第124話



「クーコ、一旦ハヤトたちがいる本隊に合流するぞ」


「クエ」



 ルインのことをアキラに押し付け……もとい、任せたあと一度本隊に戻ることにした。



 少しはやる気持ちが出てしまい、俺が先行する形で本隊とかなり距離を空けてしまった。……これが若さか? いや違うか。



 とにかく一度ハヤトたちと合流し、今後の行動方針のすり合わせを行っておくべきだと判断したため本隊のいる場所へと赴く。



 すでにゴブリン軍の本隊とハヤトたちがいるプレイヤーとの間で戦端が開かれており、そこら中で戦いが繰り広げられていた。



 そんな中向かってくるゴブリンたちを蹴散らしつつ、最も激しい戦いをしていると思われる最前線へとたどり着くと、苦戦を強いられているハヤトたちの姿があった。



「くっ、こいつなんて強さなんだ」


「あたしたちの攻撃を受けても平気な顔をしているなんて、化け物じゃないの」



 ハヤトとレイラが戦っていたのは、周囲にいる取り巻きのゴブリンよりも二回りは大きい体躯を持つゴブリンであった。



 詳しく調べてみると、名前は【ゴブリンナイト・コマンダー】と表記されていた。周囲のゴブリンたちを見回してみたが、同じ名前を持った個体が存在していなかったため、ゴブリンの中でもかなり上位に位置するボス的な存在であると当たりをつけた。



 二メートル半の巨体にそれに見合う巨大な大剣を持っており、他のゴブリンたちと比較してみても明らかに威圧感が数倍もある。そして何よりも、その瞳には醜悪な感情が宿っており、他のゴブリンよりも知性に優れているのが見て取れた。



 巨体を持ち強力な武器を携え、尚且つ油断ならないほどの知性を兼ね備えた悪しき存在がプレイヤーたちの前に立ちふさがっていたのだ。



 尤も、それはあくまでも他のプレイヤーであればの話なのだがね……。



「……邪魔」


「ギャッ」



 ハヤトたちがいる最前線へと到着した俺は、彼らの前に立ちふさがるゴブリンナイト・コマンダーに対し、無慈悲にも似た一撃を加える。



 その攻撃は圧倒的であり、ゴブリンナイト・コマンダーの腰に目掛けて放たれた剣の一閃により奴の上半身と下半身が分断される。それはまさしく“一撃必殺”の様相を呈し、その攻撃を放った張本人である俺ですら驚愕するほどだった。



 当然ながら、そんな状態で生きていられる生物はほとんどおらず、何が起こったかも理解できないままゴブリンナイト・コマンダーは光の粒子となって消滅した。



「なんだ、意外と弱いじゃないか」


『いやいやいやいやいやいや!!!!!』



 俺が何の気なしに呟いた一言を拾った周囲のプレイヤーたちが、一斉に声を揃えて抗議の声を上げる。



 この時の俺は気付いていなかったが、現在トッププレイヤーと言われているハヤトやレイラたちの職業レベルは40前後と俺と同じくらいにまで差を縮めていた。



 しかしながら、それは彼らが持っているメインの職業のみという限定的なものでしかなく、補助的な意味で取得している他の職業に関して言えば精々三十代前半のレベルしかない。



 それに加え、俺の場合前回の公式イベントである【冒険者たちの武闘会】で手に入れた職業書というアイテムによって、他のプレイヤーよりも取得している職業の数が一つか二つほど多くなっているため、最終的なステータスが比べ物にならないほど高くなっていることも他のプレイヤーたちの追随を許さない要因にもなっていた。



 とどのつまり、現時点において俺は今この場にいるプレイヤーの中で最強であるというのがすべてのプレイヤーたちの認識であった。……誠に以って、遺憾であるがな。



「とりあえずハヤト、レイラ、まずは雑魚を片付けるぞ」


「……いろいろと言いたいことはあるが、了解した」


「いきなり戻ってきて命令なんていい度胸だけど、今はそんなこと言ってる場合じゃなさそうね」



 俺の指示に従いハヤトとレイラ、そして周辺のプレイヤーたちが下位種であるゴブリンたちの掃討に勤しむ。ゴブリンとプレイヤーの実力差は明白で、瞬く間にゴブリンの数が激減していく。



 17万という圧倒的な数ではあるものの、こちらの総数は20万と数の上でも優位な上に個人の実力もプレイヤーであるこちら側に分がある。



 弱い者いじめという名の蹂躙劇が続くこと数十分後、ゴブリンの総数が10万を切ろうとしたその時、事態が急変する。



「おい、ジューゴ、あれを見ろ!」


「うん? あれは……なんだ?」


「かなりの大きさね、ここからあそこまで2、3キロは離れているのに」



 俺とハヤトとレイラの目に飛び込んできたのは、ベロナ大空洞の巨大な入り口から出てくる3つの巨大な影だった。



 見た目は通常のゴブリンと変わらず、緑の肌に醜悪な顔をしているのがなんとなく見て取れるのだが、問題なのはその体の大きさだ。



 今いる場所から見てもその巨体がわかるほどの大きさをしている3体のゴブリンは目算ではあるが優に五メートルを超えている。



 見たところ武器は何も持ってはいないものの、それはただ単にその巨体に見合う武器がないということなのだろう。それだけ今しがた現れたゴブリンは巨大だった。



「どど、どうするのよ!? あんなのと正面切って戦うのなんて御免よ!」


「じゃあ、このまま逃げるってのかよ! それこそ御免だろうが!!」



 圧倒的な存在を前にしたハヤトとレイラがお互いの意見をぶつけ合う。それだけの威圧感が巨大ゴブリンにはあった。



(ふっ、運営もなかなか面白いものを用意してくれるじゃないか。まあ、どんなやつだろうとやることは一つだがな)



 狼狽える二人とは打って変わって、意外と冷静に俺は目の前の光景を眺めていた。



 勝てるかどうかという感情よりも先に出てきたのが“面白い”という感想だったことを内心で苦笑しつつ、次の一手に出た。



「ハヤトとレイラは左右の一匹ずつを担当してくれ、俺は真正面の奴を潰す」


「「はぁ!?」」



 俺の提案に驚愕の声を上げる二人であったが、そんなこともお構いなしと二人に発破を掛ける。



「じゃあそういうことで、誰が一番先にあれを倒すか競争な」


「まったく、お前という奴は」


「この状況でそんなことが言えるなんて、どうかしてるわね」



 戸惑いつつも俺の提示した案に頷く二人。どうやら俺の判断が最善だということを理解したらしい。



 状況的に言って、今向かってきている3体の巨大ゴブリンはギミックの一種である可能性が高い。というのも、今回のクエストにおいてクエスト詳細画面においてゴブリン軍の総数が表示されており、残りのゴブリンの詳しい数を確認することができる仕様となっている。



 その残りの総数が10万を切ったとほぼ同時刻で巨大ゴブリンが現れたことから、あのゴブリンたちはプレイヤー側の総数を減らすための役割があるのだという結果に至った。



 ……なに? たまたま可能性もあるって? そのときは知らん!!



 兎にも角にも、最初の難関であろう3体の巨大ゴブリン攻略に向け、俺たちは進撃を開始した。 

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