第96話
「でだ、詳しいことは分らないがどうやら冒険者である俺たちとNPCであるあんたらでは成長速度に違いがあるみたいだな」
そう俺が言うとヴォルフとサリアが眉を寄せながら怪訝な表情を浮かべた。
NPCである二人の常識と、プレイヤーである俺の常識に差異があるのは当然の事なので、二人の反応はNPCにとっては当たり前なものなのだろう。
成長速度の違いについては、昔の家庭用ゲーム機で販売されていたRPGで登場するボスキャラや、一時的に仲間になるNPCの強さが変化しないというものを引用した結果ではないかと俺は考えている。
ゲームによってはプレイヤーの強さに応じて敵の強さも変化するRPGもあるにはあったが、それはかなり少数だったはずだ。
「それは一体どういう事だね? 冒険者と我々とで成長速度が違うとは?」
ヴォルフがそんな風に問いかけてきたので、先ほどの考えを説明した。
「という風な具合で、冒険者とNPCを比べた時に冒険者の優位性を持たせるためにNPCの成長速度を極端に遅くしている可能性があるということだ。ちなみにだが我々冒険者がレベルを1上げるのに掛かる時間は、レベルにもよるが低レベルなら1時間も掛からないぞ」
「そ、そんなに早いのか!?」
「うーむ、どうりでジューゴ殿とアスラ騎士団長の実力に差があるわけだ」
「そこで俺の先ほどの考えが正しいと仮定して話を進めるが、もう一つの仮説が生まれた」
俺の考えに目を見開き驚きを隠せないサリアとは対照的にアスラが敗北した要因がそこにあったかと納得するヴォルフ。
そして、俺がさらに話を続けると先ほどとは違い真剣な顔で俺の話に耳を傾けてくるのが伝わってきた。
「俺の肩に止まってるコイツは、元々【ベルデの森】っていう所に住んでたモンスターだ。つまりこいつも立ち位置的にはNPCの部類に入る。だが、こいつが俺の仲間になってまだ一か月も経っていないが、新しく修得させた二つの職業がもうレベル15を超えている」
「クエー?」
「一か月でレベル15だと!?」
「いくらなんでもそれは急成長過ぎる!」
二人にとっては異常な成長速度に驚愕を隠せないようで、俺の肩に止まって欠伸をしているクーコに驚愕の視線を向けた。
「そこで俺としてはだ、冒険者のパーティーに加わったNPCは成長速度が冒険者と同じかそれに近い状態にまで上昇するんじゃないかという仮説に思い至った」
それを聞いた二人はさらに目を見開き驚愕する。
だがこれは確認が取れていないため、まだ仮説の段階に過ぎない。
しかしながら、NPC扱いであるはずのクーコの【僧侶】と【蹴術士】の成長速度から考えて可能性は二つしかない。
モンスター自体の成長速度が速いか、先ほどの俺の仮説が正しいかのどちらかということになる。
だが懸念として、元々仲間になる前のクーコが持っていた【クエック】という種族職業のレベルが22であったことから、もしかするとモンスターの成長速度がただ単に速いだけかもしれない。
「これは、今後アスラでじっけn……コホン、試す必要があるな」
「「……」」
俺の言葉を聞いた二人から生温かいジト目をいただいたところで、この話はここで切り上げ早速【魔導師】のレベルを上げるべく二人に別れの挨拶をする。
「ではヴォルフさん、サリア、聞きたいことも聞けたし、俺はこれからレベル上げに行ってくる。国王にもそれとなく伝えておいてくれ」
「わかった、ジューゴ殿であれば大丈夫だとは思うが道中気を付けてな」
「……」
二人と挨拶を交わした俺は、先ほどの話はあくまでも仮説にすぎないので余計な混乱を招くことになるから他の人間には話すなと釘を刺しその場を離れた。
俺の仮説を検証するためにも他のNPCで試す必要がある。
まあそれは俺が転移魔法を覚えて、プレイヤーにゴブリン軍のことを告げてからになるのでもう少し先になるだろう。
だがその検証のぎせいしゃ……もとい、検証する人物は彼女で決定だろうがな。
二人と別れた俺は無駄に長い廊下をひたすら歩いていたのだが、そこで珍しい人物に出会った。
黄色を基調とした豪華な装飾が施されたドレスを身に纏い、これまた豪華なアクセサリーを身に着けたこの国の王女だ。
「あらあら、誰かと思えば勇者殿ではありませんかー」
「……」
相手の雰囲気からこれは面倒な事になると察知した俺は、そのまま足早に彼女とすれ違い先を急ごうとしたのだが……。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
「……」
流石に相手も話しかけてきただけあって、タダで通してくれるつもりもなく、呼び止められてしまうがそれすらも無視して俺は突き進む。
「待ちなさいって言ってるでしょ! 私の言う事が聞けないの!?」
「ちっ」
そのまま無視して行こうとしたが、ドレスの裾をたくし上げ小走りで俺に追いつき肩をがしっと掴まれてしまった。
面倒な事になると予想していただけに、あからさまに舌打ちが出てしまった。
……仕方ない面倒臭いが簡単な挨拶で切り抜けるとしよう。
「これはこれは王女ではないか、このようなところで何をしているのかな?」
「私が城のどこでなにをしようと貴方には関係ない事なんじゃないかしら」
「それはごもっとも、では俺はこれで失礼させてもらう、ごきげんよう」
そう言いながら即座にその場を去ろうと踵を返し行こうとするも、またしても肩を掴まれてしまう。
「待ちなさいって言ってるでしょう!?」
「はぁー、何か俺に用か?」
俺は再び彼女に向き直ると、相手にも聞こえるように盛大に嘆息すると、相手の目的を聞くべく問いかけた。
すると彼女は両手を腰に当てながら胸を張って用向きを話し出した。
「いい事、アスラ騎士団長を倒したくらいでいい気にならない事ね。例えお父様がお認めになられても、この私アシュリー・フィス・ディアバルドは貴方を勇者とは認めない、絶対に」
艶のある桃色の長髪をたなびかせた十代中頃の少女が宣言する。
蛍光色が強めの青い瞳でこちらを睨みつける姿はまだ幼さが残る雰囲気でも王族の風格を確かに持ち合わせていた。
だが国王との謁見の間でも態度を改めなかった俺にとって、今の彼女の風格などただ虚勢を張っている子猫ちゃんでしかない。
俺は彼女ににっこりと微笑みながらできるだけ柔らかい態度で返答した。
「それは好都合、こちらとしても俺は自分の事を勇者と思ったことは一度もない。ただのどこにでもいる冒険者でしかないと思っている。むしろ勇者と思わないでくれて礼を言いたいくらいだ」
「なっ」
俺の返答が意外だったのか、目を見開いて驚愕する王女。
だが俺はそれに恭しく胸に手を当てまるで貴族がするような礼をした。
「これからもその態度を崩さないよう謹んでお願い申し上げます。それでは私はこれにて、失礼させていただきます。ごきげんよう、アシュリー・フィス・ディアバルド王女殿下」
そう言い放った俺は今度こそ踵を返して、早々にその場を後にした。
後ろから王女の悪態が聞こえてきたがそんなことはどうでもよかった。
今は一刻も早く転移魔法を修得しなければならないのだ。いざ行かん、バトルフィールドへ。
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