第110話



 ジューゴがハヤトに再会し、最前線攻略組のプレイヤー達に招集をかけてから約四十分後、ログインしていない者や呼びかけに応じなかった者、あるいは拒絶した者など様々な反応があったが、予想していたよりも早くプレイヤーの招集が完了した。



 彼らは現在、円形闘技場コロシアムに設けられている、主に会議や講義などで使用される部屋の一室に集まっていた。

 大学の講義室のように、長机と数脚の椅子がワンセットになったものが一定の間隔で十数組ほど設置されており、そこには数十人のプレイヤーたちが座っている。



「まずは、忙しい中集まってくれたことに感謝する。改めて自己紹介するが、今回ここにいる人間を呼び出した張本人であるジューゴ・フォレストだ」



 そう口火を切ったジューゴに対し、ある者は好意的な視線を、ある者は値踏みするかのような怪訝な表情を、またある者は忙しい中呼び出したことに対する不満の視線をそれぞれ彼にぶつけてきた。

 そんな彼らの視線など歯牙にも掛けない様子で、ジューゴは早速本題に入ることにする。



「君たちを呼び出したのは、ちょっとした経緯でこの国の国王と会う機会があってな、その時聞かされたんだがこの国に危機が迫っていると、そしてそれを何とかしてほしいと頼まれてしまった。話を聞く限り俺一人ではどう頑張っても対処しきれないほど事が大きいため、君たちにそれを手伝ってもらいたく【ウロヴォロス】のリーダーであるハヤトを通じて集まってもらったというわけだ」



 ジューゴはできるだけ手短に詳しい概要を話したつもりだが、全員が全員ハヤトのように好意的なプレイヤーではないわけで――。



「ふざけんじゃねぇよ? こちとら一分一秒を争うんだ、お前の我が儘に付き合ってられるほど暇じゃねえんだよ!」


「お前の意見も尤もだ。だが、今回の件について放っておけばこの国、ひいては今いるこの街自体が消滅する可能もある」



 とある一人のプレイヤーがジューゴに対し敵対的な意見をぶつけるも、それを真摯に受け入れると同時に今回の事態を捨て置けばどうなるのか暗に伝える。

 すると見知った顔の女性が声を上げた。



「詳しい話をして頂戴、あなたを手伝うかどうかはその話を聞いてからにするわ」


「いいだろう、では詳しい内容を説明する」



 口を開いたのは、最前線攻略組【紅花団】リーダー、レイラだ。

 彼女の言葉を受け、詳しい説明がジューゴの口から語られる。

 500年に一度の大災害、ゴブリンの大量発生、ゴブリンが襲ってくるまでの猶予期間など、具体的な内容が伝えられた。



「へっ、何かと思えば、二週間後に襲ってくるゴブリンの群れを殲滅するだぁ? 現役最強のジューゴ・フォレスト様にしては、随分と弱気じゃあないか。ゴブリンが大量発生した程度で俺たちをここに呼びつけやがったのかよ、たかが雑魚モンスターであるゴブリン如きで」


「そのゴブリンの総数が10万だとしてもか?」


「なぁ!? じゅ、10万だとっ!?」



 ジューゴの口から伝えられたゴブリンの総数に、その場にいた誰もが驚愕の表情に染まる。しばらくその場が静寂で支配されたのち、彼が口を開く。



「ジューゴ、ゴブリンの群れの数が10万っていうのは本当なのか?」



 そう尋ねてきたのはハヤトだった。

 この場にいた誰もが抱いていた疑問だったが、誰も聞き返す事ができない雰囲気を察し、彼がこの場を代表してジューゴに問いただしたのだ。



「冗談だ、って言いたいところだが、俺の予想では最終的にそれくらいになるんじゃないかと予想している」


「予想っていう事は今はまだ10万には届いていないってことよね?」



 再びレイラが口を挟み、質問を重ねる。ジューゴはその問いに頷きながらさらに情報を伝える。



「国王が偵察を出して調べたところ、今のゴブリン軍の総数は2万ほどだそうだ。今もその数を増やし続けていることから、戦いが始まるであろう二週間後には、その総数は10万になると俺は見てる」


「その根拠は?」


「かつて同じようにモンスターが大量発生して襲ってきたときも、今回と同じく最初は数が少なかったそうだ。そこから時が経つにつれ増殖していき、最終的には7万の大群になって襲ってきたそうだ。今回の相手がゴブリンであることを鑑みて、最終的に相手をにするゴブリンの数は10万だという結論に至ったわけだ」


「なるほどね……」



 ジューゴの説明にそれなりの根拠があると判断したレイラはそれ以上口を開くことはなかった。



「もうしばらくすれば、冒険者ギルドに今回説明した内容に関連する緊急クエストが張り出される。もし手伝ってくれるならそのクエストを受けて欲しい」



 最後に「俺からは以上だ」と締めくくってその場は解散となったが、その後ジューゴと知り合う機会だとばかりに武器作製の依頼や料理の注文、果てはフレンド登録やパーティー勧誘などがあったが、緊急連絡用にパーティーのリーダーのみ申請を許可し、武器と料理の依頼は丁重にお断りした。



 解散する前にこのことをできるだけ他のプレイヤーたちと共有するため、知り合いのプレイヤーにも広めて欲しいとジューゴは念押しした。

 これでプレイヤーたちにゴブリン軍の情報は伝わったため、ジューゴは来たる二週間後に向けての準備を開始すると決意するのだった。

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