12 お金持ちのやること

 私、アンジーちゃん。今ね、はしゃぎ過ぎて灰色になってるの。

テンションMAXではしゃぎまくると、かなり疲れるのね。アンジー、覚えた。


 「だ、大丈夫……ですか?お嬢様」

「はは……、ら、らいじょーぶ。たのちかったの……」

「すみません。もう少しお嬢様の様子に気を配るべきでした」

「それは、わたくしもですわ。あまりにも楽しそうにしておられたので、見逃してしまっていたわ……。これでは、メイド失格だわ……」


 何をしていたのか気になるよね?


 シンデレラ馬車に乗るとき、走って貰っていたのは私の部屋の前にある、芝生が敷かれた庭だったのね。

そこでテスト走行してみたけれど何の問題もなかったので、次は本格的に邸の庭を走ろうぜ!と思っていたところへお医者さんから様子見という名でドクターストップが掛かってしまい、おあずけだったのよ。


 結果、どこも何ともないということで、普段の生活に戻れたもんだから、さっそくティー君にお願いして庭を走ってもらっていたんだけどね。


 私の命が危険に晒されていた、という本当なのかどうなのか怪しい話を邸にいる人は皆信じているわけよ。

そんな私のためを思って、庭師のじいちゃんが張り切ってくれたんだわ。


 シンデレラ馬車に乗って走る専用コースを作ってくれていて、それが昨日完成したということだったんだけど、バラのアーチや可愛らしい花々、メルヘンチックな置物など、この短期間にどうやったのか謎な仕上がりになっていたの。


 そのメルヘンコースをカッチリした軍服のようなものを着たティー君が馬車を引いて、ちょっと早歩きくらいのスピードで進んでくれたのよ。

もう、テーマパークじゃんね。はしゃぐに決まってんじゃんね。お姫様にでもなった気分だったよ、マジで。


 ドクターストップみたいな感じでお庭へ出られなかった期間があったものだから、楽しくて楽しくて、ティー君の体力も考えずに何周もしてもらったんだけど、そんなティー君はケロっとしてる。獣人すげぇ。体力オバケだ。


 ターナも私が見えるところで待機していたんだけど、あまりにも楽しそうにしていたもんで止めるのを忘れてしまったのと、シンデレラ馬車に乗った私がとんでもなく可愛かったので見とれていたそうな。照れるぜぃ。


 灰色なモノクロからカラーなアンジーちゃんに復活した私は、やっと用意されていたランチに手をつけた。

メルヘンコースには、ピクニックが出来るようなスペースも取ってあり、そこでランチをすることにしていたんだけど、私がモノクロになっていたので、予定していた時間よりちょっと過ぎちゃったんだよね。


 使用人と一緒に食べることはダメだと言われているので、私が食べ終わって、お茶を飲んでいる間にターナが食べて、そのあとにティー君が食べるとのこと。

まあ、食事を一人でするのには慣れてるから、いいんだけどねぇ。


 優雅にフルーツティーを飲みながら、ここ数日間のことを思い返してみた。


 夜に寒気というか悪寒がなくなって、たまにお昼寝しなかったりと、最近は体調が良いように思うので、やっぱりどこか悪かったのは確かなんだろうけど、それで滑舌も少し改善してるって、どういうことなんだろう。

いや、成長したからっていう可能性もあるけど、そんな数日で目覚しい進化するかねぇ?


 あと、命の危険に晒されていたのをティー君が見つけてくれたって話なんだけど、私がそんなことになっているのを誰も気付いていなかったんだよね。

お医者さんが診察に来たということは、もしかして毒でも盛られてた?天才だと言われていたアンドリューがアルジャーノンお兄様を差し置いて跡取りになるのは困ると思った人が毒を……みたいな?あれ?でも、それだと私にも盛るのはおかしいよね?いや、盛られていたとは限らないけど、うっかり私のご飯に混入してしまっていたのをティー君が見つけた感じ?


 もしかしたら、私に起きていたことと、アンドリューの病気と彼への塩対応は、別の話なのかもしれないね。

繋げようとしてもワケの分からないことになっちゃうし。


 といったようなことをツラツラと考えているうちにターナとティー君が食べ終わり、その頃には私のお腹も落ち着いたのですが、ちょっと眠くなってきちゃったよ。

さすがに、あれだけはしゃげば眠くもなるか……。決して、頭を使ったからではないと思いたい。


 ウトウトとシンデレラ馬車に揺られているうちに眠ってしまったようで、いつの間にか自室のベッドにいた。

窓から見える空は夕焼けまではいってないので、そんなに経ってないのかな?


 「おはようございます、アンジェリカ様」

「おはよー、たーにゃ」

「夕食までのお時間は、何をなさいますか?」

「んー、ボーっとしゅるぅー」

「かしこまりました」


 この、ボーっとするやつね。

ふかふかのクッションを敷き詰めて、そこに埋まるのね。そんでもって、演奏者がやってきて楽器で音楽を奏でてくれんの。生演奏よ?すごくない?


 ゆったりした生演奏を聴きながらボーっとするって、お金持ちなお貴族様って凄いね。3歳の幼児にこの扱い。こんな生活やめられませんなぁ。


 しかも、この演奏者さん。我が家のお抱え音楽家さんなので、聴きたいときにいつでも演奏してくれるんだってさ!お金持ちって凄いねぇ。

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