4 お母さん

 寝起きにドアップかまして来たのは、私アンジェリカの兄に間違いないんだけど、なんと母親が違うそうな。

分からない単語を噛み砕いて更にややこしく説明してくれたアルジャーノンお兄様が帰ってから、ターナが説明し直してくれました。


 それによると、アルジャーノンお兄様は正妻の息子で跡取り。

私と双子の兄アンドリューは、代理母の子供なんだそうな。


 出産は命懸けなこともあり、正妻が子供を産まないこともあるそうで、そこで出来たのが「代理母」という存在。


 半年間、女性しか出入りできないようにして軟禁され、その後に父親となる男性と合体。

無事、出産にまで漕ぎつければ謝礼金を貰ってサヨナラするんだけど、そのときに二度と子供が出来ないように処置されるので、代理母側で異父兄弟が発生することはないとのこと。もちろん代理母は必ず処女でなければならないみたいです。言葉を濁されたり分からない所があったから前世の記憶にあるものを照らし合わせて補完するしかないけど、たぶんそんな感じなんでしょう。


 乳母が悲しそうな寂しそうな顔をしていたのは、そういうことだったんだなぁって、ターナの話を聞いて思った。

お金のために私たちを産んで、さっさと謝礼金をいただいて去って行ったというところなんだろうな。まあ前世でも海外だったけど代理母制度あったしね。そんなに気にはならないよ。


 「だから、とーしゃま父様会いにこにゃい来ない?」

「いえ、お忙しいのでございますよ」


 うん、慰めをありがとう。

愛人とか妾の子かもしれないと思っていたら、まさかの代理母っていう、ね。ビックリだわ。


 そうなると、正妻さんにそれほど睨まれたりはしていないのかな?

あんまり楽観視はできないけど、大人しくしていよう。


 「たーにゃターナたーにゃターナにいたま兄様いくちゅいくつ?」

「8歳でござますよ」

しょっかーそっかー


 イー!イー!と鳴く黒い全身タイツの敵が現れそうな返事をしてしまったけれど、わざとではないの。幼児の滑舌って、どうしてこうなんだろうねぇ?


 夕食の時間になり席についたけれど、相変わらず不機嫌そうな顔をしたアンドリューは、あまりたくさん食べない。

ミザリーが言うには、動かないからお腹が空かないのではないか、ということだったけれど、それにしたって必要量というものがあると思うんだよねぇ。


 私が、というか誰が話しかけてもなんだけど、めんどくさそうに顔を歪めるだけで返事しないしさ。

私はダラダラ生活のために愛想を振りまいているので、周囲のウケは良いですよ?みんな嬉々として構ってくれるので、前世の記憶がなければワガママ高慢チキなお子ちゃまになっていたかもねぇ。


 ちなみに、アルジャーノンお兄様が住んでいるのは、ここから馬車で「お散歩時間」ほど離れたところにあるそうな。

お散歩時間って何かって?私のお散歩に掛かる時間が30分ほどなので、ターナが分かりやすく言ってくれたのだよ。さすが、ベテランメイド。


 馬車とは言ったけど、馬がひいているわけではないのは絵本で確認済みなんだよね。

あれ、何だったかな?ラー……ランプ?違う。ランプー、あっ、ラプトル!みたいな動物だった。絵本に描かれていたのが、そんな生き物だったから、馬車じゃなくて恐竜車?あ、竜車かな?うん、その方がしっくりくるね。


 「さあ、アンジェリカ様。ねんね、しましょうねぇ」

「あーい。たーにゃ、おやしゅみ」

「はい、おやすみなさいませ」


 お昼寝してしまっても夜に眠れないとかないんだよね。さすが幼児!

でもさぁ、なんだろうねぇ。寝る時間になると、胸の辺りが寒いっていうのかなぁ。物理的な寒さというより、んー、悪寒?みたいな?この時間だけっていうことは風邪ではないよね?なんだろ……。


 とか思っているうちに眠っちゃうのは、いつものことでして。

翌朝には気分爽快!元気です!


 今日は何して遊ぼうかなー?

「アンジェリカ様。本日は、アルジャーノン様がお見えになられるそうですよ」

「おみゃ?」

「お見えに、なられます。来ます、ということですよ」

「おみゃーに。おーみぃーにぇーに?あれ?」

「ふふふ、まだ難しかったですか?」

「むちゅかちぃーね!むじゅっ、むちゅっ、あれ?」


 わざとやってるわけじゃないんだけど、周りがほんわかしているのでヨシとしておこう。

私が生まれつき滑舌が悪いわけではないと思いたい今日この頃。


 朝食を終えて庭に行くと、アルジャーノンお兄様が優雅にお茶を飲んでいて、その後ろには昨日も来ていた美少年が控えていた。

アルジャーノンお兄様が王子様系のイケメンだとすると、控えている美少年はアイドル系な感じだね。


 「アンジェリカ、おはよう」

おあよーごじゃまちゅおはようございますおにーたまお兄様!」

「うん、何を言っているかサッパリだよ」

「ぶふっ!」

「クリフ、どうかしたか?」

「いえ、何でもございません」


 あ、そうそう、クリフ君ね。

「クリフー?」

「はい、お嬢様。アルジャーノン様付き執事見習いのクリフと申します」

「アンジーでしゅ!よおちくよろしく、クリフ!」

「はい、よろしくお願いいたします」

「ちょっと、愛称呼びとか許可しないからね?」

「推測ですが、『アンジェリカ』と発音し難いのだと思われます」

「あんにぇりにゃ!」

「……。アルジャーノンと言ってごらん?」

「あるにゃーにょあっ!えぅー、いあー……」

「ああっ!アンジェリカ様、大丈夫でございますか!?思っいきり噛んじゃいましたね」


 アルジャーノンと言おうとしたら思っいきり噛みました。

痛かったわー。マジで。ターナが口の中を確認してくれて、自らの腰につけてあるポーチから小さな入れ物を出して、それを塗ってくれたんだけど、苦甘い。苦いのいらんよ。甘いのだけでええんやで?


 「アンジェリカ、苦いのは薬だからね。甘いだけじゃ何にもならないから」

「ああぁー……」

「分かったから。苦いの分かったから、口を閉じなさい。ほら、手土産に持ってきたお菓子あげるから」


 どうやらアルジャーノンお兄様は妹に甘いようだけど、手土産に持ってきたのなら、どっちにしろ私の口に入るよね?


 

 

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