閑話 パパは忙しい

 アンジェリカの経過観察を終えたブラッドフォード伯父上によると、多少の滑舌が悪いところはあるけど、年齢を重ねると共に改善されていくし、その他に問題はなかったということだった。

素直で明るく元気な子だったと、気難しい伯父上にしては珍しく顔を緩めていた。


 そんな伯父上が表情を鋭くさせ、「マクシミリアンから詳しく話を聞く必要がある」と言った。


 兄上である王太子の第二子として産まれたマクシミリアンは、王太子妃から産まれた子で、王位継承順位は側室から産まれた第一王子よりも上になるんだけど、ちょっと鬱陶しいことになってんだよね。


 マクシミリアンは、第一王子のジェレマイアよりも身体が弱いところがあるようだから、王位継承順位を変えるべきではないかって言う奴らがいるんだけど、「は?」て感じだよね。

少し身体が弱いと言ったって、ジェレマイアほど活動的ではなく大人しい子だっていうだけだし、と思ってたんだけど、ブラッドフォード伯父上が言うにはそうではない可能性があるって。


 「メイドから聞いたが、アンジェリカは、あの愚か者アンドリューに魔封じを施してから昼寝の時間が減ったり、時にはしない日もあるという話だ。つまり、マクシミリアンの昼寝の時間が多かったり、寝起きが悪いのも何か要因があるかもしれん」

「いやいやいや、伯父上の考え過ぎでしょ?マクシミリアンの身の回りのものは王太子妃殿下が用意してるんだから、何も出来ないと思うよ?」

「……すり替えられていれば、どうだ?しかも、身体に影響がそれほど出ないように魔力を引き抜かれていたら?」

「伯父上、本気で言ってるの……?」


 ブラッドフォード伯父上の身に起こったアノ出来事があってから、王族の身辺は隙間なく固められるようになったし、先代国王があの件に関わっていた者を片っ端から処分していったこともあって、馬鹿なことをするものは出なくなっていた。

それに、側室であるジェレマイアの母親は彼を婿に出すつもりでいると、兄上からも本人からも聞いているし、そんなことをするとは思えないんだけど……、周りもそうだとは限らないか。


 ということで、僕がマクシミリアンに聞くことになった。

ブラッドフォード伯父上だと警戒されるから僕が行くことになったんだけど。あー、めんどくさい。


 息子のアルジーアルジャーノンを連れて何の知らせもなく突然王宮へ遊びに行って、マクシミリアンに内緒話をするようにコソコソと喋りかけると、楽しそうに笑って色々と教えてくれた。


 まず、ブラッドフォード伯父上が「アンジェリカが言っていたんだが『胸の辺りがジョワっとする』というのを聞いてみてくれと」言われたんだけど、伯父上の口から「ジョワっと」とか聞きたくなかったかな。寒気がしちゃったよ。

まあ、それは置いておいて、マクシミリアンに聞いてみたところ、どうやらしているらしい。


 そして、それがいつするのかというと、ブラッドフォード伯父上が帰った後だと言う。

 ……え、伯父上が犯人なの?


 いやいやいや、と思って内緒話に飽きつつあるマクシミリアンにお菓子を与えつつ話を続けて聞き出すと、どうやらブラッドフォード伯父上が診察に来る前にお守りになっているペンダントを外したり着けたりしていることが分かり、伯父上が帰った後にペンダントを着けるとジョワっとするという話だった。


 それ、普段は魔力を引き抜くやつを着けていて、診察のときだけ王太子妃が用意したお守りのペンダントにしてるっこと?

うわー、黒じゃん。最悪だよ。伯父上がキレる様子が目に浮かぶよ。


 何とかそこまで聞き出せたけど、もう本当に大変だった。5歳児と話すのって疲れるね。

僕がマクシミリアンと話してる間、アルジーには誰かが近寄って来たら知らせるように頼んでおいたんだけど、さすがに僕相手だと不用意に近付いては来なかったね。警戒されてないとも言えるけど。


 後のことはブラッドフォード伯父上に任せようと彼に手紙を出し、自分の仕事を頑張っていたら、2週間ほど経った頃に伯父上が訪ねて来て、どうなったのか教えてくれたんだけど、本当に止めてほしいよね。


 派閥とも呼べないような集まりの自称ジェレマイア派は、マクシミリアンの魔力をペンダントを通して少量ずつ引き抜くことで、ジェレマイアより魔力量が低くなるようにしていた。

そうすることでジェレマイアに優位性を作ろうとしていたんだろうけど、何年もかけてそんなことをしていればペンダントの周辺にも魔力回路が出来てしまう。


 そうなると、魔力暴走を起こしたときにそこからも魔力が吹き出し、最悪、心臓の辺りが吹き飛びかねないんだけど……。


「うぅわ。そんな未来を見ずに済んで良かったよ。そんなことになっていれば伯父上が殺戮者に早変わりだね」

「恐らくそうなっただろうな。跡継ぎを私欲で排除しようとする愚か者共に生きる価値など無い。今回のことに側室は関与していなかったが、その実家が片棒を担いでいたので、彼女は表向き離宮にて静養に入ることになった」


 ブラッドフォード伯父上は、そう言ってアルジーの周囲にも気を配るようにと念を押して帰っていった。


 はぁあああ、めんどくさい。

まあ、兄上の側室に関してはそのうち離宮から出てくるだろうけど、公務とかもあるからね。王族って忙しいんだよ?僕も、すっごい忙しいの。


 でも、忙しいとかブラッドフォード伯父上の前で言うと、すっごい睨まれるから言わないけどね。

だって、伯父上は魔医師の仕事の他に領地をいくつも持ってるから、忙しさは僕の比ではないからね!


 あ、そういえば、アルジーがアンジェリカをこっちに呼べないかって聞いて来てたな。

まあ、結論から言うと呼べないんだけどね。


 予定としては、アンドリューに領地で代官をさせて、アンジェリカを他国の王族に側室として嫁がせるので良いかな?って思ってたんだけど、それが狂っちゃってさ。


 あの愚か者アンドリューは魔力ほぼナシみたいなものだし、信用も出来ないし、恐らく性根が腐ってるし、てことで、代官を任せるわけにはいかなくなったわけ。

そこで、アンジェリカに婿を取らせて、その婿に代官をしてもらうことにしたのだよ!


 「ということでね、クリフォード君。君に決まったのだよ!」

「はい、かしこまりました。……何に、決まったのでしょうか?」

「アンジェリカの婿に代官をさせることにしたから、クリフォードに婿になってもらおうかと思ってね。それに伴って君の妹にはアンジェリカではなく第一王女グロリアーナの侍女候補になってもらう。弟は、アルジーの執事見習い候補だね」

「では、父上、アンジーをこちらに呼ぶのですか?」

「うん、ごめんね、アルジー。呼べないんだよ。あー、もう、言っちゃっても良いかな?代理母生まれの異母妹とか異母姉って側室候補になることもあるから、まだ婚約者のいないアルジーのそばにアンジェリカを置けないんだよ」

「えっ……、えぇっ!!?妹ですよ!?側室候補!!?」

「そう。やっぱり早いうちに教えておいて良かった。貴族の中にはそういった間柄になっている人もいるから、態度には出さないようにね」

「は、はぃ……。ん?え、クリフが義弟?」


 自分より年上のクリフが義弟になるのも腑に落ちない感じだろうけど、11歳の彼が3歳児の婚約者ということに戸惑っているね。初々しいねぇ。8歳差なんて、どうってことないのに。


 あー、でも、あの愚か者アンドリューは、こっちに呼ばないといけないな。

中身が大人なら子供扱いしないでさっさと教育することにして、ダメだったとしても誰かに利用されないように監視しておく必要があるからね。


 どうせ、アンジェリカとあの愚か者を会わせていないんだから、あっちの状況は変わらないし、何ならあの別邸をアンジェリカにあげても良いよね。

それに、アレの魔封じを外さないと自力歩行訓練が出来ないし、外すとアンジェリカから魔力を奪うかもしれないし、ということで、そうしよう。

そうすれば、別邸に関することでこちらの許可を取る必要も少なくなるから、僕と妻の仕事が減る!


 使用人に関しては3歳のアンジェリカでは管理できないからゼクスとキャスリンに丸投げして、費用もある程度はゼクスの判断に任せてしまおう。

あれ?そうすると、アンジェリカにも執事を付けないといけないのか?嫁ぐなら侍女と従者だけで良かったんだけど。でも、まだ、必要ないか。3歳だし。



 

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