閑話 パパは僕だけど、誰に似たんだろう?

 アンジーが参加した降精霊祭は、無事に……、いや、無事じゃないよね!?

なに、精霊王様のお妃様って!?何で、うちの娘と契約なさったんですか!?


 頭を抱えたあとに、陛下の御前だったと、何とか抑えて額に手を当てるだけで済ませたのに、ブラッドフォード伯父上に「それ、何か違うのか」と、シラけた目で見られたけど、規模が違うの!!頭全部か額だけかで随分違うでしょう!?


 そして、アンジーの言葉遣いが酷い。

ねぇ、父上がすぐそこにいるの。分かってる?僕の父上は国王陛下なの。この国で一番偉い人なの。そんな人がいるところで「おのれっ!」とか言うんじゃない!!


 それにしても、本当に誰なんだろう。別邸の図書室に「鬼神ハンフリー武勇伝」とか置いたの。

しかも、それを見つけたアンジーが面白がって全部集めたとか言い出すし。


 どこで育て方を間違えたのかなー。

いや、でも、3歳のときに既に能天気そうだったよね?ブラッドフォード伯父上は、僕に似てるとか言うけど……。


 でも、この能天気で物怖じしない性格のおかげで、グロリアーナは心に傷を負うことなく試練の塔から戻って来られたのだから、……いや、良いわけないよ、やっぱり。

滑舌は次第に治っていくとしても、もう少し取り繕うことを覚えさせないと。


 領地から出ないし竜騎士の花嫁だし、そこへ来て精霊王様のお妃様と契約しちゃったしで、アンジーを矯正することが難しくなってきたんだけど、一番の難所は僕の妻ローズがアンジーを甘やかすことなんだよね。

いずれ政略で嫁いでいくのだからと、家にいるときくらいは可愛がりたいと甘やかし、婿を取ることになったら、今度は手元に置いておけるのであれば甘やかしても責任が取れると甘やかして……。


 本当に将来どうなるんだろうと思ったけど、傲慢でワガママな子にはならなかったのだけが救いだよ。

いつも笑顔で優しい子に育ってくれたのは嬉しいんだけどね。何で5歳で竜騎士の花嫁になったり、精霊王様のお妃様と契約しちゃったりと、頭を抱えたくなるようなことが起こるんだろうね?


 しかもさぁ、妻のローズだけじゃなくて、母上までアンジーを甘やかそうとしてくるし。

何で、毎日、違う衣装にする必要があるの?ねぇ?アルジーには、そういうのなかったよね?と思ってたら、そっちはローズの父上と僕の父上がやってたらしい。


 あのね。手は2本しかないの。両手で4本の剣が持てたりしないの。

ねぇ、どこの武器商人?ていうほど武器があるんだけど、どこかと戦争でもするの?何で、それをアルジーは喜んで並べてるの?


 あぁ……、そうだった。

アルジーって、妻のローズに似たんだった。


 てことは、別邸の図書室にあったっていう「鬼神ハンフリー武勇伝」を置いたのは、ローズだね!?

彼を側近として寄越したのは、ローズのお父上だから、たぶんそうだろう。


 ローズの実家は武闘派だからね。

彼女も武器になる扇とか持ってるし。


 ローズとの婚約が結ばれたとき、彼女から「万一の際は、わたくしが抑えますので、振り返らずに行ってください」と言われたんだよね。

いや、一緒に逃げようよ、と言えなかったのは、それがローズの生まれた家のことを考えたからだ。

 耳に優しい甘い言葉など、口からいくらでも出てくるけれど、僕が彼女に言ってあげられたのは、「ならば、帰りをいつまでも待ってるよ。来世でもね」というちょっとキザな言葉だけだった。

そのときの照れたローズの破壊力は最強だったね。


 遠くを見つめて、そんな昔のことを思い出していると、部下から報告が上がってきた。


 「へぇー、娘を切り捨てたか。でも、まあ、彼の家へ後妻で入ったのだから、もう何も出来はしないだろう。あの伯爵家当主は、王子の魔力を奪うものを絶対に許しはしないからね」

「ブラッドフォード様の乳母をされていた方の孫にあたるんでしたよね?」

「そうだよ、クリフ。伯父上の魔力が抜かれていたことに気付けなかった咎を受けて、毒杯を賜わったその乳母を祖母に持つ人だよ。もう一つ言うとアンジーの伯父だよ」

「は?」

「彼の異母妹がアンジーの代理母なんだよ」

「そうだったんですか……」

「もし、生まれてきた子が不出来であったなら、こちらで責任を持つからと言われてね。だから、あの愚か者アンドリューは成人後、断種をしてあちらに引き渡すことになっているよ」


 お取り潰しにはならなかったが毒杯を賜わったことで、あの伯爵家にはまともな縁談は来ず、それは、彼の代になっても変わらなかった。

彼の異母妹は、10歳、15歳と続けて精霊と契約し、20歳では高位の精霊との契約に成功した優秀な令嬢だったけれど、それでも嫁ぎ先が見つからなかったんだ。


 同盟国から嫁いできた王妃が産んだ第一王子の魔力を抜いたことで、あちらに睨まれることになってしまったため、巻き込まれたくないと、ブラッドフォード伯父上の件に関わった家には誰も近付こうとしなくなった。


 魔力は父親由来、精霊との親和性は母親由来だというのに、それでも嫁ぎ先が見つからなかったとなると、どれだけ根深い事件だったのかが分かるよ。


 僕は、駒にするつもりで彼の異母妹を代理母として受け入れたんだ。

それでも構わないと、あちらが言うから。


 でも、それは、王太子の弟と関係を持てたことで、王家との遺恨はないよ、と主張するためのものだった。

それを分かっていたから僕も受け入れたし、ローズも承諾してくれたんだ。


 僕も男だからね。ローズ以外なんて無理だよ!なんてことは言わなかったけれど、胸の内にしこりが小さく出来るくらいには負担になっていたよ。

まあ、アンジーが育つにつれて、そのしこりはどっかに行っちゃったけど。


 アンジーが参加した降精霊祭には、彼ももちろん伯爵家当主として来ていた。

食い入るようにアンジーを見つめていたけど、事情を知らない人が見れば、ただの変態に見えるからね?ましてや、今回、あの予知夢を見られるとかいう変な令嬢を引き取ってくれたことで、少し距離を置く人も出てきてるんだから、気をつけてほしいところだね。


 まあ、アンジーが5歳で人妻になった衝撃があったものだから、色々言う人は少なかったみたいだけどね。


 さて、あの変な令嬢からどんな情報を引き出せるかな?

たった10歳の子がどこまで理解してやっていたのか分からないけれど、前世の記憶持ちなら遠慮はいらないからね。キビキビ吐かせて、さっさと阿呆共を片付けなくちゃ。

 





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