閑話 アンドリュー

 その日、俺は仕方なくコンビニへ向かっていた。

コーラを切らすなとババァにあれほど言っておいたのに、冷蔵庫に入ってなかったからだ。


 しかも、こんなときに限ってババァは家にいない。

ほんと、使えねぇし。


 イライラしながらコンビニに向かっていると、前方には買い物袋を下げた女がフラフラと歩いていて、かなり邪魔だった。

それほど広くない歩道を両手に袋を下げて歩いているので、車道へ出て追い抜かさなければならず、何で俺がそこまでしなければならないのかと、更に腹が立った。


 そんなことを思っていると、更に向こうから騒がしい底辺クズのガキ共が車道にまではみ出してバカみたいに騒いでいた。


 あれのせいで車道に出て目の前の女を追い抜くことも出来なくなり、それで余計に怒りが溜まっていく。


 バサバサという音と共に、目の前の女が袋の中身をブチまけた。

本当に最悪だ。厄日だ。何で、ビニールのレジ袋にそんな重いものばかりを詰め込んだんだよ。この女、かなり頭が悪いな。着ているのもノーブランドのよれたウィンドブレーカーっぽいし、低給の能無し派遣バイトか何かだろう。


 しかもガキ共が偽善者よろしく拾うのを手伝ってるし。

その隙に車道から追い抜いてやろうと、歩く速度を上げたところで閃光にのまれた。


 気が付くと真っ白な空間だった。

目の前には呆れた顔をした男がいて、俺は勇者召喚に巻き込まれたらしいのだが、召喚した世界の女神から受け入れを拒否された、というようなことを言われた。


 「はぁっ!!?なんだよ、それ!!勝手に巻き込んでおいて何様のつもりだよ!?チート寄越せよ!チート!!巻き込まれ召喚には付きものだろうがぁっ!!」

「チートって、ああ、そういう。そのようなことは無理ですね。このまま、ここで彷徨うよりは良いだろうと、私共が管理する世界へと転生させるつもりでいましたが、どうしますか?これを拒否すれば、ここで彷徨いながら消滅するのを待つことになりますが」

「クソっ!!……分かった、受け入れる。その代わり金持ちの家に転生させてくれよ?底辺のゴミ層に転生とか勘弁だからな!」

「……はぁ。分かりました」

「それと、魔法やスキルはあるんだろうな?」

「ありますよ」

「ふん、それならまあいいだろう」

「では、さようなら」


 さようならと、めんどくさそうな言葉と共に俺はまた閃光にのまれた。


 気付いたときには柵のあるベッドに横になっていて、手を見れば赤子だった。

最悪だ。何で赤子からの転生なんだよ!!せめて歩き回れる年齢にしてくれよ!!


 しかも、どうやら近くに他にも赤子がいるらしく、ギャーギャーと泣き喚いてかなりうるさかった。


 食事も排泄も苦行でしかないが、自力ではどうにもならないため耐えるしかなかった。

周りは俺を赤子扱いして構ってくるが、はっきり言ってイラつくだけで楽しいわけがない。


 そんな俺がやることといえば、魔力を操作して増やすことだけだった。

魔法があると聞いていたから自身の身体を隅々までチェックしてみたところ、前世ではなかった感覚があった。


 それが魔力だろうと判断した俺は、ひらすら魔力らしきものを体内で動かした。

体内で濃淡があってバラつきがある魔力を一定の濃度で流れるように調整したのだ。


 最初はかなり大変で、飲んだものを吐き出すことも多かったが、今は慣れた。

魔力循環に慣れた次は、ひたすら使いまくって増やすことにした。


 魔力を使えば使うほど増えるのはテンプレだろ?

だから、循環させていた魔力をなんとかして体外へと出す練習をして、成功するに至った。


 俺ほどの人間になれば、世界が変わっても優秀さは変わらないみたいだな。

まだ1歳では、それほど魔力は増えていないようだが、地道にやるしかない。


 1歳になったことで、隣にいたうるさい愚妹と別の部屋へと移れることになった。

その頃からメイドが本を読み聞かせるようになったので、ひたすら読ませた。


 雇い主は俺の親なんだから、俺の命令に従うのは当然だろ。

何度も読ませて文字を覚えた後は用無しだ。気持ち悪い媚びた顔でガキ用の玩具を振り回すなよ、うぜぇ。


 3歳になって俺の優秀さにやっと気付いたらしく、家庭教師がつくことになった。遅いんだよ、まったく。

俺の双子の愚妹は、簡単な計算も出来ないようで、問題の書かれた紙を叩くだけで何の成果もなかったらしい。


 そんな愚妹は、夕食のときに顔を合わせると、もっと食えとしつこい。

満腹になる手前で終わらすのが常識なんだよ。食いたいだけ食うのは家畜だ。

 だいたい、こんな何の味もしないパサパサしていたりモソモソしている犬の餌みたいなもの食えるかよ。

ここは、中世ヨーロッパくらいの技術しかないのか。それだとなかなか美味いものにはありつけそうもないから、そのうち厨房に行って俺が教えてやらなきゃならないな。


 まったく、何でこんな劣ってる世界に転生させられなければならないんだよ。


 それにしても俺の身体は動きが鈍いし疲れやすい。

魔力消費が原因で翌日に影響が出ているのかもしれないが、これをやめるわけにはいかない。スタートダッシュが肝心だからな。


 もしかして、転生先だったこの身体のスペックが低いからか?

そうだとしたら最悪だ。もっと細かく注文をつけておけば良かった。


 まあ、転生してしまったものは仕方がない。

まずは、魔力を増やして、体力作りはそのあとだな。今のところ循環させている魔力で、通常よりも強い力を発揮できるようになっているようだから日常生活に問題はない。


 さっさと魔法使いのトップになりたいものだ。

1歳の頃から魔力循環や魔力増幅をやってる俺に適うヤツなんていないだろうから、この世界楽勝だな。実力を見せつけてやれば成人前に宮廷入りを懇願されるのも間違いないな。


 どうせ家庭教師がつくんなら剣や槍の訓練もつけてもらうか。

親が子供に教育を施すのは義務だからな。いい教師を派遣してくれるように頼んでおくか。


 

 

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