第116話
「さて、これからどうっすかなー」
「クエー」
工房を後にしたジューゴは、腕を組みながら物思いに耽る。
息抜きであるクッキングタイムが終わったことで、次に何をやるべきか迷っていたのだ。
「またレベル上げをやるのもいいけど、それじゃあ味気ないしなぁー」
「おい、そこの貴様」
この数日間ひたすらにレベル上げに専念したジューゴだったため、来たるゴブリン軍との戦いに向けてやっておくべきことは無いのかと思考を巡らす。
「レベル上げとは違うけど、新しく獲得したスキルや魔法の試し打ちでもするか?」
「おい! 俺の声が聞こえないのか!?」
先ほどから誰かが声を掛けているのが聞こえるが、あんな上からな態度の人間に声を掛けられる人は不幸だなとジューゴは内心で思いながら、次に何をすべきか考え続ける。
「貴様ぁ! いい加減にしろぉぉおおお!?」
「うん?」
ジューゴが考え続けていると、不意に肩に手を置かれそのまま強制的に後ろに振り向かされてしまった。
そこにいたのは、十代後半とみられる金髪碧眼の精悍な顔立ちをした青年で、その表情には憤りの感情が見て取れた。
(うるさい奴がいると思ったら、俺に話しかけてたのかよ……面倒臭っ!)
このまま無視して行きたかったが、それだと余計に面倒な事になりそうな予感がしたため、遺憾ではあるがジューゴは彼の相手をすることにした。
「俺に何か用か?」
「貴様、ジューゴ・フォレストだな?」
「だったらなんだ?」
この状況でとぼけても無駄だと悟ったジューゴは素直に自分から肯定する。
それを聞いた彼は口の端を吊り上げ、ニヤリと笑いながら宣言した。
「喜ぶがいい、この未来の大企業の社長である俺、トウヤのパーティーに入れてやろうというのだ。感謝しろ」
「はぁ?」
ジューゴからしたら「なんのこっちゃそれ?」というのが正直な感想だった。
まずどこの誰とも知らない人間が、いきなり自分の肩を掴み強制的に振り向かせてきたばかりか、あまつさえ上から目線でパーティーに入れてやるということを宣ってきたのだ。
ジューゴは内心で盛大なため息を吐きつつもこういう奴ははっきり物を言わないと通じないと理解したため、彼は明確に言い放った。
「なんでお前なんかのパーティーに入らなくちゃならないんだ? 寝言は寝てから言え」
「なっ!?」
ジューゴの口からそんな返答があるとは予想していなかったのか、彼の言葉に目を見開き驚愕の表情を浮かべるトウヤ。
そんな彼の事など歯牙にもかけないといった様子で、ジューゴはそのままその場を後にした。
去り際に後ろからその男の知り合いであろう男が「だからやめておきましょうって言ったじゃないですかぁ~」という声が聞こえてきたが、ジューゴは気にせず歩を進めた。
「やっぱり、新しい能力は確認しておくべきだろうし、ここはレベル上げも兼ねた新たな能力の確認が優先かな?」
さらに街中を歩き続けていたジューゴは、悩み続けていた。
ジューゴはどちらかと言えば優柔不断な人間ではないのだが、すべきことが多すぎて優先順位を決めかねているのだ。
「ちょっと、そこのあなたお待ちなさいよっ」
「うーん、親方んとこでクーコの防具を作るのも選択肢としてはあったか……それもできたらやりたいところだよな」
「ちょっと、わたしの言葉が理解できないのかしら? 止まりなさいと言っているでしょう!!」
「うん?」
なんだか先ほど似た状況に出くわしたのでもしかしたらと思い振り返ってみると、腕を組みながらこちらを見ている少女がいた。
年の頃は十代半ばくらいの中学生で先ほど声を掛けてきた男と同じ金髪碧眼なのだが、違う点があるとすれば髪型がツインテールだということだろう。
「俺に何か用か?」
「あなたジューゴ・フォレストよね?」
「だったらなんだ?」
「喜びなさい、大企業の令嬢であるこのアヤカ様のパーティーに入れてあげるのよ。感謝しなさい」
ジューゴは「またこのパターンか?」と内心で呆れながらも、先ほどの男と同じように自分の意思をはっきり伝えた。
「悪いが俺はどこのパーティーにも所属するつもりはない、それとパーティーメンバーを募集しているなら、もう少し誘い方に気を付けた方がいいぞ?」
「なっ、なんですって!?」
言うべきことを言い終えたジューゴはそのまま彼女から離れていった。
そして、今回も同じく彼女の知り合いが「残念でしたね、まあ彼がいなくても私がアヤカ様をお守りします」などと聞こえてきたが、ジューゴには関係のない話のためその場を後にする。
「それにしても今回はやけに人に絡まれるな、どうなってんだ?」
「うわぁ!」
そんな疑問をいだきながら歩いていると、今度は人とぶつかってしまった。
今回は完全によそ見をしていたジューゴに非があるため彼の方から声を掛けた。
「すまん、よそ見をしていた。大丈夫か?」
「は、はいこっちは大丈夫ですけど、あなたの……ほう……は?」
そう言いながら、転んだ相手がジューゴの方を見ると徐々に言葉が途切れていきついには固まってしまった。
何か起きたのだろうかとジューゴが近づいていくと、それに気づいた相手が瞬時にジューゴと距離を取った。
「な、なな、なんであなたがここにいるんですか!?」
「うん? お前俺の事を知っているのか?」
ジューゴの事を知っている相手は見た目は少女だった。
年の頃は先ほどまでいたアヤカという少女と同じ年代くらいであり、髪も同じ金髪碧眼だったが、今目の前にいる少女はうなじまで掛かる程度の髪の長さしかない。
髪型はショートボブで、顔つきは女性とも男性とも取れそうな中性的な整った顔をしていた。
「も、もちろんですよ! このFAOでジューゴ・フォレストさんを知らない人なんていませんよ」
「そうか?」
「初めまして、僕はキズナっていいます」
「僕? お前男か?」
「そ、そうですけど……」
それを聞いたジューゴは、少し驚いた。
明らかにそこにいるのは可愛らしい少女にしか見えない人物だったからだ。
「まあいい、とにかく怪我とかはしてないんだな?」
「は、はい大丈夫です、元気です!」
そう言いながら胸のあたりに拳を持ってきてガッツポーズをする様は小動物的な要素を含んでいてとても可愛らしかった。
(なんだこの可愛らしい生き物は?)
そうジューゴが思ってしまうのも無理のないことで、実際キズナという人物はそれだけの愛嬌があった。
「あのー、ジュ、ジューゴさん?」
「なんだ?」
「もしお邪魔じゃなければ、ご一緒させてもらってもいいですか?」
「なに?」
「僕見てみたいんです! FAO最強プレイヤーと言われたジューゴさんの戦闘を」
どうしたものかと考えるジューゴだったが、それは決して彼女……もとい、彼を一緒に連れて行くという事で悩んでいるわけではない。
どうやって断ろうかという事で悩んでいた。
なぜなら、今も不安そうにこちらを上目遣いで見上げてくる様は、小動物然としていて今すぐ頭を撫で回してやりたいという衝動に駆られてしまうほどだったからだ。
「すまない、今かなり忙しくてな、お前を一緒に連れて行くことはできない」
「そ、そうですか……そうですよね、わがまま言ってすみませんでした」
「……」
ジューゴは心の中でこう思っていた。
(なぜだ、俺は当然のことを言っているはずなんだが……この心の痛みはなんなんだ?)
そう思いながら、キズナがそのまま自分と反対方向に去って行こうとしているのを見て思わず声を掛けてしまった。
「おい、待て」
「はい?」
「俺とフレンド登録しないか?」
「っ! いいんですか!?」
そうジューゴが言った瞬間花が開いたような笑顔を向けてくるキズナ。
その笑顔があまりにもキラキラしていたため、思わず頭を撫でてしまった。
「あっあの……ジュ、ジューゴさん?」
「ああ、すまない嫌だったか?」
「嫌ではないですけど、その……恥ずかしいです……」
その後二人の間に妙な空気が流れたのを感じ取ったジューゴが、キズナとフレンド登録を済ませると、そそくさとその場を去ってしまった。
そして、ジューゴは心の中で叫んだ。
(なんで俺は男にときめいているんだ!? 解せぬぞ! 俺にそんな趣味はない!!)
どうやら、彼の中にある父性本能が働いてしまったことによるときめきなのだが、その事にジューゴ自身は気付いていなかったのだった。
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