第131話
『ゴブリンクイーンの撃破が確認されました。これより、ジャイアントパワーゴブリンにダメージを与えることが可能となります』
そうアナウンスされた瞬間すべてのプレイヤーのモチベーションが上がった。だが、次のメッセージで再び緊張感が飛来する。
『ゴブリンクイーンの撃破により、ゴブリンエンペラーの出現を確認。直ちにベロナ大空洞最深部【常闇の間】に向かい、ゴブリンエンペラーを撃破してください。だたし、ベロナ大空洞の入り口を壊そうとジャイアントパワーゴブリンが妨害してくるので、これに対処しつつ最終目標のゴブリンエンペラーの撃破を行ってください』
というメッセージが表示された。なかなかの労力を使ってゴブリンクイーンを倒しと思えばこれである。まったくもって勘弁してほしいと、俺は心の中で嘆息する。
だが、そもそもゴブリンクイーンは前座でしかないことはわかりきっていたので、親玉を引っ張り出せたことは僥倖である。先ほど得た情報を纏めると、以下の通りになる。
・ゴブリンクイーンの撃破により、ジャイアントパワーゴブリンにダメージが通るようになった。
・ゴブリンクイーンの撃破により、ゴブリンエンペラーが出現。
・出現したゴブリンエンペラーを撃破するべく、ベロナ大空洞最深部【常闇の間】に向かいつつ、ベロナ大空洞の入り口を破壊しようとするジャイアントパワーゴブリンや他のゴブリンたちの進撃を阻止する。
以上がこのイベントにおける最終ミッションなのだが、はっきり言って面倒臭いことこの上ない。ただでさえ苦戦したゴブリンクイーンよりも強者であろうゴブリンエンペラーと戦いつつ、ベロナ大空洞の入り口を塞がれないよう防衛もしなければならないのだ。端的に言えば、ゴブリンエンペラーとジャイアントパワーゴブリンをそれぞれ相手にする二面作戦である。
そして、この状況において誰がゴブリンエンペラーの相手をするのかといえば、言わずもがな……。
「ジューゴ頼んだ」
「あたしたちは外にいるゴブリンたちをなんとかするから、あなたはゴブリンエンペラーを倒しなさい」
「おいおい、俺一人だけでなんとかできる相手かわからんだろうが! ここは三人で――」
「それなら問題ない。メッセージの続きを読んでみろ」
俺が抗議の声を上げるのを遮り、ハヤトがそんなことを口にする。それに従ってメッセージの続きを読んでみると、ご都合主義というかなんというか、今の状況を見越した条件が付与されていた。
その条件とは、常闇の間と呼ばれる場所に入ることができるプレイヤーは一人で、最終決戦はゴブリンエンペラーとの一騎打ちで決着を付けると表記されていたのである。
……マジかよ。これでは、ますます俺が適任なんじゃないのか?
現在、全プレイヤーの中で最も能力が高いのが俺だ。これは決して自慢でも自惚れでもなく、純然とした事実だ。つまり、最終的な決着はボスであるゴブリンエンペラーと一名のプレイヤーによる一対一の戦いで決まるということだ。
そこで、プレイヤー側として相応しい相手が誰かといえば、最もステータスの高い人間が選ばれることは真っ当なことであり、そしてその条件を満たす人間が俺だということもまた揺るぎのない事実なのだ。
「というわけだから、ボスの相手は任せたぞ!」
「精々油断しないように気を付けなさいよ!」
「お、おい。俺はまだ戦うことを了承しとらんぞ。待て、待つんだ!」
などと言いつつも、そんな話をしたところで俺が戦うことは決定事項といっても過言ではない。実際この場にいる俺とハヤトとレイラの内最も強いのが俺であることは。本人である俺自身も自覚がある。そして、ハヤトとレイラの場合【ウロヴォロス】と【紅花団】の主要メンバー……というかリーダーという重要なポジションに就いている。
それを考慮した場合、現状その要となる二人が抜けた状態でパーティーを最前線に置き去りにしてきてしまっている。本来であるならば、今すぐにでも現場に戻って指示を出すべきであることも理解できる。
しかし、そういった諸々の事情を理解できるということと、その現状を受け入れられるか、納得できるかというのはまた別問題なのだ。
「どうしてこうなる? 俺はただまったりのんびりとやりたいだけなのに……」
……解せぬ。実に解せぬ。ただのホワイト企業に勤めるサラリーマンが、こんな大事な局面を任せられることなどあっていいのだろうか? リアルの会社ですら大事なプロジェクトを任されることなどないというのに……。
二人がいなくなり、そこに一人残された俺は頭を抱えてその場から逃げ出したい衝動を抑える。できれば、誰かに変わってもらいたいが、すべての状況が俺がやらなければならないという結論に達してしまっている。
それはさっきも言ったが、俺とて空気が読めないわけではないため理解はできる。ただ他にもっと適任者がいるんじゃないか? 俺でなくともいいのではないか? という思いがあり、現実を受け入れたくないだけなのだ。
「クエ」
「やっぱり俺がやらんといかんよな?」
「クエクエ、クエクエクー」
その場に唯一残っているクーコが慰めてくれるが、言葉の意味はわからなくとも「そうそう、だから諦めろー」と言っているように聞こえるのは決して俺の気のせいではないだろう。
彼女にとって、そういった代表に主人である俺が選ばれることは誇らしいことなのはわかる。だが、クーコよ……俺は、お前のご主人は、そういったことがあまり好きじゃないってことはちゃんと理解できているのか? んん?
そんな俺の思いとは裏腹に、早く行こうとばかりに手羽先を起用にサムズアップの形にして催促してくる。くそが、こいつは悪くはないが、考えていたら何故か腹が立ってきたぞ。
「こうなったのも、何もかも運営がこんなイベントを用意したせいだ。……いいだろう、テメェらは俺を怒らせた。こうなったら、目に物を見せてやる……」
怒りの方向性が間違っているような気はするが、少しはやる気が出た。こうなれば、破れかぶれだ。俺の平穏のためにゴブリンエンペラーには犠牲になってもらうとしよう。
そう思いながら俺はクーコに再び跨ると、全速力で大空洞の奥地を目指して進撃を開始するのだった。
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