったんだけど、今の私は鬼神ハンフリーが激アツなので、帰りますぅー。


 午前中はお勉強、昼からはイヴァちゃん先生から魔法を習い、夕方から夕食の時間まで「鬼神ハンフリー武勇伝」を読む。

そんな生活サイクルなんだけど、アンジーちゃんね。ここではない世界で生きていた記憶があるもんで、身体の中にある魔力を探すのは割と楽だったのよ。前世に魔力なんぞなかったからね。これじゃね?みたいなのは、すぐに感じ取ることが出来たんだけど、そこからが面倒だった。


 この世界の魔法ってね、契約した精霊に魔力を渡してブッ放してもらうものなのね。

それを精霊から力を借りて自分で放つことも可能らしいんだけど、めっちゃ効率悪くて、やる人はほとんどいないんだってさ。


 水属性の精霊を例にとってみると、精霊にコップ一杯の水を用意してもらうのに魔力が5必要だったとして、それを自分でやると魔力を250くらい使う感じなんだよ?誰もやらないでしょ?とか言いつつ、やってみたアンジーちゃんがいます。達成感はあったけど、めっちゃ疲れたから楽しさは残らなかったよ。

 

 正しい用法は、契約した精霊に「直径30cmの水球を時速100kmで対象にぶち当てる」ことをウォーターボールと名付けたから今後それでヨロシク。と、お願いしておくと、「ウォーターボール!」と唱えるだけで、やってくれるの。


 つまり、どの呪文がどんな効果なのか精霊と一緒に把握していなければならず、術者本人もそれを覚えていないといけない。

イメージするだけで魔法が放てたりはしないのさ。


 だから、高位の精霊と契約した魔力の多い人は、その分だけ色んな魔法が使えるから、それがどんな魔法なのかを書き記した魔術書を持っていることが多いんだって。

でも、一から考えるのが面倒な人には、一般魔術全集というものがあるから、そちらを参考にしてくださいって感じ。


 ちなみに下位の精霊に難しいことは頼めないので、「直径30cmの水球を時速100kmで対象にぶち当てる」という指示を出しても、精霊が困惑しただけで終わるそうな。

下位の精霊っていうと、スライムみたいな不定形な見た目をしてるので、小さくても人型であれば、かなり融通は効くらしいで?


 それと、同じ癒しの精霊でも、リアちゃんともう一人の令嬢とを比べると、高位の癒しの精霊が1回で治せる怪我でも、プチ癒しの精霊だと5回やらないと治せない、というぐらいの力量の差があるんだけどね、リアちゃんは、王女様なわけよ。つまり、魔力量はものすっっっごい豊富にあるわけ。

それに対して、もう一人の高位の癒しの精霊と契約できた令嬢は、下位の貴族令嬢、つまり、魔力がそんなに多くないのよ。


 だから、1回で大怪我を治せたとしても、一日に治せる人数はたかが知れてるらしく、ぶっちゃけるとリアちゃんの方が豊富な魔力量でゴリ押しできる分、治せる人数が多くなるんだとか。


 ただ、リアちゃんは隣国の王子と婚約しているので、治療の最前線で癒しを施すようなことにはならないから、比べてもしょーがないんだけどね。

下位の貴族令嬢の方は、貴族の義務である奉仕活動があるから、そっちで活躍するかもね。


 ということで、イヴァちゃん先生とは「こんな魔法どうよ?」という雑談が内容を占めていたりするもんで、そのうち、ランチタイムからのダラダラお喋りティータイムへと、そのまま突入してしまうことが多くなったのよ。


 それでね。私が「鬼神ハンフリー武勇伝」を読んでいて、野営メシを食べてみたくなっちゃったもんで、ハンフリーにそれを頼んでみたのね。「お庭で作ってくれませんか?」って。

そしたらさぁ、既にそのプランは練られていて、あとは私の依頼を待つだけになっていたらしい。


 メイドさんたちの会話から私の部屋の飾り棚に、調理服のハンフリーシリーズが置かれていることを知って、もしかしたら野営メシを食べたいと依頼されるかもしれないと、準備をしてくれていたんだって。


 絵本や他の本に出てくる野営メシとか、携帯食も、私の口に合うように再現するべく改良を重ねていたのだと、彼の娘である護衛のお姉さんがコソッと教えてくれた。

 

 でも、ちょっと待てよ?と、思いまして。

アルジャーノンお兄様にお手紙を出したら、案の定「ずるいっ!!!」というお返事が届きましてねぇ。


 わたくしは、兄思いの妹でごじゃいますからねぇ?

アルジャーノンお兄様が帰省したときのサプライズにとっておくことにいたしましたわ!どうせ、今、お外は寒いしね、という本音を前面に押し出して。


 そのことをハンフリーに伝えると、頬をモニモニさせていたので、照れていたのではなかろうかと。

アルジャーノンお兄様も調理服姿の鬼神ハンフリー人形を欲しがっていたからね。それも合わせて伝えると、照れ照れが行き過ぎで目がギラついてたんだけど、どっかに獲物狩りに行きそうな勢いでっせ?


 そして、落ち着けとばかりに護衛をしてくれているお姉さんが、拳でハンフリーの肩を殴ったんだけど、殴ったお姉さんの方が痛そうだった。


 さすが、鬼神ハンフリー!!

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