第102話



「さてさて、お次は第2階層だな。どんな敵が待ち受けているのか」


「クエ」



 第2階層に降りるための階段を守っていた【ブルーボア】を首絞めでノックアウトしたジューゴは、そのまま第2階層へと足を踏み入れた。



 そこは最初の階層と同じく薄青色に光り輝く四方を岩の壁に覆われた通路が目に飛び込んできた。雰囲気としてはこれといって風変わりなものもなく道なりに進んで行く。



 時折出現するコブリンやコボルトを蹴散らしながら、行進という言葉がお似合いなほど堂々とダンジョンを進んで行く。その姿を見る限りではジューゴが気後れした様子はまったくなく、寧ろ初めてのダンジョン攻略にウキウキとしていた。



「ふむ、最初の階層と比べると若干ではあるが、モンスターのレベルが上がってるな」


「クエ?」



 このダンジョンの情報を収拾すべくジューゴは出現したモンスターに細かく【鑑定】を掛けていた。その結果分かったことは最初の第1階層と比べるとモンスターのレベルが1または2ほど上がっていたことだ。



 現状としてまだ二つ目の階層に突入したばかりなので確定的な情報ではないが、一般的なダンジョンの性質として下の階層に行けば行くほどモンスターが強くなるというものがあるため、まだ序盤でありながらもこの情報はほとんど確定的とも言える。



 そう結論付けながら、自身の勘を頼りにいくつかの分岐路を適当に進んで行くと、前回倒した【ブルーボア】がいたような構造のエリアに到着する。



 そして、これまた前回と同じくその場所を守っているボス的なモンスターもまたそこにいた。どうやら犬型のモンスターのようでジューゴたちの姿を見るとすぐにうなり声を上げ威嚇行動を取り始める。



「グルルルル」


「狼か、まあ一応……【鑑定】」



 鑑定の結果は予想通り【ブルーファング】という狼の姿をしたモンスターのようだ。

 レベル自体は5とブルーボアよりも高い。だがなぜ“ブルー”という名前が使われているのかというと、お察しの通り青色の牙を持った狼だからだ。



 安直な名付けだと内心で苦笑いを浮かべるジューゴだったが、まだ序盤中の序盤であるダンジョンのボスクラスの名前としては分かり易い方がいいので、特に不満があるわけではなかった。



「それでは、犬ちゃん。君にも実験台になってもらおうか?」


「ク、クエ……」



 そう言いながら手の骨をバキバキと鳴らし、その後首の骨を鳴らすジューゴの姿に、まるで恐ろしいものを見るようにクーコが呟くように鳴く。



 この時の彼女はこう思っていた。今日という日程ジューゴが味方でよかったという事を。

 その後ブルーファングがどうなったのかは言うまでもないだろうが、敢えて言うのであればその最期は傍から見た者からすれば、モンスターとはいえ同情するほど哀れな逝き様だったらしい。



「ふむ、サバ折りは確実に殺しに来てる技だからこれはあいつらに使うのはボツだな。死なないように手加減できても見る人が見ればセクハラまがいの行為だし、通報されかねん」



 お分かりいただけただろうか?

 ジューゴのその一言でブルーファングがどのような結末を迎えたのかを……。



 とりあえずブルーファングとの戦闘を内容はともかくとして、つつがなく終わらせることができたジューゴはそのまま第3階層へと続く階段を降りて行った。








「さてさて、第3階層はいかなるところなのでしょうか? 初めてのダンジョン攻略にジューゴ・フォレスト君が挑んでおります」


「クエー?」



 自分自身の今の状況を実況するような語り口調をするジューゴに対し、呆れを含んだニュアンスでクーコが鳴く。とてもではないがここまで来た第一と第二の階層のボスモンスターを武器も魔法も使わず肉体的な力技で突破して来ている事実を突きつけられれば、誰でも呆れることだろう。



 この状況をみて勘違いする人がいるかもしれないので、他のプレイヤーの名誉のために言っておく。

 まともなプレイヤーであれば、自身の得意武器を使用してモンスターを殲滅していくのだが、ジューゴのように剣と魔法主体で戦っているにもかかわらず、肉体的な攻撃で倒していくのは異常な行為である。



 いくらまだ序盤のモンスターで彼にとって脅威になり得ないとはいっても、だからと言ってどこの世界にお仕置き目的で使用する技をモンスターに対して実験台として行使する人間がいるのだろうか?

 そういう意味ではジューゴが行っている行為は、実は世界で初めての行為だったりするのかもしれない。



 3階層に侵入したことで新たに【スパイダー】という蜘蛛型のモンスターと【ホーンラビッツ】という額に角を持ったウサギが出現するようになった。

 レベルも大体4から6と以前の階層よりも確実に強くなっているものの、まだまだ彼にとっては雑魚でしかないためフレイムバレットの餌食となりあえなく撃沈している。



「そう言えば、【フレイムストーム】という魔法がどれくらいの魔法なのか確かめてなかったな。次使ってみるとしよう」


「クエ……?」



 ジューゴの言葉に「本当に大丈夫か?」と言っているように鳴くクーコの首筋を撫でながら「大丈夫だ、問題ない」とジューゴが返す。

 その言葉は知る人ぞ知る有名な言葉であったが、一般的な男性よりもTVゲームをプレイしてきた年数の少ないジューゴにとって、その言葉が何を意味するのか知る由もない。



 フラグが立ってしまったことを理解しないまま、ジューゴ達は新たにモンスターの群れを発見する。自分の新しい魔法を試すための標的を視野に捉えたジューゴは、ニヤリと笑みを浮かべるのだった。

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