9 何があったんだろうね?

 ぱちくりと目を覚ますと、窓から見える空は夕焼けでした。

結構寝てたなぁ、と思って起きるとターナが土下座していたんだけど、お昼寝してる間に何があったの!?


 慌てて止めさせると悲壮な顔をして、「わたくしがついていながら申し訳ございませんでした!!」と、涙を滲ませて覚悟は出来ておりますと言った。


 いや、何の覚悟よ?意味が分からん。パパに何かされたんか?って、アルジャーノンお兄様とチャラ男パパどこ行ったんだろう?


 「たーにゃ、どちたの?アルにーたまは?」

「若様は、旦那様と共に本邸へと戻られました。急なご用事が出来たのでございます」

しょっかーそっかーしょれでそれでたーにゃターナにゃににゃにゃったなにがあった?」


 最後の方の滑舌すげぇことになった。猫かよ!ウケるわ。


 「アンジェリカ様のお命を危険に晒していたのでございます」

「あぶにゃい?」

「わたくしのせいなのです。わたくしがもっと早くに気付いていればっ……」


 嗚咽を漏らすターナから少しずつ聞いて分かったことは、何かが私の身体に起きていた、ということと、それを診るために専門のお医者さんをパパが派遣してくれる、ということだった。

でも、私はターナにそばにいてほしいから、これからも一緒!と言うと涙を流して「一生をかけてお仕えさせていただきます」と言われた。重くねぇっスか?


 ターナは専属メイドなのに、私がそんなことになっていると気付かずにいたと、自分を責めているようなんだけど、それは違うと思うんだよね。

というか、私自身も知らねぇんですが?何があったというんだろうね?


 「ティーが気付いてくれたのです。彼が気付かなければ、アンジェリカ様のお命が危なかったのです」

「ティーが!?あれ?ティー、どこ?」

「ティーは、アンジェリカ様の命を助けたとして、奴隷ではありますがそばに控えることを許されました。今は、そのために色々と勉強しております」


 私のそばにいることを許されたっていう話なんだけど、どうやらティー君は、あのシンデレラ馬車を引っ張る以外のときは檻に入れたままになる予定だった模様。


 犬ていうかペットじゃないんだから、止めよう?アンジーにはティー君をそんなふうに扱うのは無理でやんす。


 そんでもって、アンドリューは夕食も部屋で取ることになったんだとさ。

やっぱり病気だったんかねぇ?ターナに聞いても曖昧に笑うだけで、その瞳にはちょっと負の感情が見え隠れしてんだけど、マジで何なのー?


 何が気に入らないのか不機嫌MAXな顔をしたアンドリューの顔を見ずに済むなら、それでもいいかと、お風呂に入ってぬくぬくした後はお布団に入ったんだけど、まだ眠気が来ない。

いつもならウトウトしているはずなんだけどなー。お昼寝し過ぎたかな?


 「たーにゃー、絵本にょんでー」

「かしこまりました」


 優しいゆったりとしたターナの声を聞いているうちに眠ってしまったんだけど、その夜に悪寒がすることはなかった。


 翌朝シャッキリ元気いっぱいのアンジーちゃんは、いつもとは違うゆったりした服に着替えさせられた。

いつもは、ヒラヒラふわふわした「これが普段着って、金持ちすげぇー」みたいな布がたっぷりのドレスだったんだけど、今日のは割とシンプルよ?


 「アンジェリカ様、本日はお医者様がいらっしゃいます」

「おいたたん?」

「ふふっ、はい。お医者様でございます。アンジェリカ様のことが心配だからと旦那様がお願いしてくださったのです」

「しょっかー。パパが」


 ん?あれ?私が心配だったからってターナは言うけどアンドリューは?

あっちの方が具合いが悪そうじゃね?あっ、私がアンドリューのついで、とか言われると機嫌が悪くなるとか思われた?えー、そんなことないのにー。アンジーいい子よ?


 お昼ちょっと前にお医者さんがやって来た。

ちょっと難しい顔をしたオジサンで、私をぺたぺた触ってカチャカチャと道具を使って確認したあと、色々と聞いてきた。


 「昨日と今日で何か変わったことはあったかい?」

「うん?アンジーじぇんきよ?」

「元気よ、とのことです」

「ふむ。苦しいとか寒いとかはなかったかい?」

「あっ。にぇるまえ寝る前しゃむかった寒かった!」

「ふむ、なるほど。昨日の夜も寒かった?」

「ううん。にゃい」

「昨日の夜は寒くなかった、と。アンジェリカちゃん、変だなーって少しでも思ったらターナでも誰でも良いから言うんだよ?」

「あいっ!」

「よしよし、良いお返事だ。念の為しばらく様子を見るために数日通うことにするよ。アンジェリカちゃん、また明日ね?」

「あいっ!また、あちた!」


 うーん。このやり取りを思うに、もしかして就寝前の寒気に何か原因があった?それをティー君が見つけてくれたとか?だから昨夜は寒気がしなかったのかな?だとしたら、めちゃくちゃありがたいです。

あの胸の辺りからする寒気って、かなり気持ち悪かったし。あれを感じなくて済むようになったのなら、本当に感謝しかないよ。


 数日は様子見ということで、あまり感情が高ぶるようなことはしないようにと言われちゃったよ。

そうなると、シンデレラ馬車はお医者さんの許可が出るまで封印だね。あれ、めちゃくちゃテンション上がるからダメっしょ?


 あれ?そうなると積み木もダメじゃね?あれもかなり騒いでいたように思うし。


 しばらくは、絵本とお絵描きかな。この世界、普通にらくがき帳や安直に使える画材があんのよ?いわゆるパステルっぽいやつ。クレヨンもあるけど、それはあんまり好きじゃないんだよね。

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