閑話 パパ
僕には正妻との間に息子が一人、代理母に産ませた双子の男女、合わせて3人の子供がいる。
長男で跡取りのアルジャーノンことアルジーは、僕の金髪と妻の赤い瞳を受け継いだ聡い子だ。
妻の赤い瞳は、真っ赤というより少しピンク色に近く、光の加減によっては赤紫色に見えたりと、とても不思議な色合いをしている。
そんな息子は、弟にあたるアンドリューが天才だと聞いて見に行った。
どれだけ天才だろうと跡継ぎはアルジーだと決まっているというのに。
帰ってきたアルジーにどうだったか聞くと、「アンジーが可愛かった!」という話で終わった。
あれ?弟を見に行ったんじゃなかったのか?話の内容は全部、妹のアンジェリカだった。
翌日、またアンジェリカに会いに行くアルジーを微笑ましく思い、執務室で仕事に励んでいた僕は、帰宅したアルジーからの報告に眉を寄せた。
確かに双子が暮らしている邸の報告から、アンドリューが少食気味だとあった。
身体も妹のアンジェリカと比べるとかなり小さく、周りに興味を示さないといった内容だ。
だから医者を向かわせたんだけど、問題ないという結果だった。
しかし、用のあるときしか喋らず、その声も耳をすまさなければ聞こえないほど小さいのだと、メイドからそう聞いたと言うアルジーは、「病気か何かでしょうか?それに、好き嫌いも激しいようですし」と、困った顔をしていた。
アルジーが気になるのならば僕も見に行ってみるかと言うと、「それならば、アンジーにお土産を買って行きたい!」と返してきたので、妻とアルジーを連れてちょっと遠出をした。
そこでアルジーは妹にゴテゴテした引き車と、それを引く奴隷の少年を買った。
まあ、確かに獣人ならば魔法を放てないから、幼い子のそばに置いても大丈夫だろう。
魔力を貯めておく臓器、
放出してしまえば肉体の成長に支障をきたすし、何より大人になってからの魔力量に関わってくる。
幼少期に魔力を放出してしまうと魔臓が小さいままになり、肉体の成長に必要な魔力も足りなくなる。
それは、血液が足りず常に貧血状態であることと同じだと言ってもいい。
そのため、最低でも5歳を過ぎるまでは極力、魔法を見せないように育てる。
見てしまえば子供は、やりたがるし、隠れてするようになる。
だからこそアルジーは妹への土産に魔道具ではなく引き車を買い、奴隷は魔法を放てない獣人にしたんだ。
そうしたこともあって、双子がいる邸の図書にも魔法に関するものは置いていないんだけど、おとぎ話のように魔法が出てくる絵本くらいはあるよ。
アルジーと共に双子がいる邸へ行くと、可愛らしく着飾った女の子と、血色が悪く目の落ち窪んだ小さい男の子がいた。
アンジーは笑顔で可愛らしく挨拶をしたが、男の子は挨拶もまともに出来ないようだった。
まず最初に挨拶を教えられるはずなのに、何故こいつはそれをしないんだ?いくら3歳児とはいえ、そのくらいのことは出来るだろうに。
しかも、終始不機嫌そうな顔をしているし、これのどこが天才だと言うんだか。
アンジーに早く土産を見せたいとソワソワしているアルジーを見送ると、これの部屋へと案内させることにした。
歩かせるのは時間の無駄だと嫌がるコイツをメイドに抱えさせたら、イラついた様子を隠すこともなく睨んできた。幼いとはいえ何様のつもりでいるんだ。
部屋へと入ると、机には本が山積みにされ、勉強していたであろう形跡があった。
机を見てみると、3歳児にしては進んでいるが、算術に比べると地理と歴史はそれほどでもないようだった。
総合的に見た感じ、3歳にしては言語能力があり、3歳とは思えない算術能力、ただ、地理や歴史などは人並み。これの、どこが天才なんだ?
ソファへ対面になるようにして座り、何故きちんと食事を取らないのか聞くと、本当に小さい声で喋った。
あまりにも小さい声なので、専属メイドのミザリーが間に入るほどで、会話がなかなか進まなかった。
「……味がしない?」
「アンドリュー様にも、アンジェリカ様と同じものをお出ししております。しかし、アンジェリカ様はきちんと味わって食されておられる様子でして、味がしない、ということはございませんでした」
「ということは、コイツだけ味がしないの?何故だ?」
「分かりません。旦那様が一度、お医者様を遣わせてくださったときに、病は見当たらない、と」
「うーん。にしては、顔色が悪いよね?」
コイツに話しかけても不機嫌そうに小さい声で仕方なく答えるといった感じで、全然話にならない。
しかもメイドを間に挟まないといけないとなると、コイツに話しかけるだけ無駄な作業になると気付いたので、放置することにした。
メイドに色々と話を聞いていると、慌てた様子でゼクスが入ってきた。
ゼクスは、この邸のことを任せてある執事なのだが、彼はアンジェリカから魔力が流れていると言う。
「何だって?どういうことだ?」
「奴隷の獣人がお嬢様の魔力が外へと流れ出ていると……」
「父上っ!」
「っ!?アルジー、どうした?」
「奴隷が、アンジーの魔力がここへ流れていると言って」
「こっちだ!コイツへ流れてる!!」
血相を変えて庭から入って来たアルジーと奴隷。
奴隷は、
「お前……、今、何をしていた?」
「…………。」
「答えろっ!!」
「わ、わたくしが聞きます。…………ぇ?そ、そんな……。ま、魔力を、魔力を放出していた、と……」
「なんだとっ!!?誰だ!!誰が、コイツに魔力のことを教えた!!」
メイドを介するせいで遅々として進まない会話を繋ぎ合わせて判明したのは、コイツは体内にある魔力を感知し、それを動かしてみた。そして、それを放出できることに気付いた。更に放出し続けることによって魔力が増えることに気付いて、それを繰り返していた、と。
愚かにもほどがある。こんなのが天才だと?何も知らないクソガキが!!
「3歳の幼児だから知らなかったんだろうな。5歳くらいまでの間に魔力を放出してしまうと
「……ぁ、と、……ぃ。……そ、な」
「アンドリュー様は、『そんなことない、嘘をつくな』と」
「ハッ!嘘なものか。幼少期に魔法や魔力に関わらせないのは常識。そして、魔力量は父親からの遺伝で決まる。お前は、僕の血を引くというのに魔力量は平民並みにしかならないかもね。せいぜい、その天才だと言われた頭脳で家に貢献するんだな」
同じ空間にいるのも吐き気がするほど腹が立ったので部屋を出たが、周りも思っていることは同じだったようで、専属メイドのミザリーまで部屋を出てきた。
貴族には貴族の義務がある。
領民から税を集め、それを使って領地と民を守り、更に発展させる。その労力の対価や体面を保つために多少の贅沢をしているんだ。贅沢といっても経済を回す意味もあるし、優秀な職人を存続させるためでもある。素晴らしい技術を持った者が作り出すものは値が張るんだよ。
だけど、あんな愚か者に使う税など無いね。
魔力が望めないならば魔法の教師はいらないな。その費用が浮いた分で優秀な座学の教師を増やすか。
いや、でも、あんまり期待できないだろうな。
ああいう自分が優秀だと思い込んでいて他者を見下す傾向にあるヤツって、だいたいそれほど出来が良くないんだよ。しかも、それを突きつけられても認めないし、確実に自分より劣ってる相手を見つけては攻撃的な態度を取って優越感に浸って心を満たすんだ。
学園にもいたよ、ああいうの。本当に迷惑。ちょっとでも自分が上だと判断する材料が見つかれば、相手の全てを否定するんだよ。
アンジェリカが少し心配だったので部屋へと案内させると、ベッドですやすや気持ち良さそうに眠っていた。
悲痛な顔をした専属メイドのターナに事情を話すと、「自分がついていながら何ということを……」と後悔の念に押し潰されそうになっていた。
せっかく来たけど、魔医師に診てもらうための手配に戻らないといけないなぁ。
魔医師は、魔力器官を専門に診る医者なんだけど、数が少ないから急に言っても難しいんだよねぇ。でも、アンジェリカのことを思うとちょっとでも早く診てもらいたいし。
アルジーには悪いけど、今日はもう戻るよー。
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