6 心遣い

 8歳にしては聡いアルジャーノンお兄様。

そんなお兄様は、私とアンドリューを比べておかしいと判断したらしく、「父上に報告しておく」と言って帰って行った。


 毎度の如く何て言ってるか分からなかった私にターナは、「お父様に知らせる、とのことです」と教えてくれた。

堅苦しい言い方を私に馴染みのある言葉に変換してくれるターナさん、マジで感謝してます。


 夕食の時間は、相変わらず不機嫌なアンドリューを放置して終了。

何を言っても響かないと分かったので、もう言うのをやめた。滑舌の悪い口で喋るの大変なんだからね!?良かれと思っても大きなお世話みたいなので、どうせならターナとお喋りする方に労力を使うよ。


 そして、夕食後はお風呂の時間。

幼児用の猫足バスタブにちゃぽんと入れられて、優しく洗われて、クリームを全身に塗り塗りされて、髪はタオルドライした後にドライヤーで乾かしてもらうの。どういう原理のドライヤーなのか分からないけど、便利だからそれで良いのよ〜。


 使っているバスタブは3歳児の身体に丁度いいんだけど、私これから成長するよね?と思って聞いてみたところ、年齢別にバスタブを用意してあるんだって!しかも可愛らしい花柄だし、全部の柄が違うのですって。金持ちってすごいね。タライで良くね?


 もう既にあるものはどうしようもないので、ありがたく使わせていただきますっ!

ありがとう、パパ。アンジーは、幸せ者です。頑張って稼いでちょ。


 そんな幸せに浸ってぬくぬくとお布団に入ると、いつもの如くあの寒気が……。

湯冷めしてんのかねぇ?とか思っているうちに寝ちゃうから、結局どうなのか分からん。というか、季節関係なく訪れる寒気。脳内では日本語であれば言葉に出来てるけど、ターナやアルジャーノンお兄様に説明する言葉に変換できそうもないので、ちょっと困ってる。


 そんなこんながあっても朝になれば絶好調なので、特に不満はない。

ないけど、あの胸の辺りだけ寒気がするのって、気持ち悪いのよねぇ。


 朝食後は、ターナに絵本を読んでもらって、それを私が繰り返して声に出して読むというお勉強をしていまっせ!

楽しいね。絵本を読んでるだけで、めっちゃ褒められる。でへへへ。


 アンドリューは、順調にお勉強しているようで、何か「天才ですよ!!」となっているんだけど、見た目が貧弱なのと落ちくぼんだ目、そして何より不機嫌そうな顔と必要最低限しか喋らない上に、メチャクチャ声が小さいということもあって、そんなに騒ぎになるほど持てはやされてるってことはない模様。


 なんか損してんね。

もっと愛想良くしていればチヤホヤされたのに。

 あ、それはそれで鼻持ちならないヤツに育つか。ただでさえ何か周りを見下してるような雰囲気してるんだから、それでバランス取れてるのかもね。


 不機嫌なヤツを見ていると、こっちも気分が悪くなるよねぇ。

やっぱり愛想良くするのは大事よ?スマイル0円。にぱっ!と笑うとチヤホヤしてくれんの。幼児って特よねぇ。


 「たーにゃ、アルにーたま、今日こにゃい?」

「ええ、ご連絡がございませんでしたので、本日はお見えになられないかと存じます」

「じょん……じ?」

「存じます。思います、という意味ですよ」

「じょん、じょ、んじょっ!ダメー、言えにゃーい」

「ふふっ、そのうち言えるようになられますよ。大丈夫です」


 なるほど、存じます、ね。アンジー覚えた。

そっかー。アルジャーノンお兄様は今日来ないのかー。ちぇ、お菓子期待してたのになぁ。


 おやつ、ちゃんと毎日出てくるよ?しかも毎日違うものが出てくるので、料理人さんの心遣いに感謝してます。してますが、分かりやすく説明すると人参ケーキとか、ほうれん草クッキーとか、数種類の野菜を練りこんだパンケーキとか、ね?幼児の健やかな成長を助けるために色々と考えてくれているのをヒシヒシと感じる、おやつなの。


 つまり何が言いたいかというと、アルジャーノンお兄様が持って来てくれるのは、お菓子なのよ。砂糖たっぷりバターしっとり、こんがり香ばしい焼き菓子なのね。じゅるり。


 「あら、アンジェリカ様、よだれが」

「ありあとー、たーにゃ」


 思わずヨダレが垂れてしまって、ターナが拭いてくれました。


 でもさ、料理もそうだけど、お菓子って分量をきちんと計らないと美味しくならないのよね。というか、失敗することが多い。

だから、毎日工夫をこらして作ってくださっているのを思えば、文句なんて出ないって。


 アルジャーノンお兄様、来ないかなー?


 おっと、知らぬうちに欲望が。アルジャーノンお兄様を待っていたりしないよ?しませんとも。大丈夫です。


 そういえば、おやつのクッキーはしっとり系しか出て来てないんだよね。


 「たーにゃ。くっちー、しちょしちょ」

「クッキーがしとしと?しっとりしているということですか?」

しょうしょうそうそう

「ああ、若様が持って来てくださったクッキーの中には、サクサクしたものがございましたね。アンジェリカ様にお出ししているクッキーは、お喉に引っ掛からないようにしっとりしたものを選んでおりますよ」

「おおっ、たーにゃ、ありあとーーー!」


 誤飲防止のためだった。

ターナさん、さすがベテランメイド。ありがたや、ありがたや。


 料理人さんもその辺を考慮してくれているんだよね。むね肉っぽい感じのお肉にはサッパリとろりとしたソースが絡めてあったりと、噛む楽しさを残しつつ、喉に引っかからない工夫をしてくれているんじゃないかと。


 それに、庭はいつもキレイだし、小石や枝が落ちてることも糞とかもないからね。


 ありがたや、ありがたや。

 

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