29 よく見ると

 降精霊祭も無事に終わったことだし、王都観光をしてみたいと言ったら、イヴァちゃんも一緒に行きたいとか言うので、一緒に行くことになりやんした。

イヴァちゃんとは、私が契約した精霊王のお妃様のことなんだけど、本名はもっと長いし人に発音できないそうで、イヴァちゃんと呼んでほしいと言われたので、そう呼んでるの。


 何か、クリフはパパとお仕事があるそうで、一緒に観光できないのが嫌だと血涙流しそうな顔してた。

出会った頃のちょっとクールな感じ、どこ行ったんだろうね?


 護衛には、降精霊祭のときも一緒に来てくれたお姉さんが一緒なんだけど、他の護衛は見えないようについて来るんだってさ。

ゾロゾロと側近を引き連れて買い物なんて楽しくないでしょう?と、首を傾げるママは、普段から侍女二人、従者を兼ねた護衛一人で行動しているらしいんだけど、それだけ治安が良いのねん。


 てことで、ターナとミザリー、ティー君、護衛のお姉さんを連れて、いざ、観光へ!

イヴァちゃんは歩くのめんどいとか言って浮いてまっせ。


 魔道具付き引き車に乗って降り立ったのは、画像でしか知らんけどパリっぽいような街並みをした場所だった。

この辺は少女向けのお店が多く、歩いているのもそんな感じの年齢の子が多いんだけど、私めっちゃ目立っててウケる。


 同じような髪と瞳の色をした大人の女性と少女、その付き人と思われる女性が二人と護衛のお姉さん、ゴリッゴリのマッチョ虎獣人という組み合わせ。

しかも、イヴァちゃん浮いてるしね。


 それに、金髪にエメラルドグリーンの瞳というのは王族の血縁者とモロバレなので、私を見れば何者か察しがつくのだよ。

まあ、気にしなーいと、ポテポテと街を歩き、気になったお店に入って、いくつか商品を買っては、ティー君に預けるというのを繰り返してショッピングを楽しんだ。

 ティー君は軽々と荷物持ちをしてくれて頼もしい限りだし、持てなくなると引き車まで運んで行ってダッシュで戻って来てくれんの。


 ピアス付きの獣人奴隷は、付き人と同じくらいの扱いをしても問題ないので、ランチのときもティー君はターナたちと一緒に食べることが出来るようになったんだよね。

それまでは、食事は一番最後だったから、お庭でランチをすると私を待たせないようにって早食いしていたのが懐かしいわ。


 「久々に人の住む場所で食事をしたけれど、これはこれで美味しいわね」

「味付けとか違うにょ?」

「精霊が住んでいるところは素材そのものが違うから同じ味にはならないわ。それに、加工して食べることは少ないわね。もいだ果実をそのまま食べる感じよ」

「へぇー、しょうにゃんだ……。ねぇ、イヴァちゃん。この滑舌どうにかにゃらにゃい?」

「そのままでも可愛いと思うけど、時間が解決してくれるわ」

「それ、無理って言ってるよね」


 あっちへフラフラ、こっちへフラフラしていると、どうやらお店の雰囲気が少女向けから少年向けに変わっていたようで、チャンバラが出来そうなお土産がぼちぼち目につくようになってきた。

絵本に出てきてた剣とか盾とか、子供が持てる大きさで作られていて、ちょっと可愛らしかったんだけど、ええもん見っけた!!


 「……アンジェリカ様、それを買われるのですか?」

「うんっ」

「なぁに、アンジーちゃん。このお人形って、そんなに有名な人なの?」

「鬼神ハンフリー!」

「おっ、お嬢ちゃん、よく知ってるねぇ。これ、オジサンのイチオシなんだよ。鬼神ハンフリーといえば、調理服だろ?最近の子供はすぐに鎧を着たやつに飛びつくんだよ。彼の料理の腕があってこそだと俺は思うんだけどなぁ」


 イノシシっぽい生き物を足蹴にして包丁を振りかざす白い調理服を着たハンフリー人形がいた!!

しかも、めっちゃ似てる!!


 「別邸に帰れば本人がいるのに……」

「それとこれとは別だよー」


 何とも言えないような顔をした護衛のお姉さん。

そりゃ、微妙な顔にもなるよねー。だって、このお姉さん、ハンフリーの娘さんだもん。


 そのお店にあったハンフリーシリーズを制覇してホクホク顔で帰ることにしたんだけど、うん、さっさと別邸に帰って部屋に並べよう。

降精霊祭を終えて解禁となったハンフリーの本も読みたいし!


 ショッピングに行って何を買ってきたのか見たいと言う家族に、こっちは家族へのお土産でー、こっちは王都の邸にいる使用人、こっちは本邸にいる使用人、これは別邸の使用人、と並べていったらパパは苦笑していたんだけど、鬼神ハンフリーシリーズを出したら頭を抱えた。なんでや。


 「本人がいるだろう!?何故に買う!?」

「それとこれとは別だって。早く部屋に並べたい」

「しかも、それ部屋に並べるのか!?」

「いいなー、アンジー。それ、どこに売ってたの?僕、鎧を着たのしか持ってないんだよ」

「そうなのにょ?テキトーに歩いていたから、どこか分からないんだけど、聞けば分かるかにゃ?」

「アルジーまで持ってるの……?」


 愕然としてるパパは放置して、ターナに聞いてみたところ、お店の場所は分かるそうなので、アルジャーノンお兄様の従者に教えておいてくれるとのことでした。


 ママが嬉しそうにクスクス笑っていたから、いいじゃんね?


 鬼神ハンフリーが白い調理服を着て、小脇に盾ではなくクッキーを持った人形もあるんだけど、そのクッキーは、よく別邸で出してくれているやつとそっくりなの。

これを作った人は、よく見てるよねー。



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