第95話



「転移魔法を覚えたいと?」



 二人がスムージーを飲み終えた後、俺はヴォルフに用向きを伝えた。

 ちなみにサリアはカップの底に残っているスムージーを指で掬って舐め取っている。女の子がそんなことしちゃだめだろ……。



「そうなんだよ、今後の事も考えて他の街や拠点に短時間で行き来できる手段が欲しくてね。幸い【魔導師】の職に就いてるから、それで覚えられるのなら覚えたいって思ったんだけど」



 自分の思惑を伝えると、顎に手を持っていき何やら難しい顔でヴォルフが考え込んでいる。

 その後彼が考え混む時間が続き、しばらくして考えが纏まったようで話し始める。



「結論から言えば、転移魔法は【魔導師】をレベル20にまで上げれば【テレポーテーション】という魔法を覚えられる。一度行ったことがある場所という制限が付くが一瞬で街から街への行き来が可能になる」


「おお、やったー!」


「だが、ジューゴ殿はどうやって【魔導師】のレベルを20にまで上げるおつもりかな?」


「え、どうやってと言われても……」



 レベルを上げるのに何か特殊な事など必要ない。

 最も手っ取り早いのはモンスターと戦って経験値を得るのが一般的だが、生産職などは特定の生産行為やそれに準ずる行動を取った時に経験値が入ってくる。



 それ以外にもこのFAOでは、特定の行動を行う事でも微量ながら経験値が得られるシステムが導入されている。



 例を挙げるなら、【戦士】のレベルを上げたければモンスターと戦ったり、自分が使っている武器を素振りしたりすればいい。



 一方【料理人】のレベルを上げる場合は、当たり前だが調理したり、作った料理を誰かに振舞ったり、あとは市場で食材を購入するときなども微量に経験値が入るようになっている。



 端的に説明するなら、“特定の職業に関係のある行動”すべてが経験値に変換されているようだ。



 最もこれは掲示板などで、解析組が検証を重ねた結果たどり着いた答えだと言っておく。

 決して俺が独自に見つけたものではない。



「モンスターを倒せばあっという間にレベル20になるだろ?」


「いやいや、ジューゴ殿、そんな簡単にレベルというものは上がらないぞ?」


「……もしかして」



 ヴォルフの言葉で俺はとある仮説が浮かんできたので、それを裏付けるべく彼に問いかけた。



「ヴォルフさん、ちなみにレベルを1上げるのにどれくらいかかるの?」


「そうだな、大体だが早くとも1年、あるいは2年で1上がれば御の字だと思うが」


「やはりな……」


「何がやはりなんだジューゴ?」



 俺の問いに対してのヴォルフの答えを聞き、自分の仮説が正しかったことに内心ほくそ笑んでいるとスムージーを完璧に完食したサリアが俺の隣に立っていた。



「なんだ、もう女の子としてあるまじきみすぼらしい行為は済んだのか?」


「そんな棘のある事を言わなくったっていいだろう!?」


「ほう、では認めるのだな? 自分が女の子として致命的な行動を取っていたことに」


「うっ……」



 自分が取っていた行動が、女の子としてあまり行儀のいいものではないと理解しているためサリアから反論の言葉は出ない。



 だがここは心を鬼にして、彼女のためにこれだけは言わなければならない。



「サリア、そんなんじゃ嫁の貰い手なんてないと思うぞ?」


「ぐはっ」



 今サリアが最も言われたくなかった一言を言われ、まるで刃物が身体に突き刺さったような呻き声を上げる。



 サリアよ、それが羞恥心というものだ。甘んじて受けるがいい。



「でだ、サリアをおもちゃにするのはこれくらいにして“やはり”の内容を話していくとだな」


「おもちゃ言うな! 意外と傷ついてるんだぞ、こっちは!?」


「“やはり”の説明が聞きたくないのならこのままさっきのお前の行動についての討論を小一時間続けてもいいんだが、どうする?」


「すみませんでした……“やはり”の内容をお聞かせください」



 流石に自分の取った行動が、どれだけ思慮の足りないものであったかを長時間くどくどと討論などされては、どんなに図太い性格をしている人間でも嫌になってしまうだろう。



 そのことに思い至ったサリアは即座に謝罪し、俺に話の続きを促してきた。

 いつもこれくらい素直なら可愛いのにな……やれやれ。



「でだ、詳しいことは分らないがどうやら冒険者である俺たちとNPCであるあんたらでは成長速度に違いがあるみたいだな」

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