10 そんなもんよ

 幼児のお手手というものは器用にはできておらず、描けたものは物体Xだった。

おかしい。ここが耳で、ここが目で、と順番に描いたはずなのに、判別できるのは尻尾だけなんだけど。


 「まあ、アンジェリカ様。上手に描けましたねぇ」

「じょーず?」

「ええ、お上手ですよ」


 盛大なお世辞をありがとう、ありがとう。

3歳児なんて、こんなもんよね?と言いたいところだけど、これを本人に見せて「ティーを描いた!」と言ったら苦笑いしか出ないだろう。


 さて、ティー君を描けたところで他の人も描いてみよう!決して練習台にしたわけではないのだよ。ホントだよ?


 ターナは、茶髪に茶色の瞳。……むっず!難しくね?髪型は、あれだ。三つ編みを一本ヘアバンドみたいにしたやつ。名前なんぞ知らんよ。そんなオサレな髪型したことないしねぇ。美容院にも数えるくらいしか行ったことないもんでねぇ。こんなこと異世界転生になるのなら貯金なんてせずに美容院行ったりブランド品にも手を出したりして、オシャレとかすれば良かったなぁー。もったいなー。


 でも、まあ、貯金などの遺産は両親へ渡っただろうから……、渡ったよね?私って、あっちでどういう扱いになってんだろう?行方不明?惨殺体?不審死?何になってんだろって気にしたところで確認のしようがないからねぇ。考えるのは止めておこう。


 深呼吸して真剣に、ゆっくりと、ああっ!何故だ……、何故なんだい!?ゆっくり描いてんのにズベっ!と手が勢い良くいっちゃうのは……。


 ま、まあ、この程度の失敗なら誤魔化せるよね。大丈夫、だいじょ……ばなかったか……。無念。


 「まあっ、アンジェリカ様。もしかして、これって……」

にゃにに見えりゅー?」

「わたくしでございますか?」

たーにゃターナーっ!しゅき好きぃー!!」

「まぁまぁっ、アンジェリカ様。嬉しいですわ。わたくしも大好きでございますよ」


 抱きついた私を優しく抱っこしてくれる優しいターナ。

今世のお母さんの香りはターナだよー。でも、小さい子のお守りをするからなのか、香水とかの華やかな匂いはしないんだよね。かと言って汗臭くもないけど。不思議ねー。


 んじゃ、気合いを入れ直しまして。

お次は、アルジャーノンお兄様ね。こういうのって、「何で僕を描いてないの?」とか、「これが僕って……」と、どっちにしろ凹むっていう、ね。分かっちゃいるけど、ここで描かないのは大人げないでしょ?私、幼女だけどねぇ。


 出来上がったのは金髪アフロ。

アルジャーノンお兄様のふわふわな髪を表現しようとしたら、こうなった。

 何か違うけど、瞳の色は力作だぜぃ!


 「アンジェリカ様、とてもキレイに瞳が描けましたねぇ」

「えへへへ〜」


 ターナ、ターナ、本音が出ちゃってる。瞳ガチ褒めしてるってことは、それ以外は何とも言えない出来なんでしょ?うん、アンジー知ってる。


 お絵描きって結構疲れるのね。

いつの間にか夕方になってんだけど、今日はお昼寝せんかったな。なんでや。本当に私の身体に何が起きてたんでしょうねぇ?


 今日も夕食のときにアンドリューはおらず、その代わり椅子が2つ追加されて、そこに大きめのぬいぐるみを座らせてあった。


 なんや、なんや。これ、どういうこと?何かの儀式?何故にぬいぐるみが鎮座してんの?


 「アンジェリカ様、今日からこの子たちと一緒に夕食をいただきましょうね」

「あーい」


 マジか。ぬいぐるみと一緒に食べんのか!!それって、衛生上の観点からしてどうなん?大丈夫なん?まあ、言うても椅子に鎮座しているだけだし、大丈夫か。


 めっちゃシュールやわ。


 お風呂でもこもこと洗われていると、さすがに眠くなってきた。

やっぱりお昼寝ナシはアカンかったね。


 いつベッドに入ったのか覚えてないけれど、翌朝にはいつものようにシャッキリと起きたよ。

だけど、いつ寝たか分からないから昨夜も悪寒がしなかったのかどうかは、分からない。


 今日もゆったりした服を着せられたけれど、昨日と違う服。

というか、毎日違う服。一度着た服って、どこ行ってんの?あれか?一度着た服なんて二度と着ませんの。常識ですわ、おほほほーーー!ってやつ?


 今日もやって来たお医者さんに診察と問診をされた。

お昼寝をしなかったこと、いつ寝たか分からないから悪寒がしたかどうかが分からないと言うと、にっこり笑って頭を撫でられた。


 え?どういうこっちゃ?ナデナデしてないで、ちゃんと教えてほしいんですけど!!


 特に薬を出されたりとか、何かをされたりということもなかったので、やっぱり私の診察はアンドリューのついでなんじゃなかろうか?


 アンドリューのあの顔色の悪さと落ち窪んだ目はヤバかったもんなぁ。

幼児っぽい、ぷっくりした感じなかったもん。


 まあ、顔色だけじゃなくて態度も悪かったけど、そのくらいしんどかったんかなー。辛いから喋らなかったとか、たくさん食べられなかったとかなら申し訳ないね。


 幼児の私に出来ることなんてないので、お医者さんのアドバイスを取り入れて治療に専念してちょ。

私は、楽しい妖女、違った、幼女ライフを満喫させてもらうので。

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る