17『大空宅配便』ヘブンビーチ

 シュンは砂浜を歩いていた。


 しかし絵画で見るような美しい砂浜ではなく、度々見られる犠牲者の痕跡が

ここを危険な場所であることを伝えていた。

 更には森での出来事もあったため、今回ばかりはシュンも周りの景色を楽しめては

いなかった。

 

 そんな彼の背後から突然、羽ばたく音と共に力強い着地音が聞こえてきた。

 シュンが振り返ると、そこにいたのはライオンの体に鷹の頭・翼・前足を持った

魔物グリフォンだった。


 その恐ろしい姿から危険を察したシュンはすぐにグリフォンからの逃走を

図るが、その様子を見たグリフォンもシュンの背後へと距離を詰めた。

 しかしグリフォンが狙いを定めたのは彼ではなく、彼の持つリュックサック

であった。

 掴んだリュックサックからシュンを振りほどくと、グリフォンは乱暴にリュック

サックを漁る。

 そして中に入っていた干し肉を見つけると、夢中になって貪り始めた。


 グリフォンにとって小柄なシュンはそれほど良い獲物には感じていないようで

あった。

 その隙にシュンはリュックサックを回収すると、駆け足でグリフォンから

遠ざかった。

(あの干し肉、大事に取ってあったのに……)

 度重なる悲劇に、シュンの心は更に落ち込んでいった。


 ……。

 ひたすらに砂浜を歩き続け干し肉への諦めがついた頃、ついに砂浜の終わりが

先に見えた。

 しかし、足早に進むシュンの目の前に先ほどのグリフォンが進む道を遮るように

舞い降りた。

 やはり気が変わったのか、今度はシュンに狙いを定めている様子だった。


「せっかく秘蔵の干し肉をあげたのに……なんて理不尽な……」

 そんなシュンの嘆きの声をよそに、グリフォンは彼へと飛び掛かった。

 

 驚いたシュンは咄嗟に無数の糸をグリフォンへと浴びせるが、拘束されてもなお

足と翼を器用に駆使し、跳ねるようにシュンへと接近する。

 その動きは意外に速く、再びグリフォンからの逃走を図るシュンだったが、動揺のためか砂浜に足を取られてしまい、砂の上に手をついた。


 もはや命の危機を感じたその時、砂に埋まった手が不思議な感覚に包まれると

棒のような物体が手の傍にあることに気が付いた。

 すぐ背後にグリフォンの気配を感じたシュンは、慌ててその棒状の物体を

グリフォンへと突き出した。


 その瞬間、糸の千切れる音と共にそれがグリフォンの前足と翼の付け根を貫いた。

 グリフォンは高い鳴き声を上げ、シュンから距離を取ると慌てて上空へと飛び

去って行った。


 動揺したシュンはしばらく動けずにいたが、元の落ち着きを取り戻すと手に

持っていた棒状の物体へと視線を向ける。

 杭のように尖った先端と、その反対側には何かを通せそうな楕円形の穴が

開いていた。

 その見慣れた形状に、シュンは思わず呟く。

 

「え? 針?」

 それは、シュンの中に生まれた新しい魔法だった。




※次回予告のダイスロール「2」


 

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『ダイスロール・アドベンチャー30』異世界と人形作家 小本 由卯 @HalTea

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