20 ここ、どこやねん!
歴史のお勉強入門編らしき絵本を読み終え、もうすぐお昼ご飯〜、とウキウキしていたら、いきなり目の前がっていうか周りが真っ暗になった。
どーゆーこと?と思って
その場でちょっとずつちまちまと回転してみるけれど暗いまま。
ここ、どこやねん。周りが見えんと危ないからね。ストンっと下に落ちるとか勘弁だから。
そう思っていると、男性の声が響いた。
「汝に真に愛を捧ぐものあれば、救われん」
「は?」
「汝に真に愛を捧ぐものあれば、救われん」
「え?なに?」
「汝に真に愛を捧ぐものあれば、救われん」
「同じことしか言わねぇ……。これがNPCか。というか、真の愛って真実の愛とかいうやつ?あの薄っぺらいと噂の?」
「……薄っぺらい、だと?そんなことは有り得ぬ。真の愛とはそのような軽いものでは決してない」
あ、違うこと喋った。私の選択肢が間違っていたのかな?って、ここ現実だよ!!ゲームの世界ちゃうよ!!違うよね?
テキトーにお喋りしてみようかな?
「愛を捧ぐものあれば救われるって、ここでじっと待っていればいいの?」
「そこの窓から飛べば良い。さすれば真に愛を捧ぐものが迎えに来る」
「うん?窓?真っ暗だけど」
「飛び降りようと思えば窓は現れる」
へぇ〜。んじゃ、帰りまーす。……現れない。じゃあ、アンジー、行っきまーす!うん?飛び降りますよ、飛べばいいんでしょ?はい、飛び降ります!
……マジで窓が現れたよ。飛び降り一択ですかい。
窓が現れたことで周囲が明るくなったんだけど、殺風景な石造りの部屋にベッドがぽつんとあるだけだった。
というか、真の愛っていうのが分からないんだよねぇ。
汝に、だから、私に愛を捧げてくれる人がいればってことよね?
「ねぇねぇ、相手を殺したいほど憎んでるのも愛だよね?愛情が一切ないのは無関心だもん」
「…………それも、いや、それは真の愛ではない」
「じゃあ、どんな愛なのよ、真の愛って。無償の愛は?博愛は?親愛は?友愛は?真の愛って、何?」
「真の愛とは、真の愛でしかない」
「だいたいさぁ、5歳児に家族以外の愛があると思ってるの?」
「………………5歳児?」
「私、5歳ですよ?」
「成人していないのか?」
「いや、どう見ても成人前っていうか、半成人にも見えないよね!?」
「人の姿を見ても年齢なんぞ分からぬ。どうやら呼ぶのが早かったようだ」
「ぅおおいっ!ボケたおじいちゃんかよ!?」
「もう一人は成人しておるだろうから、問題なかろう?」
「は?もう一人?私以外に誰もいないじゃん」
なんと、ボケたおじいちゃん曰く、行き来はできないけど隣の部屋でベッドに王女が寝ているそうな。
そういえば、アルジャーノンお兄様が従姉妹のグロリアーナ王女が熱を出して寝込んでるって言ってたね。5歳のお誕生日会を開いて疲れが出たのかもしれないって話だったよ。
「いや、隣にいるのがグロリアーナ王女様なら私と同じで5歳だけど。ていうか、熱出して寝込んでるんだから速攻で帰してあげてよ!」
「ふむ、ならば仕方がない。癒しの精霊をそばにつけておこう。一日経てば試練は失敗となり、元の場所に戻れる。汝もそれまで、しばし待て」
「えー、お昼ご飯食べたーい。飛び降りれば生きたまま怪我もなく戻れるんでしょ?」
「然り。真に愛を捧ぐもの、つまり迎えがなければ元の場所に降り立つのみ」
「んじゃ、飛び降りるの一択でいいじゃん!何で、一日ここで待たなきゃいけないの?」
「飛び降りる覚悟のない者への措置だ」
「あー、なるほどね。ねぇ、迎えが来るって、どうやって?」
私に真の愛を捧げてくれている人がいれば、その人にドラゴンを与えて私をキャッチさせるのだとか。
どっかで聞いた、いや、読んだ話だね。
「塔にドラゴンぶつからない?」
「そのようなことは起こらぬ」
「じゃあさぁ、お姫様をキャッチするのにドラゴンを与えたのは何で?だって、迎えがなければ元の場所に戻れるんでしょ?ドラゴンいらなくない?」
「最初はそのようにはなっていなかった。
「そうなんだ。つまり、最初は飛び降りたら最悪死ぬ可能性があったけど、それだと困るから死なない仕様に変更した、と。バグ修正みたいなものかな。あ、ねぇねぇ。私いつも滑舌悪いんだけど、ここではめちゃくちゃ滑らかに喋れる上に、難しい言葉もスラスラ出てくるんだけど、なんで?」
「ここは、精神が表に出る。したがって嘘は言えぬし、心のままに口から出る」
「へぇー、便利〜。でも、心がダダ漏れは嫌だな」
まさかの滑舌が良いのではなく心がダダ漏れだった。
取り繕うことは出来ないのね。
じゃあ、遠慮なんて必要ないか。
「ねぇ、真の愛を捧ぐものにドラゴンを与えるって、それって既にそういう存在がいるかどうかは、そっちは知ってるってこと?だったら、いるから飛べ、いないから一日待てとか、何か言いようがあると思うんだけど?」
「それでは試練にならぬ」
「うん?……あっ、私の試練だから教えちゃ意味ないのか。何で、私は試練を与えられてんの?……まあ、いいや。迎えが来ようが来まいが戻れるんなら、さっさと戻ってお昼ご飯にしよっと。ダダ漏れは嫌ざんす」
ガラスも戸もない窓枠に足をかけやんして、って届かねぇんですが?成人仕様ですかい?
どっこいしょ!とよじ登って辺りを見渡すと白っぽい景色しかなくて、周りには何もないし地面は見えず、ただこの石造りの塔のようなものがあるだけだった。本当にここどこやねん。
こういう時こそやらねばと、「あーい、きゃーん、ふら〜い!」と言って飛び降りたら、割と直ぐにドラゴンに乗ったクリフ君がキャッチしてくれた。どこから来たんだろう?
「アンジー様、信じてくださってありがとうございます」
「うん?信じる?あのね、お迎えなくても元の場所に戻れるって、ボケたおじいちゃんが言ってた」
「は?」
「なんかね、呼ぶの早かったとか言ってた。成人してから呼ぶつもりだったみたい」
「えっ、僕を信じてくれたから飛んだんじゃないんですか!?」
「あ、クリフがお迎え役だったの?真の愛があればとか言ってたけど、真の愛って何?て聞いても真の愛としか言ってくれないし。一日経てば元の場所に戻れるけど、飛び降りてお迎えがなくても元の場所に戻れるんだって。それじゃあ一日待つ意味はどこにあるんだろうね?」
何やら私がクリフを信じて飛んだわけではないことを知ってショックを受けているようなんだけど、5歳児にそんなもの求めたらアカンで。
私をお姫様抱っこしたままクリフは、「あなたに愛を捧げますって、求婚のときに言ったじゃないですかぁ〜……」と、シュンとしてるんだけど、はて?そんなこと言われたっけ?
「僕と結婚してくださいとしか言われてないよ?」
「その前!その前にきちんと求婚し……、あぁっ!!そうだった。アンジー様がまだ幼くて意味が分かってないからって、半成人を迎えたときに改めて求婚するつもりでいたんだった……。意味、分かってないんですよね?」
「うん、ごめん。自分の名前しか認識してなかったよ」
「…………あれ?アンジー様、認識とかって言葉は分かる、というか、滑舌が良い!!どうしてですか!?」
「ボケたおじいちゃんが、ここはありのままが出るからって言ってた。たぶん、あっちに戻ったらいつものアンジーよ?」
「…………少し誘惑に負けそうになりますが、幼い時というのは過ぎていくものですからね。成長を待ちます」
そうしてくださいな。何せ、心がダダ漏れなもので。
失言しないように言葉を選ばないとね。
クリフが「帰ろう」と一言告げると、白っぽい景色の中に丸く光るものが現れて、そこへと乗っているドラゴンが向かって行き、私の部屋へと戻ってきた。
元の場所に戻れるって、ガチで元の場所なのね。ここ、アンジーが借りてる別宅のお部屋よ?あんなでっかいドラゴンが部屋にいたら部屋ごと吹き飛ぶんちゃう?と思って周りを見てみると、私をお姫様抱っこしたクリフ以外にはターナだけだった。
ターナが口に手を当て、涙を堪えた様子でこっちを見ていた。
「ご無事で、ようございました……」
「うん、ただいま、たーにゃ!」
「はい、はいっ、おかえりなさいませ、アンジェリカ様」
「ねぇ、クリフー。ジョラゴンは?」
「滑舌が戻ってる……。ドラゴンは腕にバングルのようにして待機していますよ」
ほら、と言って見せてくれたクリフの腕には、金ピカなドラゴンバングルがくるりとくっついていた。
なるほど。だから、お部屋が吹き飛ばなかったのねん。
行方不明になっていた私が戻ってきたことを知ったゼクスに、昼食が終わってから何があったのか話すと、額に手を添えてフラフラと部屋を出て行った。
どうやらパパを呼んでくるらしい。
待ってる間に眠たくなってきたのでお昼寝したんだけど、目覚めたら呆れた顔のパパが部屋に入ってきたところだった。
え?何に呆れてんの?呼びつけておいて昼寝してたからかな?でも、呼んだのはゼクスであって私じゃないよ?
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