第130話



「クエックエックエックエックエッ」


「うっばっがっべっぼっ」



 一方的な戦いが繰り広げられる。どちらが優勢なのかは、誰が見ても明らかだ。



 サポート役に徹してくれていたクーコだったが、俺がゴブリンクイーンの動きを捉えることが困難である状況の中、クーコは奴の動きが見えるらしいので、役割を交代してみた。



 その結果、クーコがゴブリンクイーンをボコボコにするという事態となっており、完全に彼女の独壇場が続いている。



「ちょ、ちょっと待ちなさい! あなた何やってるのよっ!?」


「見ての通りだ」


「馬鹿にして!」



 あまりにクーコが活躍するものだから、その場に横になり日曜日のお父さんよろしく寝そべっていたのだが、それを目ざとく見つけたゴブリンクイーンに見つかってしまい突っ込みを受けてしまう。



 そりゃあ、戦いの最中にもかかわらずそんなことをすれば目立つのは仕方がないが、俺の行為を指摘できる程にはまだまだ余力がある様子だ。



 クーコ自体の攻撃力は、サポート役ということでそれほどない。あれだけボコボコにしたゴブリンクイーンの体力は精々が四割程度のダメージに留まっている。



 しかし、それでも形勢はクーコの方が有利であることに変わりはない。……このままなにも起こらなければの話だがな。



「調子に乗るんじゃないわよっ!!」


「クエッ!?」



 どうやら、体力が半分になったことでいよいよ本気モードに移行したのか、ゴブリンクイーンの身体の周囲に赤いオーラのようなものが浮かび上がる。見るからにステータスを向上させるような何かが発動しており、迂闊に飛び込むとマズイ予感がする。



 それが証拠に、先ほどまで優位に立てていたはずのクーコの攻撃を躱し、逆に攻撃をくらい一時的に距離を取る。ただでさえ動きを見切ることができなかったのに、今では一筋の線が走ったようにしか見えないほどだ。



「おっと、どうやらサボっている場合じゃなさそうだ」


「可愛がってあげようかとも思ったけど、あなたみたいな生意気な人間はお断りよ」


「そりゃあ気が合うな。いくら美人でも、俺もお前とはそういうことをしたいとは思わん」


「ジューゴ!」


「無事なの!?」



 最初から意見が合うことのなかった結論が今出たところで、別段どうということはないのだが、ここで事態が急変する。ハヤトとレイラの二人がようやく俺に追いついてきたらしく、ゴブリンクイーンを牽制しながらやってくる。



 これで戦力が大幅に増えたが、依然としてゴブリンクイーンが有利なことに変わりはない。だが、二人が協力してくれればできることもある。



「今のところはという注釈が付くが、まだやられちゃいない」


「あれが中ボスか?」


「やだ。あれじゃあただの痴女じゃない」



 ゴブリンクイーンの姿を改めて確認した両者の反応は当然で、レイラに至っては整った顔立ちを歪ませるほどの嫌悪感が浮かんでいた。男であるハヤトは幾分かましな様子だったが、それでも鼻の下を伸ばすような姿を見せないのは流石イケメンと心の中で突っ込んだことは俺だけの秘密だ。



 俺は二人に残りのゴブリンクイーンの体力は半分で、現状本気モードが発動していることを伝え、情報の共有をする。二人もあまり余裕のない状態に陥っていることに気を引き締めたようで、真剣な表情となる。



「二人とも、何か策はあるか?」


「難しいな。お前でも捉えられない相手となると、俺やレイラでも攻撃を当てるどころの話じゃないぞ」


「そうね。せめて何か攻略の糸口となるものがないと……」



 俺もダメもとで聞いた部分があるため、最初から期待していたわけではないが、二人の返答はいいものではなかった。



 どうしたものかと悩んでいたその時、その隙を狙ったかのようにゴブリンクイーンが突撃してきた。さすがにモンスターといえど、俺たちの作戦会議を待ってくれるほど生易しい相手ではない。



「死になさい!」


「クエェ―」


「ぐぼっ」



 間一髪というところで、クーコがゴブリンクイーンの隙を突く形で蹴りが決まる。それはカウンターとなってゴブリンクイーンに襲い掛かり、その体ごと壁へと激突する。その衝撃は凄まじく、半分ほどの体力を三割も削り、残りの体力は二割となってしまっていた。



「これは……。おい、クーコ。ちょっとこっちにこい」


「クエッ」



 俺の呼びかけに羽を器用に使って敬礼をするといういつものポーズを取りながら、俺の指示に従い近寄ってくる。先ほどのクーコの攻撃を見て、俺はある一つの可能性に辿り着いたのだ。



「クーコ。お前、あいつが攻撃する瞬間、どこから攻撃を繰り出すかわかるのか?」


「クエ? クエ」



 俺の問いにクーコは首を縦に振る。つまり、クーコは本気モードになったゴブリンクイーンの攻撃速度に追いつくことはできないが、最終的にどこから攻撃してくるのかは見えるらしい。



 どれほど攻撃が速くとも、最終的にどこから攻撃を繰り出して来るのかがわかれば、あとはそのタイミングを狙ってカウンター攻撃をやればいい。俺はそう結論付けた。



「なるほど、となるとチャンスは一回の一発勝負になるな」


「そうね。方針が決まったなら、さっそく行動に移しましょ!」



 二人にも作戦を伝えると、あっさりと了承してくれた。作戦内容は、俺とハヤトとレイラの三人が囮となり、ゴブリンクイーンを挑発する。挑発に乗って攻撃してきたゴブリンクイーンの攻撃タイミングを狙い、クーコが止めを刺すというものだった。



 できることならば、プレイヤーとしてゲーム内のNPCキャラに勝敗の命運を託すのはいかがなものかとも考えたが、このあとの戦いを考えればそうも言っていられないため、ここはクーコに任せることにしたのだが……。



「ぐぎゃああああああああ」


「……終わってしまった。こうもあっさりと」



 元々そういう攻略法だったのか、それともクーコの能力が高かったのかはわからないが、作戦は見事に嵌りゴブリンクイーンはあっさりとお亡くなりになる。



 しかし、一難去ってまた一難とはよく言ったもので、ここで死に際にゴブリンクイーンが意味深な台詞を口にする。



「あたしが死んだところで、あの方には勝てないわよ。圧倒的な力を持ったあのお方。このあたしが唯一王と認めた存在ゴブリンエンペラーにはね」



 ゴブリンクイーンがそう言うと、ポリゴンとなって消滅していく。リザルトにはしっかりと“ゴブリンクイーンを倒した”と表示され、ミッションが達成された旨も記載されていた。



 これで、ベロナ大空洞の外にいるジャイアントパワーゴブリンにダメージが通るはずだ。そう思い、俺たちが洞窟内を後にしようとしたところ、更なる事態の急変が巻き起こった。

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