閑話 やり直す機会を得た者
なんて辛くて……、辛い、悲しい人生。
わたくしは、ごく普通の下級貴族の令嬢でした。
それが一変したのは、貴族家に生まれた10歳の子供たちを年末に集めて行われる、
その降精霊祭にて、わたくしは高位精霊に属する癒しの精霊と契約できたため、あれよあれよという間に第二王子マクシミリアン殿下の婚約者となりました。
わたくしが癒しを施したことで、彼女は一命を取り留めたのですが、治しきれずに寝たきりとなってしまわれたのよ。
すり替えられていたペンダントのせいで、魔力回路が胸にも出来ていた
そのこともあって、
これではいけないと、周囲の者たちからの進言を受けて、わたくしは第一王子の
しかし、それは王家のあずかり知らぬことで、
わたくしは、国のためを思ってしたのです。
高位の癒しの精霊と契約しているわたくしが未来の王妃だと決まっているのだと、だからこそ、わたくしとの間に子ができた王子の方が、後の王になるのだと、そう言われたからこそ、
それなのに、王家はそんなことは知らないと、
そんなことがあって、わたくしは戦場へと駆り出されることになりました。
アンジェリカが引き起こした戦争に、わたくしは巻き込まれることになったのです。
でも、神様は、きちんと見ていてくださったのね。
だって、戦場で息絶えたわたくしの願いを聞き届けてくださったのだから。
もう一度、やり直したいという、わたくしの願いを……。
今、わたくしがいるこの部屋は、前の人生で過ごした、わたくしの部屋と全く同じで、わたくしの姿も名前も同じ。
それに、目の前にいる若い女性は、最後に会ったときは、婚約者でもない男性の寝所に許可もなく入った汚らわしい娘と、わたくしに平手打ちをした血の繋がったお母様。
人生をやり直せているのだと確信を持てたわたくしの年齢は現在5歳。
この頃だったはずよ。グロリアーナ様が誘拐されたのは。
でも、下級貴族の令嬢でしかないわたくしのところまで、その情報は流れて来ないのよね。
確か、5歳のお誕生日会を開いた後だったと思うから、もう起きていてもおかしくないわ。
それから一年経ったけれど、やはりグロリアーナ様が誘拐された話は表に出なかったし、アンジェリカが誘拐されたという話も出なかった。
もしかしたら、その話が浸透していくのは、もっと先だったのかもしれないわね。
そんなことよりも、問題は
グロリアーナ様の5歳を祝う茶会が開かれたときにでも伝えられたら良かったのだけれど、その茶会には上位の貴族しか呼ばれなかったから、わたくしは参加出来なかったの。
どうにかして伝えられないかと考えた結果、わたくしは前の人生で起きたことを小出しにして話すことで、未来を見られる稀有な存在だと知らしめることにした。
ただ、前の人生で起きたことを言うだけで、未来を見られる能力があるわけではないから、予知夢を見たことにしたわ。
そうやって少しずつ周りから、よく当たる予知夢を見る稀有な能力を持った令嬢だと言われるようになり、前の人生で培った妃教育による淑女らしさもあって、上位の貴族からお茶会へ招待されることも増えてきた。
ここまで来れば
そう思って話してみたところ、皆とてもよそよそしくなって離れていってしまったのだけれど、それでも構わなかった。彼がペンダントに気付いてくれれば、それで良かったから。
だけど、その後に呼ばれたお茶会で、
忘れていたわ……。上位の貴族は嫡男であれば早い子で8〜9歳くらいから魔力の存在を教えられるけれど、下位の、しかも令嬢が8歳で教えられたりしないのよ。
だから、わたくしは予知夢で知ったことにしたの。
もちろん降精霊祭が終わるまで魔力を扱ってはならないことも予知夢で見たので、心配はいらないと伝えておいたわ。
アルジャーノン様は、どうしておられるかしら。
弟のアンドリュー様が天才だということで、その地位を脅かされていたのよね。
二人とも跡取りをアンドリュー様にしようとする勢力にとても悩んでおられたのだけれど、それは奇しくもアンジェリカが謀反人となったことで、力を合わせるようになったのよ。
つまり、お互いによく話し合えば分かり合えるということだから、その助言もしたいわ。
わたくしが戦地へ赴くことになったときは、とても辛そうなお顔をされていたから、ふふっ、自分を選んでほしかったのかもしれないわね。
わたくしは未来の王妃になるのだと、そう言われていたから、アルジャーノン様を選んで彼を王位につけて、アッシュフィールド公爵家をアンドリュー様に継がせることも出来たの。
でも、わたくしは
だって、彼を王位につければ、
そう思っていたのに、彼らはわたくしを独占したかったのね。
それが叶わないと知って、突き放したのよ。一人を選んで縋ってくることを期待していたんだわ。
大丈夫よ。わたくしは癒しの精霊と契約するのだもの。
そうすれば、相手が何人いようとも癒してあげられるわ。
きっと
そんな事実はなかったと言った彼らは、恐らく
待っていてね、わたくしの愛しい人たち。
わたくしが王妃になって、あなたたちを救って差し上げますからね。
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