5 兄妹

 アルジャーノンお兄様が8歳で、クリフが11歳とのこと。

クリフには弟妹がいて、もしかしたら、弟がアンドリューに、妹が私に仕えることになるかもしれないと言われた。


 「ほぇー。いみょーと、いくちゅ?」

「妹は、8歳ですよ」

「アルにーたま兄様いっちょ一緒?」

「ええ、そうですよ」


 クリフとお喋りしていると、ムスっとした顔でアルジャーノンお兄様が、「クリフとばっかり喋ってる」とスネてしまった。可愛いしか無いで?


 「アンジー、その、によによした顔をやめなさい」

「ににょににょ、ちた?」

「によによしてる」

「ににょににょ」


 ちなみに、アルジャーノンと呼ぼうとすると噛むので、噛まなくなるまで暫定的に「アル兄様」と呼ぶことになった。アルと言おうとしてたまに「ニャル」になる素晴らしき私の滑舌!


 あまりワガママを言わずに素直に楽しく幼児ライフを満喫している私に、周囲の人たちは「手の掛からない、とても良い子」だと言って甘やかしてくれる。

いつも楽しく、というか本当に楽しいので笑顔全開なんだけど、目が合えばにぱっ!と愛想を大安売りなんてものではなく、スマイル0円をモットーに振りまいている。


 あまりにも笑顔を向けると喜んでもらえるので嬉しくなった幼児の私は、感情が態度に直結しているので、どうなるかというと、踊り出す。

小躍りするとか、そういうんじゃないよ?物理的に踊る。お尻フリフリしながら、鼻歌まで歌いながら踊る。我ながら謎ですが、幼児だから仕方がないのよ。


 自分でやっていてどうかと思うけど、客観的に見れば3歳の美幼女が笑顔で鼻歌つきでお尻フリフリしながら踊ってるって鼻血案件だと思わない?私は思う。


 ということで、「ににょににょー。ににょににょー」と言いながら踊ってみた。

たぶん、アルジャーノンお兄様は「によによ」っていう意味で言ったんだろうけど、新しい単語は繰り返して覚えるべきだよね?ということで、やってみた。


 「あぁー。アルジャーノン様が変な言葉を教えるから」

「ちょっと、僕のせいなの!?」

「まあ、可愛らしいから良いじゃありませんか」

「良くないよ!アンジー、によによは止めなさい。いけません」

「ダメなにょ?」

「ダメです」

「あーい!」


 ここで、しつこく「ににょににょー」ってやると8歳の子供はそのうち腹を立てて泣き出すこともあるので、この辺で止めておきましょう。


 鷹揚に頷いたアルジャーノンお兄様は偉そうで可愛いだけなんだけど、そんなお兄様は、私をまじまじと見て首を傾げた。


 「やはり、アンジーと比べると体格も感情の起伏も違い過ぎるよね」

「アンドリュー様のことですか?」

「そう。僕も大人しい子供だと言われてはいるけれど、アンドリューの場合は少し違うように思うんだよね。さっきも専属のメイドに話を聞いたけど、耳をすまさなければ聞き取れないほど小さな声というのも、どうかと思うんだよ」

「そうですね。しかも、要件以外は喋らない、と……。奇妙というより不気味ですよね」

「クリフ……。仕えている家の息子に不気味と言ってはダメだろう」

「あ、申し訳ございません」


 うーん。アルジャーノンお兄様とクリフのやり取りに分からない単語があって、何を喋っていたのか分からないねぇ。まあ、私に関係のある話なら分かりやすく説明してくれるだろうから、放置でいいか。


 ランチの時間になったので、アルジャーノンお兄様と一緒に取ることになったんだけど、私の食事風景を見て、またしても首を傾げた。もしかして、寝違いでもしていたのかねぇ?


 「自分がどうだったかなんて覚えていないけれど、アンジーは自分で食べないんだね」

「食べちぇるにょ?」

「うん、パンをちぎって食べる以外はメイド任せだね」

「おいちぃーねー」


 何て言ってるか分かんなーい。ということにしておきます。

だって3歳児が細かいことをしようとするのって難しいし大変なのよ?食べさせてくれるなら、その方がキレイに美味しく食べられるというものです。

 それに、ターナは私の目線を追って次に何を食べたいのか察して口に運んでくれるのよ?さすが、ベテランメイド。ありがたや、ありがたや。


 「アンドリューは、既に周りの手を借りずに食べているそうなんだけど、量が少ないと心配する声が多かったね。ターナといったか、アンジーと比べてどうなんだ?」

「はい、若様。アンドリュー様は、お世話されることを嫌がる傾向にございまして、身の回りのこともご自分でなさろうとします。食事量もアンジェリカ様と比べると3分の2を下回りますし、どうかすると半分ほどで食べるのを止めてしまわれます」

「ふむ。好き嫌いが激しいのかな?」

「そう……ですね。油分の少ない、むね肉などは手をつけられないことが多く、パサついたものはあまり好まれないようです」

「うーん。ただの好き嫌いなら直さなければならないが、そうでないとしたら、何があるんだろう?」


 二人とも早口で喋るから聞き取れないよー。

私に話し掛けるときは、聞き取りやすいようにゆっくり喋ってくれてんのね。


 優しい環境で感謝しかないわ。


 でも、アンドリューって言ったのは分かったんだけど、もしかして具合でも悪いのかな?

だって最近、何か顔色も良くなさそうだし、目が落ちくぼんでたよ?とてもじゃないけど、お金持ちの家の子供には見えないもん。病気なのかねぇ?それで、アルジャーノンお兄様も心配で見に来たのかも。


 美味しい手土産持って来てくれるんなら、もっと様子を見に来てくれてええんやで?

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る