第125話
「邪魔だ!」
「俺たちの敵じゃねえぜ!!」
「そこをどきなさい!!」
「よし来い! 俺を死に戻らせてくれ!!」
「やめんか、馬鹿者!!」
「ニコルソン殿、まだ死に戻っちゃダメでござるよ!!」
「止めてくれるな、友よ! 男には負けるとわかっていてもやらねばならない時が――」
「「その言葉は聞き飽きたぞ(でござるよ)!!」」
“疾風怒濤”という言葉が似合う光景が目の前に広がっている。
眼前に立ち塞がる緑色の肌をしたモンスターを、プレイヤー達が切り伏せていく。それが一匹であればなんということはないのだろうが、それが数十万となれば話は違ってくるだろう。
視界の先に、まるでこの戦場を支配する王者のように君臨する三つの巨大なモンスターに肉薄するべく、襲ってくる雑魚を相手にしながら進行する。
まあ、一部のプレイヤーは何か別の目的のために忙しいようだが、それはそれとして俺を含めた全てのプレイヤーが一つの目的のために一致団結する。
先ほど“襲ってくる雑魚”と呼称したが、通常のゴブリンはほとんど一掃され、残っているのは上位種である個体ばかりだ。
ハイゴブリン・ゴブリンウォーリアー・ゴブリンメイジ・ゴブリンナイトなどの上位個体のゴブリンたちと戦いながら、徐々に巨大なゴブリンとの距離が縮んでいく。
「クーコ、あんまり先行しすぎるなよ。囲まれてタコ殴りされたくはないからな」
「クエ!」
今のところ巨大ゴブリンは動きを見せていないため、プレイヤーたちは襲ってくるゴブリンを相手にしている。
先に周囲にいる雑魚を一掃しておくことで、ボスに専念できるというのが我々プレイヤー側の総意でもあった。
しばらく雑魚を掃除していると、ただ突っ立っていた巨大ゴブリンが突如として動き始めた。
どうやら、動き出すためのトリガーのスイッチが入ったらしい。
「全軍周囲の敵を掃討しつつ、巨大ゴブリンに備え迎撃態勢を取れ!」
すべてのプレイヤーが俺の指示に従い、進撃の足を止め来たる敵に備える。
その間にも、巨大ゴブリンとの距離が確実に縮んでいく。
五メートルを優に超える巨体の一歩は、鈍重ではあるもののその一歩の移動距離が大きいために進行速度は意外に速い。
雑魚を相手にしている間に巨大ゴブリンとの距離が数十メートルと迫った時、レイラが率いる左翼の集団から弓矢による遠距離攻撃が開始された。
それとほぼ同時期、ハヤトが率いる集団からも魔法による広範囲攻撃が始まり、熾烈を極める戦いが始まった。
これはマズい、左翼と右翼の連中に先を越されてしまった……。
「こちらも遠距離攻撃を行う。弓を使える奴は弓の用意を、魔法で攻撃ができる奴は弓を放った後に攻撃をしろ。まずは弓だ。構えろ」
俺の指示通り、俺の受け持つプレイヤーたちが弓を番える。全員が番えたのを確認後、俺の合図で一斉に矢が放たれる。
数千本という規模の矢の弾幕がゴブリンたちに降り注ぎ、その命を散らしていく。しかしながら、巨大ゴブリンは表情一つ変えず鬱陶しいとばかりに、手を顔の前に持ってきて矢を防ぐ。
顔以外に命中した矢もあったが大したダメージを与えておらず、まるで“蚊がいるなぁ”といった程度のものとしか捉えられていないようだ。
矢がダメなのであれば、こいつはどうだ。
「次は魔法での攻撃だ。威力よりも広範囲にダメージを与える魔法を優先しろ!」
俺の号令を皮切りに様々な魔法が放たれる。俺もそれに便乗するように広範囲に影響を与える魔法を使用する。
プレイヤーたちの手によって放たれた魔法は、周囲のゴブリンの数を確実に減らしてはいるものの肝心の巨大ゴブリンに目立った変化は見られない。
どうやら、威力の弱い遠距離攻撃ではダメージを与えられないらしい。となってくれば、次に打てる手は一つだろう。
「全軍抜刀! ここから近距離戦だ」
待っていましたとばかりに、全てのプレイヤーたちが自分の得物を抜き放つ。中には剣以外の武器を持っている者もいたが、細かいことはどうでもいい。
「全軍、突撃!!」
俺の言葉と同時に、俺の受け持つ中央のプレイヤーたちが巨大ゴブリンに向け突貫する。だがしかし、その突撃は遮られる事になった。
「ゴォオオオオオオオオオ!!」
突如として、周辺一帯に大音量の雄叫びが響き渡る。その声の主は言わずもがな巨大ゴブリンであった。
その轟音ともいうべき咆哮は大地を揺るがし、鼓膜が割けるのではないかと思うほどの激痛が伝わってくる。
我々プレイヤーにとって幸いだったのは、咆哮を上げているのが三体の巨大ゴブリンのうちの一体だけだったということだろう。
仮に他の二体までもが咆哮していれば、もっと深刻なダメージを負っていたことが容易に想像できるほどの状況を作り出していた。
だが、一つだけ言っておくことがある。
この場に俺という存在がいて、これ以上好き勝手を許すはずがないということだ。
「うるさいんじゃあーーーーー!! 【地竜斬】!!」
下から上へと払い上げる動作と共に、斬撃が放たれる。読んで字の如く、まるで地を這うような斬撃が巨大ゴブリンに一直線に向かってゆく。瞬く間に巨大ゴブリンへと到達した斬撃は、奴の右腕から肩に掛けて這い上がっていき、損傷を与える。
「グォォオオオオオオオオオ!!」
突如として自分がダメージを負ったことに、驚愕と苦痛の入り混じったような声が響き渡る。それを受けて、俺はあからさまに舌打ちをしながら吐き捨てた。
「ちぃ、なかなかに頑丈な体じゃないか。右腕一本斬り飛ばすつもりだったんだがな……仕方がない」
巨大ゴブリンに起きた出来事に周囲のプレイヤーたちが困惑する中、俺はプレイヤーに接近戦に入る指示を出す。
いきなりの事態に困惑していたプレイヤーたちも、その原因を作ったのが俺だと理解すると「さすがはジューゴ・フォレスト」だの「トッププレイヤーは桁が違うぜ」だのという言葉を宣いながら俺の指示に従う。
(まったく、何がトッププレイヤーだ。こっちはまったりのんびりプレイが信条の一般プレイヤーだっつうの)
彼らの言葉に内心でそう反論しながらも、すでにまったりのんびりとはかけ離れているプレイスタイルになってしまっていることに全力で目を逸らしつつ、プレイヤーの進軍速度に合わせてクーコを走らせる。
進軍の邪魔をしてくるゴブリンたちを掃討しつつ、巨大ゴブリンに接近したことでついに奴の正体が露見する。
【ジャイアントパワーゴブリン】 レベル??
HP ???
MP ???
STR ???
VIT ???
AGI ???
DEX ???
INT ???
MND ???
LUK ???
詳細は名前以外わからないが、これだけの巨体ならSTRは相当高いはずだ。その他にも、移動速度から鑑みてAGIが低いのは明白だし、俺の地竜斬を耐えたことからHPもVITも相当高いだろう。
「まあ、考えてても仕方ない。とりあえず……殴るか」
現実世界で絶対に言わないことを言いつつ、俺は剣を持つ手に力を込めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます