25 お気楽な奥さん

 最近は、お勉強といえば絵本。みたいな生活はさせてもらえず、絵本は休憩時間に読むものになってしまったんだけど、私は既に旦那のいる身なのと、その旦那の仕事が領地を当主に代わってやる代官というものなので、社交をする必要がないんだとさ。


 男の子の場合は、家庭教師を雇って自宅で勉強というのが貴族の主流なんだけど、優秀な家庭教師は人数も少なく賃金も高いため、上位の貴族くらいしか雇えないもんで、良い家庭教師を雇えなかった貴族は10〜12歳まで初等学園というものに通うらしい。

13〜15歳までの貴族の息子が全員通う学園は別にあるとのことで、アルジャーノンお兄様は、今年からその学園に通っており、今は夏休みで帰省してるってわけ。


 女の子はというと、自宅で家庭教師なり母親なりからマナーなどの淑女になるためのレッスンが施されるので、学園に通ったりとかはないんだってさ。

その代わり、未成年はお茶会に呼ばれたり呼んだり、成人後は夜会にも出ることになるらしい。そこで、如何に情報を引き出して持ち帰るか、自分をアピールできるかが腕の見せ所なんだとか。めんどくさいっス。アンジーちゃんは、そんなことをやらずに済むので、とってもありがたい。さんきゅー、代官の旦那クリフ


 クリフは、代官の仕事をしているというか、今は代官見習いだね。

覚えることがたくさんあって大変だよ、と言って膝枕を要求してくるんだけど、8歳の女の子が16歳の青年を膝枕すると、太ももが死ぬ。ましてや、貴族の令嬢らしいホッソリとした太ももよ?別に拒食で細いわけではなく、メイドさんたちによるマッサージのおかげです。ありがたや、ありがたや。


 私とクリフとの間には温度差があっても、私が冷めてる分には良いらしい。

そこが竜騎士の花嫁というもので、旦那になった方は「真の愛を捧げる」というように、ひたすら相手を愛し、よそ見しないんだって。

 そういう相手だからこそ、精霊王はドラゴンをくれるらしいんだけど、それ一歩間違えたらヤンデレじゃね?やっぱ、あのおじいちゃんボケてんじゃん!と思ったりもしたんだけど、そういうことにはならないんだってさ。パパがちゃんと選んでくれたので心配無用ということなんだけど、チャラ男だしな。


 えーとね、何が言いたいかというと、竜騎士の花嫁には浮気が許されます。

旦那側に浮気は一切許されないんだけど、花嫁側には許されてしまうのは、浮気されるような旦那が悪いんだそうな。


 だからね、クリフ君、割と必死よ?

男らしく振舞ってみたり甘えてみたり、甲斐甲斐しく世話を焼いてきたりと、何か、その必死さが可愛いなぁ、と思っちゃいましてね、はい。絆されたとも言いまっせ!!


 まあ、そんな甘ったるい雰囲気を出してる妹夫婦に、アルジャーノンお兄様は少々ご不満な様子で。

せっかく可愛い妹ができたのに速攻で取られたっていう、ね。スマンね。不可抗力やで。文句なら、ボケたおじいちゃんに言ってくだせぇ。


 そんな日々をね、楽しく過ごしているわけなんだけども。

最近ね、ちょっとね、これってどう思う?という案件が発生していたんよ。


 ティー君がピアス付き階級の奴隷にランクアップしたことで、割と自由に仕事へ行くようになったんだけど、それは良いのよ。良いの。でもね、出掛ける前に必ず子ども部屋に積み木を積んでから行くのね。私がいつでも好きなときにガシャーーーン!とやって、はしゃげるようにしてくれてるの。

わしゃあ、ペットか!?主人が出かける前にオモチャ用意していってるようにしか感じないんだけど!?


 せっかくのご好意ですからね。喜んで崩していたんだけど、ティー君が仕事をするようになってから、ただの前衛的な積み木から、複雑で荘厳な建築物に変わったものだから、なんか崩すのもったいなくてさ。

しかも、仕事に行く前に3時間ほどかけて積んでるから、かなり早起きしてやってくれてんだよねぇ。


 そう思ったらさ、何か崩せなくなって、積み上げられたというより建てられた積み木を見てお茶をして、それで終わっちゃった日があって。

そしたら、仕事から帰ってきたティー君が崩されていない積み木を前に崩れ落ちちゃって、あのでっかい身体を丸めてガチ泣きしてたらしい。「お嬢様に嫌われた!!」と。


 あまりにも泣くもんだからゼクスが、「積み木を崩すという行動は幼さの表れでもあります。アンジェリカ様がご成長されたことを喜びましょう」と慰めたとかなんとか。

こちとら前世の年齢入れたら半世紀近く生きとんねんぞ!?と、言いたいところやねんけど、積み木を崩すの楽しかったです。ふつーの幼児ですが、何か?


 だってさー、前世じゃ働き詰めで疲れてたんだもん。

出張に次ぐ出張で、家にいるよりビジネスホテルにいる方が多かったわけよ。


 そりゃあね、それなりのお給料はいただいてましたよ?それなりの地位にもいましたから。

でも、忙しくて使う余裕もなくて貯まる一方だったね。


 しかも、行く先々で方言がうつるっていう、お前何人やねんっていう状態になっちゃっててさぁ。それがまた気に入られたようで私に指名が入って出張にっていう笑うしかないループ。


 そういえば、巻き込まれ転生のときは久々のお休みで、しこたま缶チューハイやらツマミやら、カレーの材料やら買ってたっけ。

なかなか家に帰れないから日持ちのするレトルトや缶詰め、インスタント食品も買ったんだよね。

 買った品物って、どうなったんだろう?


 

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