24 理由があってね

 衝撃の事実を知ったアンジーちゃん8歳です。

まあ、知ったからといって今までの生活が変わるかというと、たいして変わらないわけで。むしろ、アンドリューのことを気にすることが一切なくなったのは、当然のことだね。


 魔力と魔法、それが何なのかという授業のほんの始まり部分を習っただけなんだけど、アンドリューのことよりそっちの方が衝撃だったっていう、ね。


 この世界ね、本人が持ってる属性とか、そういうのないんやて。

それなら魔法はどうやって使うのかというと、精霊と契約しないと使えない。


 水の精霊と契約すると水魔法が使えるようになるんだけど、どれだけたくさんの魔力を持っていても下位の水精霊としか契約出来ていないと、チョロチョロと水を出す以外に何も出来ない。


 つまり、降精霊祭にて精霊と契約できなければ、貴族として終わる可能性があるんだとか。


 そんな授業が終わって、アルジャーノンお兄様とクリフとお茶をしております。

バターたっぷりサクサクのクッキーにストロベリーホイップみたいな物を付けて食べんのよ。悶絶おいしいけど、確実にデブるな。あとで、散歩行こ。


 「僕もアンジーくらいの頃から魔力の勉強が始まったんだよ。だから、お土産に魔力と関係ない引き車を選んだんだけどね」

「そうだったんだ。ターナが私に使ってくれていた乾髪機ドライヤーも魔道具だったんだよね。そういう物なんだと不思議には思わなかったにょ」

「知らなければ、そうなるよ。一番最初に教えられるのが、5歳になるまでに魔力を放出してしまうと、どれだけ危険なのか、ということなんだよ。だから、アンジーの魔力が外に出ていると分かったときには、すごい騒ぎになったんだから」

「もしかして、パパが初めて来た、あの日?」

「そうだよ。だから、まあ……、滑舌が多少悪いで済んだんだろうけどね」


 多少?多少かな?だいぶ悪いと思うで?たいがい語尾が「にょ」になるで?今はええけど、成人したら死ねるで?


 あ、それとね。人妻、人妻、言うてるけどね。ホンマに人妻なんよ?

この世界っていうのか、この国っていうのか、旦那になる方が成人してたら嫁さん何歳でも結婚できんねんで?ビックリやろ?白目むくわ。


 さすがに寝所を共にするのは互いに成人してからになるけど、一緒に住むことは可能ということで、クリフとは一緒に住んでおりまっせ。

ただ、私たちの場合は竜騎士の花嫁という精霊王に認められた夫婦ということで、クリフが成人する前から別邸で同棲始めてたのよ。ふふ、前世も含めて初めてやで?しかも、アイドル系イケメンの旦那。


 ただ、なぁ……。旦那、つまりクリフが私に惚れた理由は聞かん方が良かったで?

口の中噛んだときにターナに薬塗られたんやけど、その薬が甘苦くてさ。それで、「ああぁー……」みたいになってたのを見て、この子と一緒に生きていけたら楽しいだろうなって思ったのが惚れた切っ掛けなんだと。すっごい微妙な気分になったけど、まあ、贅沢は言わんでおくよ。


 「それにしても、二人はいいよね。もう、夫婦だし」

「突然どうしたにょ?」

「僕の相手は、まだ婚約者候補だからね。恋人らしいことなんて出来ないんだよ。まあ、だからといって他に目移りするおバカさんになるつもりはないけど」

「え、結婚前に既に浮気してる人いるにょ?」

「政治的な判断で決まった婚約だからと、反抗心から恋人を作るのがいるんだよ。どうせ結婚するんだから相手と恋人になれば良いのにね」


 アルジャーノンお兄様は今年で13歳になったんだけど、婚約はまだ正式に結ばれておらず、候補のままなのよ。


 何でかっていうと、10歳になった貴族は年の暮れに降精霊祭こうせいれいさいというものに参加して、そこで運が良ければ精霊と契約出来るんだってさ。

その降精霊祭は、10歳、15歳、20歳と一生のうちに3回参加できるんだけど、10歳と15歳のときに契約できなかった人が20歳で初契約を結べることは稀らしい。


 運が良ければって言うように、みんなが契約できるわけじゃなくて、出来ない人もいるわけよ。そういう人のため3回チャンスがあるんだけど、女の子は20歳くらいになっていれば結婚しているか、お相手がいたりする子がほとんどで、そうなると子供もいるため3回目をやらないことが多いんだってさ。


 何が言いたいかというと、王子様二人の婚約者候補たちが10歳の降精霊祭を終えるまで、正式な婚約を見合わせているため、それに伴って王位継承権を持っているアルジャーノンお兄様も正式な婚約を結ばずに待機している、とのこと。

重要な精霊と契約した子がいないようであれば、そのまま婚約者候補の中から妃に相応しい令嬢を選ぶらしいんだけど、その重要な精霊との契約をワンチャン狙って王子妃になろうというガッツのあるご令嬢は、まだ婚約せずにいるそうな。


 「でも、すごい精霊と契約できたのが下位の令嬢だったら、どうするにょ?」

「城に泊まり込みで徹底的に教育を施されるね。そして、及第点をもらえれば、上位貴族の養女になってマクシミリアン殿下と婚約、かな?」

「先に婚約しにゃいにょ?」

「あー、言っちゃっても良い……かな?マクシミリアン殿下が幼い頃に魔力を抜かれそうになっていてね。もし、そうなっていたらジェレマイア殿下より少し魔力が少なくなっていたかもしれないから、その場合は婚約が先になったかもね。地盤を固めるために」

「うわ……。てことは、大丈夫だったにょ?」

「アンジーのおかげで早期に発見できたって聞いてるよ。ブラッドフォード大伯父上がアンジーとマクシミリアン殿下の症状を比べて似ていると判断したんだってさ」


 これ、ティー君いなかったら、めちゃくちゃヤバかったんちゃう?


 ちなみに、婚約を結んだ後にすっごい精霊と契約した令嬢が出てきた場合、その子へは王子の側室にならないかと打診が行くんだそうな。

その令嬢に添い遂げたい相手がいた場合は、そのお相手と共に王家に忠誠を誓ってもらうことで、側室になることは回避できるみたいなんだけど、その打診を断る子って、あんまりいないらしいんだよね。


 というのも、よほど好いた相手がいない限り、王子様の側室になりたいと普通の令嬢は思うもので、王宮で暮らしたいと夢見るものなんだとか。

……そんな華やかな世界とちゃうと思うんだけどねぇ。それとも笑顔の下でガチバトルやりたい子が多いんだろうか?アンジーちゃんには、よく分からない世界だよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る