第137話
『ジューゴフォレスト! ジューゴフォレスト! ジューゴフォレスト! ジューゴフォレスト!』
「……」
洞窟の外へと出ると、待ち構えていたかのようにプレイヤーたちが大歓声で出迎えてくれる。別にそれを望んでいたわけではないのだが、イベントは終わったのだから各自解散してもらってもよかったんだぞ?
と言っても「はいそうですか」と素直に従ってくれたかどうかはわからないのと、もともとは俺が言い出しっぺであるということを考えれば、これは必然と言えなくもないのだろうか?
まあ、なんにせよ。俺から言えることはただ一つだ。
「どうしてこうなった……解せぬ」
まるでスタジアムの大歓声の如き轟音が響き渡っている。
その声は一様にして俺の名を呼んでいる。……俺はファンタジーに出てくる英雄か何かか?
そんなことを考えていると、俺のもとに近寄ってくるプレイヤーたちがいた。よくよく見ると、それは先ほどまで共に戦っていたハヤトやレイラ、そしてそのパーティーメンバーたちにアカネ・カエデ・ミーコの見知った顔や、アキラとルインの凸凹コンビのNPCも混ざったよくわからないグループがおり、口々に俺を称えているようだ。
「やったなジューゴ」
「ふん、あなたにしてはまあまあやるじゃないの」
「おめでとうジューゴ君」
「おめでとうございます!」
「……でとう」
「さすがは私のご主人様ですわ!」
「さすがはボクの旦那様。ボクは鼻が高い」
それぞれが俺に賛辞を送っており、中には反論したい言葉も飛び交ったが、いきなりのことでテンパっていた俺は反論する隙がなかった。
ちなみに、俺に声を掛けてきたのはハヤト・レイラ・カエデ・ミーコ・アカネ・アキラ・ルインの順だ。
「これは一体何の騒ぎだ?」
「何って、このイベントの立役者である君が出てくるのを待っていたんだ」
「えぇー」
まるで何を言ってるんだと言わんばかりのハヤトの言葉に、俺はどう反応していいのかわからず言葉を失う。そんなことよりも、もう終わったんだから解散しようよ君たち……。
そんなことを内心で考えていると、アキラとルインの二人が俺にすり寄ってきた。
「すぐにボクと結婚しよう!」
「何を言っているの。ご主人様は私と――」
「お前ら黙れ」
そして、最後におっぱいオバケのアカネとカエデ、それにミーコも今回のイベントの感想を漏らす。
「いやー、なかなかに大変な戦いだったけど、終わってみれば結構楽しかったよ」
「そうですね」
「……」
「ん、どうしたおっぱいオバケ? さっきから大人しいな。いつもの威勢はどうしたんだ?」
アカネの態度が気になった俺は、素直に問い掛けた。だが、返ってきた答えはいつもの彼女の言葉だった。
「へん、今回はいいところを譲ってやったが、次こそはあたしが大活躍してやるからな!! 覚えておけ!!」
「あ、ああ」
((うわぁー、ツンデレ過ぎる))
何やら怒っているようだが、俺に活躍の場を取られて悔しいのだろうと解釈する。俺としては、あまり目立ちたくはないので是非とも頑張ってほしいところだ。
そんなことを考えていたその時、不意にレイラが問い掛けてくる。
「ところで、ランキング一位報酬のクラン作成券ってどんなものか確認した?」
「ん?」
そう言われて、そういえばそんなものが報酬としてあったことを思い出す。ランキング一位の衝撃で忘れていたが、確かに一位にだけ【クラン作成券】というアイテムがもらえる。
俺はさっそくアイテム欄からクラン作成券を選択し、どういったものなのか確認する。どうやら、その名の通りクランという組織を作れるらしく、おそらくはギルドのような一定のまとまったグループを作り出すことができるようだ。
さっそくクラン作成券を使用してみる。すると、このようなメッセージが表示される。
『クランを作成します。名前を入力してください』
まずは名前の入力をするということで、何のひねりもなくただぱっと思いついた名前を入力した。
『クランの名前は【スローライフを探求する者】でよろしいですか? はい / いいえ』
もともと俺がこのゲームを始めたきっかけは、無趣味な自分にちょっとした趣味を持たせることと、日頃仕事で溜まったストレスを発散させる目的があった。
それ故、組織の名前を決めるならばやはりスローライフを送りたいという意思表示は大事であり、自分が真剣にゲーム攻略に取り組んでいるいわゆる“ガチ勢”ではないということを伝える必要性があると考えた。
以上の理由からクランの名前を【スローライフを探求する者】に設定することで、そういった思惑を他のプレイヤーに伝える目的があったのだが、ここで思わぬ事態が起きた。
“ピンポンパンポン”
どこかで聞いたことがある呼び出し音がゲーム内全体に響き渡る。そして、すべてのプレイヤーに向けてあるメッセージが投下された。
『プレイヤー名【ジューゴ・フォレスト】によって初めてクランが作られました。これよりクランの説明をいたします。
クランは冒険者ギルドのようにプレイヤーまたはNPCによって構成された組織であり、一定数のまとまった人数で組織されたグループです。
クランを作成するには、ある特定の条件を満たすことで入手が可能となる【クラン作成券】のみで作成が可能となり、それ以外の方法はありません。
クランを作成することでクラン独自の拠点を得られたり、クラン単位での特殊クエストを受けられたりといろいろな特典が付いてきますので、是非ともご利用ください。
クランメンバーの登録は、クランマスターとサブクランマスターのみとなっております。クランマスター及びサブクランマスターについては、プレイヤーのみ持つことができる権限ですので、その点はお気を付けください。
説明は以上です。』
「……」
『……』
メッセージを読み終えると、その場に沈黙が訪れる。しかし、すべてのプレイヤーがある一方向に視線を向けているのが嫌でもわかってしまう。どこかといえば、当然俺だ。
さて、ここで質問です。何かと騒がせている有名プレイヤーが、新たにクランを作ったと聞いたら、あなたはどうしますか?
答えは単純明快。
「ジュ、ジューゴ。あたしたち友達だよな?」
「な、なんだよ急に」
「一緒に狩りに出掛けたりもしたよね?」
「カ、カエデさん?」
現在、クランを立ち上げているのは【スローライフを探求する者】のみであり、他はゼロだ。そして、先ほどのメッセージにもあった通り、ゲーム内唯一のクランのクランマスターが俺であることも知れ渡ってしまっている。
アカネとカエデが俺に詰め寄る中、他の面々も獲物を狙う野獣が如き目を向けてきており、それは一貫して同じメッセージを放っていた。
それ即ち“お前のクランに入りたい”である。
そんな彼ら彼女らの圧に気圧された俺は、一歩、また一歩と後ずさる。しかし、それを詰めるように二歩三歩と向かってくるプレイヤーたちにとうとう俺は逃走を決意した。
「じゃあ、そういうことでお疲れさまでしたぁぁぁぁあああああああああああ!!!」
『逃げるなぁぁぁぁぁああああああ!!!』
嫌な予感を感じた俺は、すぐにその場を去ろうとする。だが、すぐにそれを察したプレイヤーたちが動き出し、取り囲まれそうになった。
だが、そこで救世主が現る。
「クエッ」
「クーコ。お前、乗れって言うのか?」
「クエ!」
まるで「任せろ」と言わんばかりに、羽を器用に使ってサムズアップのような仕草を取る。……お前のそれは羽じゃなくて手じゃないのか?
とにかくだ。贅沢は言ってられないので、そのままクーコに飛び乗った俺は、プレイヤーたちからとんずらする。
「ハイヨー、シルバー!」
「クエ? クエー!!」
俺の掛け声に何のことだと首を傾げていたクーコだったが、すぐに気を取り直して一気に駆け出した。さすがは騎乗可能なモンスターだけあってその速度は速く、とてもプレイヤーの足では追いつくことは不可能なほどだ。
こうして、何とかプレイヤーたちから逃げることに成功した俺であったが、まさか再び鬼ごっこをやらされる羽目になるとはこの時の俺は知る由もなかった。
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