第101話
「……まあ、こうなっちゃうよな」
空洞の先にあった迷宮で、初めて遭遇したモンスターとの戦闘を試みるジューゴだったが、その結果は実に圧倒的だった。
モンスターのレベル自体が低すぎるというのもあったが、敵がジューゴを認識する前にすでに決着はついてしまった。
まずジューゴが【フレイムバレット】で三匹のコボルトを一掃し、残りのゴブリン二匹はクーコが蹴りの一撃で文字通り一蹴した。
その戦闘結果は実にシンプルであったが、実際にモンスターの立場からすればあまりにもあまりな凄惨な結果だ。
相手の姿を確認することなくその人生――この場合モンスターだからモンスター生という表現が正確だろう――に幕を閉じることになってしまったのだから。
だがこれはあくまでも、ジューゴとクーコの戦闘能力が高すぎることが要因となっているので、まだ始めたばかりのレベル1のプレイヤーであれば実際のところ返り討ちにあっていた可能性もあった。
兎にも角にも今のジューゴ達にとってレベル2や3そこらのモンスターなど象が蟻を踏みつぶすに等しい行為だったのだ。
「勝ったどー」
「クエー」
若干棒読み気味に右手を上げて勝利宣言するジューゴに倣うかのように、クーコも右の手羽先を高らかと天に突き上げる。
しばらくその状態を維持していたが、そんなことをしている暇があったら探索を再開したほうがいいという結論に至り、再びダンジョンを突き進んでいく。
その後もゴブリンやコボルトが何度か出現するもすべて鎧袖一触の元にその命を散らす結果となったのは想像に難くない。
そして、迷路のような分岐をいくつか進んで行くと今まで出会わなかった新しいモンスターが姿を現す。
「シャァァァアアアア」
「ん? 蛇か?」
それは紛うことなき蛇のモンスターだった。
その全長は3メートルにも及び、大蛇と表現しても差し支えないほど巨大なものだったが、ジューゴの鑑定からはレベル4の【ブルーボア】という名のモンスターだと判明した。
そして、それ以外で目についたのが、ブルーボアが守っているのが次の階層に降りるための階段だったことだ。
以前【ベルデの森】に出現したベルデボアという名の蛇がいたことを思い出し、ジューゴはこのFAOの世界でボアという名のモンスターは蛇だということを認識する。
元々【ボア】という名前を聞くと猪だと思っている人もいるだろうが、それは間違いではない。
猪で表記されるボアの綴りは【boar】でボアと表記されるが、蛇の種類には【boa】という綴りのボア科という種類の蛇が存在する。両方とも日本語では【ボア】と呼ぶためごっちゃになることもしばしばあるが、蛇としての【ボア】と猪としての【ボア】の二つの呼び方が存在するという事だ。尤もファンタジー系のライトノベルやゲームで登場するボアという名は統計的に猪のモンスターを指す傾向が強いのだが、今回は蛇としての名前で採用されているようだ。
「ちょうどいい、ルインやアキラ用に開発したお仕置き用の技があったんだが、悪いがそれの実験台になってもらおうか、蛇ちゃん」
「シャア?」
ジューゴの言葉の意味を理解していないブルーボアが首を傾げるも、こちらを敵と認識しているため躊躇することなく突進してきた。
レベル4とはいえ3メートルの巨体を持ち合わせる蛇の力は相当なもので、その膂力は凄まじく大きな口を開けかなりの勢いで突っ込んできた。
だがプレイヤーとしてかなりの高みにまで到達してしまっているジューゴからすれば、スローモーションとはいかないまでもそのスピードはかなり遅くブルーボアがいる方向に歩きながら上体のみでその突進を回避する。そのままブルーボアの首の付け根部分に両腕を挟み込みクロスさせた状態で締め技を繰り出した。
プロレス技で言うところの【ヘッドロック】をお見舞いする形となってしまったが、実際にその締め技を受けているブルーボアからすれば堪ったものではない。なぜならSTRのステータスが350を超えているジューゴが繰り出す締め技は生半可なものではない。増してや称号【勇猛なる者】でステータスが底上げされており、今の彼のSTRの値は450を超えていた。それを物語るかのようにブルーボアの首から下の自由になっている胴体部分が苦しそうにもがいているのが見え、ブルーボアが食らっている締め技がどれだけ凶悪なものか理解することができる。
呼吸をするための空気の通り道である気道を完全に塞がれた状態が数分間続き、ブルーボアの体内の酸素濃度が低下していく。最初は抵抗する力があったブルーボアも次第に動きが鈍くなっていき、最終的にはピクリとも動かなくなり絶命する。ブルーボアもまさか自分が窒息死するとは思っていなかっただろうが、ブルーボアにとって不運だったのは圧倒的な力を持っているジューゴと出会ってしまったことだろう。
「ふむふむ、これは確かに強力だがこんなの食らったらアキラはともかくルインは二度と戻ってこないだろうな。もう少し力の加減を練習しておきたいところだ」
このFAOという世界では、プレイヤーではないNPCは一度死んでしまえば死に戻るとういう事はなく、プレイヤーにとっての現実世界での死を意味する。だからこそ、こんなふざけた締め技でNPCとはいえ人を殺めるのはさすがに拙いと思ったのか、ジューゴがそんなことを呟く。尤も彼らしいと言えば彼らしいのだが、“練習する”という言葉から分かる通り、締め技自体を止めておくという答えに行き着かない所は流石と言うほかない。
その後、ブルーボアから素材を回収したジューゴとクーコは、ブルーボアが守っていたであろう次の階層に降りるための階段へと歩を進めついに第一層を突破するのだった。
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