第109話



「ここに来るのも久しぶりだな」


「クエ?」



 そう呟きながら周りを見渡すジューゴがいる場所は見覚えのある広場だった。

 その広場はよく待ち合わせの場所に使われるらしく、多くのプレイヤーが待ち人が来るのを待っている。



「おっと、久しぶりにプレイヤーのいる場所に来たから忘れてたぜ……【鑑定詐称】」



 とりあえず、鑑定スキル持ち対策に【鑑定詐称】を発動させ、フードを目深にかぶると目的地へと歩き出す。

 広場から歩き出して数分後、懐かしい感覚を覚えるも特に気にする事もなく視線を巡らせる。



(どうやら向こうさんも相当俺を探してたらしいな、これほど早く見つかるとは……監視者め)



 その感覚は他のプレイヤーから干渉を受けた時に感じる違和感で、ジューゴが王都ラヴァルベルクに行く前によく感じていたものだった。

 おそらく以前ジューゴに付き纏っていた監視者が目ざとく彼を発見し、早速活動を再開したといったところだろう。



(まあ、今の俺にとっては好都合だ。別に襲ってくるわけでもないしな)



 内心でそう思いながら目的の場所に向かうため歩調を早めた。



「まだ一週間くらいしか経ってないのに、随分と久しぶりな気がするな」



 ジューゴがまず向かったのは、以前【冒険者たちの武闘会】でキメイラと対戦した会場でもある円形闘技場コロシアムだった。

 どうして彼がそこにいるのかと言うと、会いたい人物が二人いるからだ。



「こんなことになるなら、あの時フレンド登録しときゃあよかったな」


「クエ?」



 ジューゴの呟きにどうしたのと問いかけるように肩に止まっているクーコが鳴く。

 何でもないとクーコを撫でると、そのままコロシアムへと入っていく。

 闘技場内部はまだイベント期間中ということもあり、多くのプレイヤーが出入りしていた。



 コロシアムの受付会場に視線を巡らせると、目的の人物を見つける。

 そのまま歩を進めると、ジューゴはその人物の背後から肩を叩き声を掛けた。



「よお、久しぶりだなハヤト」


「うん? 誰だお前?」


「ああ、フード被ったままだったな、忘れてた。俺だ俺」



 彼に誰何の声を掛けられるまで、自分がフードを被っていることを忘れていたジューゴはすぐにフードを取って正体を見せる。

 その姿を見た瞬間驚きの表情を浮かべるハヤトだったが、すぐにそれは喜色を含んだ表情へと様変わりする。



「ジューゴじゃないか、イベント初日のデモンストレーション以来だな。お前が俺に声を掛けてくるとはな、どうした?」


「ああ、ちょっと面倒事に巻き込まれててな、ハヤトの……というより、できるだけ強いプレイヤーの力が必要なんだが、お前レイラとか他の最前線攻略組に連絡取れないか?」


「連絡自体はフレンドに登録してるからできないことはないが、一体何があったんだ?」


「ああ、実はな……うをっ」



 ハヤトに事のあらましを説明しようとしたその時突如としてジューゴの視界が闇に包まれた。

 何かの状態異常かと思ったが、次の瞬間それは否定された。なぜなら――。



「だーれだ?」


「……」



 そう声を掛けられた時ジューゴは内心でため息をついた。

 こんなことを仕出かす愚か者に何人か心当たりがあるのだが、ハヤトがこの場にいるという事とジューゴの背中に押し付けられている柔らかな感触から鑑みて、該当する人物は一人だった。



「とりあえず、他のプレイヤーに連絡してくれないか? 何度も説明するのも面倒だし、みんなを集めて一度で済ませたい」


「ちょっとぉー! 無視しないでくれるかしら?」


「……何か新しいイベントでも見つけたのか?」


「ハヤトもナチュラルにスルーして話を進めないで頂戴!」



 リアクションをするのすら億劫だとばかりに、目隠しされたままの状態でハヤトに語り掛けるジューゴ。

 彼女とは長い付き合いのハヤトは当然の如く、彼女の行為をスルーしてジューゴの話を聞くことに意識を傾ける。

 もうお分かりかと思うが、彼女というのはハヤトと同じパーティーに所属しているメンバーであり、ジューゴにとっても因縁浅からぬ相手であるアキラだった。



 そんな二人に興をそがれる形となってしまったアキラがようやくジューゴの目隠ししている手をどけた。

 再び視界が戻ってきたジューゴは突然明るくなったことに顔を顰めながら、努めて彼女を無視してハヤトの疑問に答えた。



「おそらくは隠しイベントの類か、あるいは運営すら予想してなかった事態なのかは分からないが、このまま放っておけばこの街もやばいかもしれない」


「……わかった、とりあえず声を掛けられる奴に片っ端から声掛けてみるわ」


「助かる。それともう一つ、悪いが、俺とフレンド登録してくれないか? 今後の事を考えて緊急の連絡先は確保しておいた方がいいからな」


「そうだな、じゃあ――」


「わた、私もご主人様と合体……いやフレンド登録したいわぁ」


「「……」」



 シリアスを決め込むジューゴとハヤトの横で色ボケたことを宣うアキラ。

 流石の二人もいろいろと思うところがあったらしく、ジューゴはアキラに対し鉄拳制裁のモンゴリアンチョップを、ハヤトはハヤトでアキラの頬を抓りながら「お前がいると話がややこしくなるから向こうに行ってろ」と諭されてしまうのだった。



 ちなみにハヤトとフレンド登録した後、結局アキラともフレンド登録をする羽目になってしまい、これからいろいろと面倒な事になる予感がして内心でため息をつくジューゴだった。

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