第132話
「おらおらおらおらおらおらおらおらおら! 邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だぁー!!」
ベロナ大空洞の【常闇の間】にいるというゴブリンエンペラーと戦うべく、俺はクーコに騎乗しつつ洞窟内を蹂躙していた。
奥に行けばいく程、向かってくるゴブリンの数は増えていく。おそらくは外にいるプレイヤーたちを洞窟内に入りにくくするための仕様としてモンスターが湧いてくるポイントがあるためだろう。
だがしかし、人の足よりも遥かに速く移動できるクーコの脚力をもってすれば、こちらが一方的に攻撃を仕掛けることも難しくはない。できる限りMPを使わないよう温存しつつ、侵攻ルートにいるゴブリンは倒せるだけ倒し、前へ前へと突き進む。
迫ってくるゴブリンの数は数百は下らない。それでも時速百キロというとんでもない速度で走るクーコには追い付けず、背景を置き去りにする。
正直なところ、そんな状況下で剣を振り回して意味があるのかとも思っているが、何だかんだでゴブリンに剣を当てることができているため、少しでも経験値を稼いでおこうと剣を振るう。塵も積もれば山となるのだ。
そんな暴走といってもいい行為をひたすら続けること十数分後、とんでもなく広い場所へと到着する。そこは先ほど戦ったゴブリンクイーンがいた場所の数倍の広さがあり、二十五メートルプールを四つ以上並べてもまだ余りあるほどにだだっ広い。
マップで確認すると、そこには【常闇の間】という文字が表示されており、どうやら目的の場所へ到着したようだ。
この先何が起こっても対応できるよう、一度クーコから降りて、警戒しながら慎重に進んで行く。
「やれやれ、何で俺が一人でボスと戦わねばならないのか……これ多人数参加型オンラインゲームだよな?」
確か、このゲーム【VRMMO】というものだったはずだ。だというのに、何故俺はたった一人で今回のイベントの最終ボスと戦おうとしているのだろうか? 理解ができない。
これは、間違いなく運営の謀に巻き込まれている気がしてならない。でなければ、何故俺がこんな過酷なことをしているのか説明がつかないだろう。
『プレイヤージューゴ・フォレストが、常闇の間に到着しました。これより、最終決戦イベントを開始します』
メッセージウインドウに表示された内容に俺は項垂れる。名指しで名前を表示させられたこともそうだが、明らかにこのイベントの成功の鍵は俺だという運営の意図が伝わってきやがる。くそう、俺に平穏は訪れないのか……。
そんな俺の嘆きとは裏腹に、腹の奥底から響き渡るような低い声が響いてくる。
「ヨクゾココマデタドリツイタモノダ。ニンゲンニシテハ、コンジョウガアルヨウダ」
声のした方に視線を向けると、岩でくり抜かれた玉座のような場所に四メートルはあろうかという巨体のゴブリンが鎮座している。間違いなくこいつがゴブリンエンペラーだろう。
さっそく、鑑定を使って調べてみるが、結果はゴブリンクイーンと同じく能力未知数の相手であった。だが、ゴブリンクイーンが前座であることを鑑みれば、強いのは間違いない。
俺は、少しずつ歩んでいくと、常闇の間のちょうど中央辺りに周囲とは少し窪んだ場所に移動する。すると、どこからともなくやってきたゴブリンに取り囲まれてしまう。その数は、少なく見積もっても千を超えており、下手をすれば三千に届く勢いだ。
「マズハ、コテシラベニ、ワガハイカドモトタタカッテモラオウカ」
不遜な態度でそう吐き捨てる様は、まさに皇帝の名を冠する存在としては相応しい。だが、一人でこの数を相手にするのははっきり言って御免蒙りたいところだ。
「いつものことだと言えばそうなのかもしれんが……どうしてこうなった?」
俺のぼやきとも愚痴とも言える呟きに答えるものは誰一人としていない。理由は至ってシンプル、今この場に俺しかいないからだ。
「ギィ、ギギィー」
「ギギャギャギャギャギャー」
まずは前哨戦といった具合だろうが、俺としては面倒臭いことこの上ない。なぜ雑魚を相手にせねばならぬというのか……。
俺はその不満をぶつけるように、抜き身の剣をゴブリンエンペラーに向けて言い放った。
「やれやれ、時間の無駄だから大人しく俺と勝負しろ」
淡い期待を込めてそう言ってみたはいいが、当然ゴブリンエンペラー側からすれば、俺の意見を聞き入れる道理などはない。敵としてここにいる以上それを排除しようとするのは当たり前のことであり、寧ろ直接相手にしてやることすらないのだ。
「ワレヲタオスタメニ、ココマデキタコトハホメテヤル。ダガ、タカガハムシイッピキゴトキニナニガデキル」
「その羽虫にお前は今から倒されるのだ。そのためにわざわざこんな陰気な所まで来てやったんだ。感謝しろ」
「ソノナマイキナクチヲ、イマスグキケナクシテヤル。コロセ」
忌々しい表情を浮かべながら、俺を取り囲んでいたゴブリンに命令する。それを受けたゴブリンたちが一斉に俺に向かってくる。
「面倒だが、やるだけやるか」
いろいろと言いたいことはあるが、今はそんなことを言っている場合ではなく、やるしかない状況であるため、俺は剣を持つ手の力を少し強めた。
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