第129話



 【ゴブリンクイーン】 レベル??



 HP  ???

 MP  ???

 STR  ???

 VIT  ???

 AGI  ???

 DEX  ???

 INT  ???

 MND  ???

 LUK  ???




 映し出された情報に、俺は思わず眉を顰める。これでは、名前以外何の情報も得られないではないかと頭を悩ませるばかりだ。



 そんな俺の心境などお構いなしとばかりに、ゴブリンクイーンが俺の問い掛けを肯定して話を続けてくる。



「そうよ。あたしは、ゴブリンの女王。こんなところに人間が迷い込んでくるとは思わなかったけれど、暇つぶしにちょうどいいわ~。たまには、異種族の雄の相手をするのも悪くはないでしょうし」



 そう言いつつ、ゴブリンクイーンは俺に向かって挑発するかのように己の身体をしならせる。その体つきは艶めかしく、異世界のGと表現されるほどに生命力と生殖能力に長けていることを物語っており、はっきり言って目のやり場に困っている。



 その姿は一糸纏わぬ全裸の状態で、さすがに未成年がプレイするゲームであるため、局部などの詳細な表現は描写されてはいない。だが、それが返ってエロ要素を高めている要因となっており、肌が緑色であることと尖がった耳に牙があること以外はただの全裸の姉ちゃんにしか見えない。



「おい、何か服を着たらどうだ? そんな恰好で戦うつもりなのか?」


「何を言っているのかしら? ああ、そういえば人間は服というまどろっこしいものを着る生き物だったわねぇ~。あんなもの、子作りする時に邪魔になるだけじゃない。それに、隠さなきゃならないほど、あたしの身体は貧相じゃないわ~」


「……」



 俺の指摘にごもっともな回答を口にしながら、さらに艶めかしいポーズを取る。その姿は、さながらグラビアアイドルも顔負けといったくらいに似合っており、まさにセ〇クスシンボルという言葉が相応しい。



 しかしながら、こちらとしては物凄くやりにくい相手である。いくらモンスターとはいえ、これだけ流暢にコミュニケーションが取れ、さらには見た目もほとんど人間と変わらないことを考えれば、人によっては欲情しても無理はないほどである。



 だが、今まで出会ってきたプレイヤーやNPCの中にもこういったタイプがいなかったわけではない。ルインとかアキラとかおっぱいオバケとか……。



 それに、時は一刻を争う。ここまでくるのにすでに十分ほどを使ってしまっている以上、残されたミッション達成までの猶予は二十分を切っている。



「とにかく、こちらも悠長に話している暇はない。悪いが倒させてもらおう」


「できるものならやって御覧なさい」


「なら、そうさせてもらう。くらえ、【地竜斬】!」



 舌戦もそこそこに、先手必勝とばかりにクーコに騎乗したまま攻撃を仕掛ける。だが、その攻撃がゴブリンクイーンに届く前に、ヒョイと軽く躱してしまう。その体つきからしなやかな動きをすることは予想していたが、まさかいとも簡単に躱されたことに少なくない驚愕を覚える。



 挨拶代わりの攻撃を躱し、それに気をよくしたのか、こちらを挑発するように独特のステップを踏みながら煽ってくる。



「あらあら、そんな攻撃があたしに通用すると思ったのかしら~?」


「ならば、これはどうだ。【ファイヤー】、【アイス】、【サンダー】」


「ふっ、はっ、それっ。あはははは、当たらなーい、当たらなーい」



 今度は連射性の高さを活かし、魔法を連打する。だが、身軽さに自信を持っているのか、焦ることなくこれも軽々と躱してしまう。



 元々、全裸であるからして重量のある装備を身に着けているわけでもなく、モンスターである以上、人間以上の身体能力を保持しているのは言うまでもない。



 ゴブリンクイーンが攻撃を避ける度に彼女の持つ双丘がぶるりと揺れ動き、均整の取れたくびれた腰と臀部と相まってまるでダンサーのような軽快な動きを見せる。



 見た目はエロいが、実際に戦うとなるとここまで厄介な相手はいない。特に、時間制限がある今回の戦いにおいては、とても嫌な相手だろう。



「【フレイムバレット】、【アイシクルバレット】、【エレキバレット】」


「はっ、ふっ、くっ」



 魔法の中でも範囲攻撃に特化したバレット系を打ち込んだが、そのほとんどを躱されてしまう。しかし、全弾回避というわけにはいかず、いくらかは被弾している。



 ダメージはそれほどでもなく、体力ゲージの極々僅かな分を削った程度に留まったが、一応でもダメージを与えられたことに内心で安堵する。さすがに、ここから「この子も無敵状態だから、それを解除してダメージを与えなさい」というギミックを持ってこられたら完全に詰むからな。



 俺の攻撃によってダメージを与えられたことで、ようやく俺に対する警戒が出たのか、ゴブリンクイーンの目つきが鋭いものに変わる。どれだけ見た目が人間に近かろうともモンスターであることに変わりはなく、牙を剥き出しにした醜悪な表情へと変貌する。



「少しはやるみたいね。なら、今度はあたしから行かせてもらうわ」


「こい」



 そう言うと、俺はクーコから飛び降りて剣を抜き放つ。それを待たずに、十数メートルの距離を僅かな時間で縮め、俺に接近する。剣の間合いに飛び込んできたゴブリンクイーンを、袈裟斬り、横薙ぎ、振り下ろしなど基本的な剣術の型で迎え撃つ。



 しかし、遠距離攻撃を仕掛けた時からわかっていたことだが、そのスピードはかなりのもので、こちらの動きを見てから躱しているように見える。パラメータが見えないため、具体的にはわからないが、AGIは確実に俺よりも上だろう。



 俺の攻撃の速度にも慣れたのか、再び余裕の笑みを顔に張り付けた状態で、攻撃の打ち終わりを狙って攻撃をくらう。だが、素早い攻撃であるものの、攻撃力自体はそれほど大したことはなく全体の一割程度といったところである。



 それでも、どんな攻撃であろうと受け続ければ致命傷となるため、こまめに回復が必要なのだが、そこで頼りになったのが相棒のクーコである。



「クエ!」


「サンキューな」



 俺がダメージを受けると、即座に回復魔法を使って回復してくれる。それは有難いことなのだが、その対応力は尋常ではなく、後になるにつれて俺がダメージを受けるタイミングの直後に合わせて使ってくるようになっていた。



 どういうことかといえば、そのタイミングで回復魔法が使えるというということは、すなわち俺が攻撃を受けるまでじっと待っており、被弾するタイミングと回復魔法を使うタイミングを完璧にこなさなければならないということだ。



 これを行うためには、俺の動きと攻撃を仕掛けてくる相手の動きを完璧に捕捉する必要があり、それがどれだけの高等技術であるかは聞いただけでも想像に難くない。



「ちょっと待て」


「なにかしら? 今更命乞いでもするつもり?」


「いや違う。今までの戦いの中で気になったことが出てきたから確認させてくれ。クーコ。まさかとは思うが、回復魔法のタイミングは狙ってやってるのか?」


「クエ? クエクエ」



 思わず戦っているゴブリンクイーンに待ったを掛けてクーコに問い詰めると、首を傾げながらも頷いた。それを確認すると、俺はさらに追及する。



「ということは、あいつの動きが見えてるんだな?」


「クエ」


「クエじゃねぇよ! なら、なんで攻撃しないんだ!!」


「クエ。クエクエクエクエー」



 それから、いろいろと問い詰めた結果、結論としては“俺の見せ場を奪いたくはなかったから、サポートに徹してくれていた”らしい。



 元々、クーコには俺にできないことをやってもらうサポート要員として一緒に戦っているが、だからといって本来の役割を無視して戦ってはいけないというわけではない。



 特に、今回は時間制限という縛りもあるため、短期決戦での勝敗が望ましい。だというのに、この鳥は俺のためとはいえ戦いに手を抜いていたことになる。



「いいかクーコ。今は一分一秒も時間が惜しい状況なんだ。そんな下らないことで、今回のミッションが失敗したらどうするんだ?」


「クエ……」



 どうやら、俺の言わんとしていることを理解してくれた様子で、途端にしょぼくれたように顔を俯かせる。とにかく、思わぬ行き違いが生じたが、ゴブリンクイーンの動きを捉えるのであれば、この際俺だろうがクーコだろうがどちらでも構わない。



「もういいかしら?」


「ああ、悪かった。クーコ。ここからはお前も攻撃に参加しろ。お前の力をあいつに見せてやれ」


「クエッ!」



 話が終わったタイミングでゴブリンクイーンが問い掛けてきたので、待たせたことを素直に謝罪し、戦いを再開したのだが、このあと事態は思わぬ方向へと進んで行くのだった。

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