第128話



「グギャ」


「ギッ」


「ゴブァ」


「どけどけどけどけどけぇーい! ジューゴフォレスト様のお通りだぁー!!」



 ベロナ大空洞を目指し、俺はひたすらに突き進む。立ち塞がってくるゴブリンたちだが、俺の前では無力に等しく、鎧袖一触の名の下に剣の錆となっている。



 気分が高揚しているせいなのか、このフィールドの雰囲気に呑まれてしまっているのかは定かではないが、多少気が強くなっているかもしれないが、それはご愛敬である。



「なあ、あれって中ボスクラスの敵だったよな?」


「ああ、間違いない」


「俺たちが苦労してやっと倒した相手を一撃とか……」



 通り過ぎていく間もプレイヤーたちの声が聞こえてくるが、今はそんなものに構っている時間などはない。あのデカブツに一発ぶち込むためには、何かを攻略しなければならないのだ。そう、すべてはあいつに一発お見舞いするためである。



 そうこうしているうちに、ベロナ大空洞の入り口が見えてくる。ゴブリンたちも、本能的にそこが大事な拠点であると理解しているのかはわからないが、拙いながらもある程度の陣形を形成している。



 形成といっても、何かしらの軍略的なものではなく、ベロナ大空洞の出入り口周辺にたむろしているといった表現が適当であり、詰まるところ電灯に群がる蛾のようなイメージだ。



「うーん、邪魔だな」


「クエ」



 俺の言葉に同意するようにクーコが鳴く。できれば、いざという時のためにMPは温存しておきたいところだが、目的の場所へと到着する前に力尽きては本末転倒なため、ここはある程度の戦力を割かねばなるまい。



「てことで、お亡くなりやがれください! 【サイクロン】、【ファイヤーストーム】、【エレキストーム】、【ラヴァウェーブ】」



 ここぞとばかりに温存してきた魔法を連発する。その光景は、一言で評するのならば地獄絵図だ。



 サイクロンによって巻き上げられたと思ったら、そこへ灼熱の炎が襲い掛かり、そして雷撃の衝撃によって地面へと叩きつけられたところに止めとばかりに溶岩の津波が押し寄せる。はっきり言ってしまえば、オーバーキル以外の何物でもない。



 当然そんな怒涛の攻撃をくらって無事でいる存在がいるはずもなく、ベロナ大空洞入り口周辺にたむろしていたゴブリンたちが綺麗さっぱりと一掃された。



「よし、綺麗に片付いたな」


「ク、クエェ……」



 満足気に頷く俺を乗せたクーコだったが、そのこれにはどこか呆れを含んだ感情が見えており、差し詰め「や、やりすぎだ……」とでも言いたげな様子だ。



 近くにいるプレイヤーも口をあんぐりと開け、こちらを呆然と視線を向けてきていたが、俺の取った行動に突っ込む様子もなかった。何も言われなけば、それは即ち俺の行動を承認したことと同義である。……文句は受け付けない。



 後から、レイラやおっぱいオバケ辺りが何か言ってきそうだが、それよりも今は問題解決のために動くことが先決。細かいことはどうでもいいのである。



「おっしゃ、これで大空洞に入れるぞ。行けクーコ」


「クエ」



 俺はクーコに指示を出し、手薄となっているベロナ大空洞へと突撃する。すると、すぐにイベントが発生する。



『特定条件【プレイヤーによるベロナ大空洞の侵入】を確認しました。これより、フェイズ2へと移行します』



 俺の睨んだ通り、ベロナ大空洞へと入った瞬間、ウインドウにメッセージが表示され、イベントが進んだことを確認する。だが、当然それだけではなく、こんなメッセージが続いた。



『ベロナ大空洞内でゴブリンクイーンの出現を確認。直ちに撃破せよ。撃破リミットは三十分。撃破成功:ジャイアントパワーゴブリンの大幅な弱体化及びゴブリンの出現率低下。撃破失敗:ジャイアントパワーゴブリンのステータス上昇並びにゴブリンの出現率上昇』



 なるほど、いかにもなミッションらしい内容が表示されたが、冷静になって考えてみると、なかなかに厳しい条件と言える。



 現状、ジャイアントパワーゴブリンにダメージは通らず、逆にジャイアントパワーゴブリンの攻撃はプレイヤーに大ダメージを与える状況だ。奴の攻撃自体は、軌道を見極めれば回避できないほど素早い攻撃ではなく回避は比較的容易い。だが、周囲の雑魚ゴブリンや、たまに混じって骨のある上位ゴブリンがいることを思えば、奴らの動きに注意を払いながらジャイアントパワーゴブリンの攻撃にも集中しなければならない状況というのは並のプレイヤーでは難易度は高いと言わざるを得ない。



 それでも、上位のプレイヤーたちであれば問題なく対処はできるのだが、それでも足止め程度の立ち回りが限度であり、どちらにしてもこの状況をひっくり返すほどの一手が欲しいのだ。



 それが、先ほどのミッションであるが、ジャイアントパワーゴブリンを押さえつつ同時展開でゴブリンクイーンの方にも戦力を割かなければならないとなれば、少数精鋭での短期決戦がベターである。そこで俺の出番というわけだ。



 三体のジャイアントパワーゴブリンのうちの二体は、ハヤトとレイラに付いて行ったプレイヤーたちが何とか押さえ込んでくれるだろう。俺が受け持っていた残り一体についてもルインとアキラたちがいるのでまったく問題はない。二人は俺に付いてきたがっていたが、状況的にはジャイアントパワーゴブリンを抑える方に戦力を振り分けなければならないため、仮に連れて行ける状況だったとしても、彼女らには残ってもらうことになっただろう。



「それじゃあ、あんまり時間もないみたいだし、さくっと片付けるとするか」


「クエ」



 そう呟くと、俺はクーコと共にベロナ大空洞内の探索を開始する。洞窟内は大空洞という名称が付いているだけあってかなりの広さがあり、クーコに騎乗していても問題なく進むことができるようだ。



 寧ろ、騎乗モンスターであるクーコを持っていたお陰で邪魔をしてくるゴブリンどもと対峙する手間が省け、あれよあれよという間に、洞窟内の奥へと突き進んでいく。



 後からハヤトたちと合流する予定だが、時間的にもあまりゆっくりとしていられないため、雑魚掃除は彼らに頑張ってもらおう。ってか、それくらい自分の面倒を見てくれ。



 などと、心の中でハヤトたちに叱咤激励をしていると、洞窟内でも一際広い場所へとやってくる。雰囲気的にも、そこがゴブリンクイーンとの戦いの場であることは明白であり、実際俺の目にあるモンスターの姿が飛び込んできた。



「あら~ん、こんなところに人間がいるなんてラッキーだわ~。わたしと遊びたかったのかしら~?」


「お前がゴブリンクイーンか?」



 そう言いつつも、鑑定を使って目の前のモンスターを調べる。すると、やはりというべきか、表示された情報は俺の予想したものであった。

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