第76話



 【とある一幕】



「なあクーコ?」


「クエー?」


「俺が【鑑定士】のレベルを上げてる間、暇だろうから“めいそう”しといてくれないか?」


「クエ? ……クエ、クエ、クッ!? クエッ!」


「うむ、じゃあそういうことでよろしく」





 ――数分後。





「クエクエクエクエクエクエクエ」


「……」


「クエクエクエクエクエ」


「……おい?」


「クエクエクエクエクエ」


「クーコ、俺が言ったのは“瞑想”であって“迷走”ではないぞ? 誰が迷い走れと言った。精神統一の方の瞑想だ」


「クエッ!? クッ、クエッ」


「いやいや、今更そっぽ向いて誤魔化してもダメだから」



――――――――――――――――――――――――





『ジューゴ・フォレストの【鑑定士】がレベル30に上がりました。特定条件を満たしましたので、称号【初級から中級へ】を獲得しました』



 唐突な幕開けだが、鑑定士のレベルが30に上がったと同時になんか称号来た。

 さっそく詳細を見てみることに。



 【初級から中級へ】



 5つの職業を一定数のレベルまで鍛えた者に与えられる称号。初心者卒業の証。



 獲得条件:5つの職業をレベル30以上にする  発動効果:特定職業同士の組み合わせによって、新たなスキルを修得できる要素の解放




「……なるほど」



 と言いつつも、理解はしてません……テヘペロっ!

 ただ、どうやら初心者から卒業したという事は理解した……そんな自覚はまったくといってないがな。



 発動効果とやらが少し気になりだした時、さらにウインドウにメッセージが表示される。



『盗賊レベル30と鑑定士レベル30の組み合わせから新たなスキル【認識阻害】を獲得しました』



 ……なんか俺が欲しかったっぽいスキルが出たな。とりあえず、見てみるか。



 【認識阻害】



 一定の時間、自身の存在を他者に認識させなくする。

 この効果はいかなる感知系のスキルを用いても看破することはできない。

 自身の意思によって認識させる相手を選ぶことも可能。


 効果時間:10分  消費MP 30



「うわー、ご都合主義甚だしい……」



 思わずそう呟いてしまうほど、今の俺にとって必要不可欠なスキルを修得できたみたいだ。

 と言ってもこのスキルを獲得するために二日とちょっとほど掛かっているのだがな。



 詳細を言えば、あれから宿屋の部屋に引きこもって、鑑定士のレベルを30まで上げるために木曜日と金曜日が潰れた。

 現在の曜日は土曜の午前でログインしてから四十分程が経過したところだ。



 実質的に平日のログインできる時間は大体三時間程なので、鑑定士をレベル30にするのに七時間弱ほど掛かっていた。

 ちなみにその間クーコには【僧侶】と【蹴術士】のレベルを上げてもらうために、瞑想と蹴りの素振りを交互にやらせた。

 めいそうしておけと言ったら、しばらく部屋の中をぐるぐると徘徊していたため「俺が言ったのは迷うに走ると書いて“迷走”じゃなく瞑目の瞑に幻想の想と書く“瞑想”だ」というベタな突っ込みをしてやった。



 そんなコントもどきをやりつつも、レベル1だった二つの職業は、僧侶が11に蹴術士は9にまで上がっていた。

 まさに“継続は力なり”である。



 話を【認識阻害】に戻すが、効果時間が10分とまだまだ短めで消費するMPの量も30とかなり高い。

 今の俺でも連続使用で最大170分が限界だ。将来的にもっと使い勝手がよくなって欲しいと切に願う。



 さて、俺の求めた新たな隠密技術である【認識阻害】と【鑑定詐称】は手に入れた。

 次の俺の取るべき行動はどうすべきか? そんなことを考えていたその時、不意に部屋のドアから小さいノック音が響いてきた。



「む、客か? 誰だろう」


「クエ?」



 突然の来客にクーコも瞑想を中断し、俺の肩に乗っかってくる。元の大きさでは俺の肩に乗ることは不可能だが、【従魔の首輪】の力によってバレーボールほどの大きさまで縮小しているため、俺の肩に乗っても支障はない。



 ドアノブに宛がう様に立て掛けておいた椅子を取り外し、鍵を解錠しドアを開けた先にいたのは奴だった。



「……」


「……」



 互いの間に流れる沈黙、何を考えているのか分からない無感情な目を視界に捉えしばらく睨み合っていたが、こちらから聞いてやることにした。



「なんでお前がここにいるん――」


「ジューゴ、ボクと結婚して」


「いやいや、久しぶりに会った知り合いの第一声としては不適切だと思うのだが?」


「むぅ?」



 そこにいた人物は俺が一番最初に出会ったダークエルフ族のルインだった。

 目立たない外套を身に纏ってはいるものの、フードの奥から見えている尖った耳と褐色の肌は隠しきれておらず、彼女の女性的な二つの大きい膨らみも彼女が彼女であると証明するかのように自己を主張している。



「はあー、俺は言ったよな? 俺はプレイヤーでお前はNPCだから一緒になっても不幸になるだけだって?」


「ボクも言った。“ジューゴの側にいられるだけで幸せだもん”って。だからボクと結婚して」


「俺の都合を考えろよおおおおおおお!?」



 俺の絶叫が階下まで響き渡ったのだろう、ヤドシュさんが何事かと階段を駆け上がってきた。



「おうおうどうした兄ちゃん、他のお客の迷惑だから、あんまり騒がないでくれ」


「すまない、つい感情的になってしまった。……ところですまないついでにこいつを引き取ってくれないか?」


「その嬢ちゃん、ダークエルフだろ? 兄ちゃんの知り合いなんじゃないのか?」


「知ってはいるが、あまりいい関係ではない。今も部屋にやってこられて迷惑しているんだ」


「……」



 俺はヤドシュさんに顔見知りではあるが、仲のいい間柄ではないという事。いきなりやってこられて迷惑している旨を伝える。

 そこでようやくヤドシュさんも納得してくれ、話が纏まりかけたところにルインがとんでもない爆弾を投下した。



「ジューゴ……ひどい、ボクの裸を見たくせに……」


「……兄ちゃん?」


「いやいやいや、あれは不可抗力というやつで――」


「おっぱいも揉んだくせに……しかも両方」


「……」


「勘違いされるような言い方をするんじゃねええええ!!」



 ……まったく、なんという爆弾を投下するんだこいつは。確かに厳密に言えば、彼女の裸も見たしおっぱいも揉みましたよ? しかも両方。

 だが、それはあくまでも事故という偶然が重なった結果とルインが寝ている俺に無理に揉ませた事であって、俺の意思で彼女のおっぱいを揉もうとしたわけではないんだよ?



 先ほどまでの態度とは打って変わって、冷たい視線を向けてくるヤドシュさんに事細かに詳細を説明した結果、なんとか納得してもらいルインを引き取ってもらった。

 その後、首根っこを掴まれながら連れて行かれる彼女の無感情な瞳が訴えかけていた。“この程度でボクが諦めると思わないでね”と――。



 見た目は愛くるしいのに、どうしてそう病んでいるのだろうか……。

 もう少し相手の事を思いやる気持ちを持って欲しいものだ。



「クエー、クエクエ……」



 今まで肩に止まって成り行きを見ていたクーコがそこで小さく呟くように鳴いた。

 何を言っているのかわからなかったが、何か少し焦ったような感じだった。

 まあそのことについて問い詰めたところで“クエクエ”としか返ってこないので追及はしないでおこう。



 なんか出鼻を挫かれた気分になったが、とりあえず今日の活動に勤しむとしよう。



 それから十分後に外に出かける用意をした後、部屋に鍵を掛け受付に向かう。

 先ほどのルインを引き取ってくれたことにヤドシュさんにお礼を言うと、今までの宿代である1200ウェンを支払う。

 ちなみにここの宿は、一泊400ウェンと始まりの街の宿よりもお高いが、潤沢な資金を持つ今の俺にとってなんら苦はない。



 支払いを済ませ今日も宿を利用する事をヤドシュさんに伝え、俺は宿の外に出る前に新しく覚えたスキルの実験をすることにした。



「【認識阻害】」



 スキル名を呼称すると体の周りが薄緑色の膜に覆われた感覚が伝わってくる。

 どうやらクーコもこのスキルの範囲内にいるらしく、俺の肩に止まった彼女の体も膜で覆われている。

 これで十分間はいかなる感知系のスキルや魔法が効かないということなので、その効果を確かめるべく宿の外へと出た。



 外に出ると、数メートル先にある街の街灯の柱部分にもたれながら宿を見張っているルインがいた。

 俺が宿から出てくるのを待っているようで、無感情な瞳から真剣さが伝わってくる。

 その熱意をもっと別の所に向けて欲しいものだと内心でため息を吐きつつ、彼女に近づいていく。



(ホントに見えてないのかな? おーい)



 彼女の眼前まで近づき、目の前で手を振るもどうやら見えてはいないようでずっと宿の入り口を目を皿のようにして監視していた。

 認識阻害の効力の素晴らしさを実感しつつ、真剣に宿を見張るルインを尻目に俺は街の散策に出かけることにした。








  ※今回の活動によるステータスの変化



 【プレイヤー名】ジューゴ・フォレスト



 【取得職業】剣士、鍛冶職人、料理人、盗賊、魔導師、鑑定士



 【各職業レベルと補正値】




 【剣士レベル37】

 

 《パラメーター上昇率》


 体力    +228

 力     +160

 物理防御  +148

 俊敏性   +87

 命中    +68




 【鍛冶職人レベル35】


 《パラメーター上昇率》


 体力   +217

 魔力   +85

 力    +138

 命中   +52

 賢さ   +60

 精神力  +111

 運    +8




 【料理人レベル33】


 《パラメーター上昇率》


 体力   +165

 魔力   +107

 力    +72

 命中   +60

 精神力  +66




 【盗賊レベル31】


 《パラメーター上昇率》


 体力    +145

 魔力    +68

 物理防御  +85

 俊敏性   +142

 命中    +107

 賢さ    +67




 【魔導師レベル7】


 《パラメーター上昇率》


 体力   +14

 魔力   +47

 命中   +10

 賢さ   +34

 精神力  +27




 【鑑定士レベル30】


 《パラメーター上昇率》


 体力    +90

 魔力    +90

 物理防御  +90

 命中    +90

 賢さ    +90

 精神力   +90

 運     +10


        


 【各パラメーター】         

 HP (体力)   1136(947)

 MP (魔力)   560(467)

 STR (力)    456(380)《+82》

 VIT (物理防御) 402(335)《+125》

 AGI (俊敏性)  286(238)《+75》

 DEX (命中)   474(395)《+48》

 INT (賢さ)   313(261)

 MND (精神力) 432(360)

 LUK (運)    42 (38)


 


 『スキル』



 【剣士】

 

  十文字斬り、身体能力向上、縮地、地竜斬、天空斬




 【鍛冶職人】


  鍛冶の心得




 【料理人】


  時間短縮




 【盗賊】


  気配感知、隠密、盗賊の心得




 【魔導師】


  魔道の心得


  魔法:ファイヤー、アイス、サンダー




 【鑑定士】


  鑑定士の心得、鑑定詐称




 【その他】



  認識阻害




 称号:勇猛なる者、武闘会の覇者、魔物の友、初級から中級へ

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