第103話



 第3階層へと足を踏み入れたジューゴは、新たに修得した魔法【フレイムストーム】の威力を確かめるため手ごろなモンスターを探していたところ、ちょうどいいモンスターの群れを発見したのでさっそく行動に移すことにした。



「ゴブリンにコボルトとスパイダーにホーンラビッツ、はっ、今まで出てきたモンスター各種詰め合わせって感じだな」


「クエクエ」



 できるだけ魔法の効果を正確に確認したいため、ジューゴとしてはできるだけ多種類のモンスターがいる群れが望ましかった。

 そういう意味では今回であった群れは、彼にとって打ってつけの相手であった。



「クーコには悪いけど今回は見ててくれ」


「クエ……クエッ」



 ジューゴの言葉に残念そうな声で鳴くも、クーコとしても彼の今回の目的を理解しているためすぐに頷く。

 ちなみに今回発見したモンスターの群れがいた場所は、闘技場のような円形の構造をしていて戦闘を行うのには最適な形をしていた。



「よし、じゃあ一発ぶちかましてみるかな……【縮地】!」



 そういうや否や、相手に気付かれないように【縮地】を使って接近する。

 そのまま両手をモンスターの群れに向けると、即座に呪文を詠唱する。



「くらえ、【フレイムストーム】!!」



 ジューゴが呪文を唱えた瞬間、モンスターの群れの中心部に突如として炎で形成された竜巻が発生する。

 数百度から数千度という高熱を発する竜巻は瞬く間にその場にいたモンスターたちにその猛威を振るった。



 ただでさえ低階層のモンスターであるコブリン達にとってオーバーキルのさらに上であるスーパーオーバーキルと言っても過言ではない炎の竜巻が襲い掛かる。

 その場にいたモンスター達に抗う術は当然ながらなく、自らの身体がただただ炎に焼かれていくのを黙っているしかなく、文字通り消し炭となって消滅してしまった。



「これは……なかなか強力な魔法でございますな、でもあんな状態になっても素材はちゃっかり手に入るんだな……」


「クエ……クッ!? クエッ、クエクエ!!」


「ん? どうしたクーコ?」



 ジューゴが先ほど消し炭になったモンスターの素材を確認していると、突如として焦りを含んだクーコの声が響いた。

 何事かと思い、先ほどモンスターがいた場所に視線を向けると、そこでは未だに炎の竜巻が猛威を振るい続けていたのだ。



「え? 何で消えないだ? なんかこれってやばい感じ?」


「クエークエクエクエクエ!!」



 一人と一羽はこの状況に何か本能的に感じ取ったのだろう、今も消えずに残り続ける炎の竜巻に眉を顰める。

 嫌な予感というのはよく当たるのが通例というもので、ジューゴのコントロールを離れた竜巻は暴走を開始する。

 魔法の名前通り炎の嵐となってその場に地響きを起こし始める。そして、その猛威はジューゴ達に向かって襲い掛かってきたのだ。



「あー、これやべぇやつだ。とりあえず逃げるぞクーコ!」


「クエ!」



 そう判断した二人の行動は素早かった。

 まさに三十六計逃げるに如かずとはこのことで、踵を返し全速力で元来た道を引き返し始める。

 ここで彼らにとって幸運だったのが、フレイムストームの効果時間がもうそろそろ切れる頃だったという事だろう。



 そのままジューゴ達に襲い掛かろうとしていた炎の竜巻だったが、次第に威力が弱くなり彼らがそのエリアから脱出した時にはすでに魔法の効果は消え失せた状態だった。



「はぁ、はぁ、ちょっと危なかったな」


「クエ……」



 ジューゴの言葉に同意するようにクーコが同意する。

 もしも早い段階で炎の竜巻が暴走していれば、下手をすればジューゴ達もコブリン達のように消し炭になっていたかもしれない。



「あ、そう言えばこの魔法の説明みてなかったな」



 その呟きを聞いたクーコに呆れた視線を向けられながらも、どういった魔法だったのか確認してみた。



【フレイムストーム】



 嵐の如き強力な炎の竜巻で攻撃する。

 ある一定の確率で味方に襲い掛かることがある  消費MP 20



「マジかよ……こんなリスキーな魔法だったのか」



 その時ジューゴは自分の軽率さに肝を冷やした。

 前もって彼がこの情報を見ていれば、おそらくダンジョンという限られた空間しかないような場所でこのような魔法を使う事はなかっただろう。

 そして、もしあの炎の竜巻が自分たちを襲っていれば、自分はともかくクーコはそのまま消し炭になっていたかもしれない可能性に気付いたのだ。



「すまないクーコ、俺が軽率にこんな魔法を使ったばっかりに……」


「クーエ、クエックエクエクエ」


「許してくれるのか?」


「クエ!」



 自分が仕出かしてしまった行為に対しジューゴが謝罪すると、クーコはそんなこといちいち気にするなとばかりにジューゴの行為を許した。

 クーコとしては、故郷であるベルデの森を出た瞬間からいつ死んでもおかしくないという覚悟はとっくの昔にできており、それでもジューゴと共に居たいと願ったのは彼女の純粋な本心だった。



 人間であるジューゴとクエックという種族である自分では結ばれることはないかもしれない。それでも好きになった雄の側に居続けたいという雌の気持ちに嘘は付けなかったのである。



「ありがとう、クーコ」


「クエッ! クぅぅぅ……」



 そんなクーコのひたむきな態度にジューゴは彼女の胴体部分に抱き着いた。

 突然ジューゴが取った行動に驚きはしたものの、彼が積極的にそういう行動に出てくれた事にどこか照れ臭さも感じながら頬を染める。



 今の彼らの状況を他人が見れば、まさに人間とモンスターの禁断の恋なのかと勘違いしてしまうところだろうが、残念ながらジューゴはクーコの事を仲間としては信用しているが異性としては何も感じてはいなかったのであった。



 それでも、例え仲間としての絆であったとしてもクーコにとってはそれだけで幸せだったのだ。

 それからしばらくして元の場所に戻ることにした。だがそれが彼らにとって迂闊な行動となってしまう。



「それにしても酷い有り様だな」


「クエ……」



 改めて元の場所に戻るとその凄惨な光景に思わず眉をひそめる。

 フレイムストームの力によって天井、壁、床などにひびが入っており、こと天井に至っては少し崩れている部分もあった。

 そのまま次のエリアに行こうとしたそのとき突如として地面が揺れ、床にぽっかりと穴ができてしまう。



「また穴かよぉぉぉおおおお」


「クエェェェエエエエ」



 突如として現れた穴に落ちたジューゴを追いかけてクーコも穴へと飛び込んで行った。

 この事故が彼らにとってさらに最悪な状況へと発展してしまう事とも思わずに……。

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